第56話 色彩の記憶


 んー、ナンパされてる女子を助けるほどの勇気が俺にあるとでも?

いいや、ある。(反語。違うか)


 「先輩。買ってきましたよ」


 先輩を取り囲んでいた3つの視線がこちらを睨んだ。

・・・さぁ、どうかな。


 「彼氏いんのかぁ」

 「残念」


 チャラい男たちは撤退していった。勝利!

予想外にあっさりと引き下がってくれたな。


 「あ、あの」

 「あ、先輩。大丈夫でしたか?」

 「うん。大丈夫、だけど・・・」


 視線を泳がし、そして上目遣いで。


 「その、ありがとう・・・・・・」


 おおぉ・・・・・・。

可愛い。


「あぁー、や。ていうか、ああいうのってホントにあるんですね」

「怖かった・・・」


 確かに、見た目チャラチャラした不良だったもんな。


「ま、とりあえずイカ焼き。買ってきたんで、皆のとこ行きましょう」 

「あ、うん!ありがと、彼方くん」


 


 アロラたちは、的当てやら金魚すくいやら、思い思いのことをしていた。

夏祭りエンジョイしまくってんな。

いいことだけども。

 盆踊りの曲が流れ、雰囲気が出まくってる中、俺たちは神社への階段を上り始める。


 懐かしいな。

いつかの夏祭りも、こうしてこの階段を登ったっけな。

ずっと前、ずっとずっと前の記憶だが。


 「懐かしいなぁ」


 「え?」


 俺の声が、俺とは違う声で聞こえてきた。

先輩の声だ。


 「ずっと前、ずっとずっと前にね。夏祭りで登ったんだ」

 「そう、なんですか」


 もしかしたら、すれ違ってたりして・・・。



 神社は、夏祭りならではの燈籠によって照らされていた。

縁側に腰掛け、それぞれが買った食べ物を頬張る。

 ふと、隣に座るアロラや先輩、山田たちの方を見たとき、彼女たちの顔がバッと照らされた。

続いて轟音。


 「うぉぉお!!花火始まったぁ!!」

 

 山田が喜色満面でガッツポーズ。

もう暗くなった空を様々な色で染め上げる炎の花が、咲いていた。


 「綺麗・・・」


 ぽつりとアロラがこぼす言葉に、全員が同意だった。

・・・・・・綺麗だ。


 『綺麗だね!!』


 ーーーーーーっ!?


 この場にいる誰が発したわけでもない声。

聞き覚えのある声。懐かしい声。

フラッシュバックのように、その一瞬が俺の脳内に映し出された。

 浴衣を着てはしゃぐ幼い少女。

打ち上がった花火。


 振り向いた少女の顔は、懐かしくて、でもいつも見慣れている。


 「東先、輩・・・・・・?」


 「ふぇっ!?な、何っ?」

 「あ、いや・・・・・・」


 間違いない。

先輩だ。昔の。

そうだ、覚えている。

俺と、先輩は・・・・・・。


 「どうした?彼方。ぼーっとして」

 「いや、なんでもないよ」


 首を振る俺とアロラの目が合う。

彼女は、静かに微笑んでいた。




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