<累計10,000HIT御礼>

今日という日が、私の人生最良の日です。


皆様の熱烈なご愛読により、本サイト「The video game with no name」が、開始から累計アクセス数10,000HITを達成しました。これも全ては読者の皆さまのゲーム愛、そして紹介したゲーム達の面白さの証拠。管理人として、喜びの気持ちでいっぱいです。


日ごろからゲームばかり遊んで更新が滞りがちな本サイトではありますが、ここまで続けてこれたのも、全ては読者の皆さまのおかげです。改めまして、日ごろのご愛顧に感謝を込め、お礼の言葉を述べさせていただきます。累計10,000HIT、ありがとうございました。


The video game with no name 管理人 赤野工作


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あー…ごめんなさい、酔ってます。今日、もう既にグッデグデの状態で、この文章を更新しております。あー、本当ごめんなさい。このサイトでは本当はあんまりこういうことをしたくなかった、どうせ誰も見てくれないとは思っていましたけど、不思議な事に数十人の物好きがこのサイトを見てくれている。だからこそ、だからこそにもっとこう…硬派なゲームレビューサイトとしてやっていきたかったのですが、結局はこんな私的な事を書いてしまっている。あー…ごめんなさいごめんなさい。皆さんが見てくれている事に、今、私は甘えております。


もうナノマシンも機能も停止されてる身体ですから、酔いもまわるまわる、数十年ぶりに泥のように酔ってますよ今。いやでもこれでいいんです、こうであるべき、こうであるべきです。嘔吐も出来ずに何が泥酔だ、意識も飛ばずに何が祝杯だ!あ…良くない良くない、完全に酔っ払いの戯言になってました今。こんなこと言いたいわけじゃない、こんなくだらない話の為に頑張ってサイト更新してるわけじゃないんです私は。意識が飛んで無くなる前に何とか、皆さんと、これを読んでいる皆さんとですよ!?私は祝杯をあげたいと思っていたんですよ!祝杯を、心のおける仲間たちと!


よくあるでしょう。新しいゲームを手に入れた時は、価値が分かる友人にゲームを見せびらかす。心の底から自慢して、心の底から羨ましがる。それが、ゲーマー同士の付き合いってやつじゃありませんか。ハッキリ言います。私と共通の趣味を持ち、今ここにこうして集まってくれた、揃いも揃ってボンクラゲーマーの皆さん。私の唯一無二の良き理解者である読者の皆さんに、私から、ささやかな自慢をさせてください。そして皆さん、出来れば、心の底から羨ましがってください。私を、記念すべき人生の節目を迎えたこの私を、羨ましがってください。


あー、能書きはいいや。とにかく、まずは、乾杯しましょう。ごめんなさい、何を書いているんだか自分でもよく分からなくなった。とにかく、ドキドキして仕方がないんです。本当だったら、こんなエントリ書くつもりはなかったんですけどね。皆さんに話が出来ると思ったら…、いてもたってもいられなくなっちゃって…。本当、こんなサイトやってなかったら、こういう決断には絶対いたらなかったと思います。しかし不運な事に…私には友人がいた。この喜びを分かち合えてしまう、同じ価値観を共有した、皆さんという友人がいた。


報告させてください。


本日、私は、人工脳移植の手術同意書に、サインを行ってきました!


ありがとうございます、乾杯!


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いやぁ…、ちょうどさっきまで、先週のエントリを読みながら、酒の肴に爆笑していたところだったんですよ。なーにが「本当に自分の脳を機械に移し替えるなんて可能なんですか?」だ。笑わせてくれる。大して容量もない脳みそのくせに、まるで脳みその中に高尚なデータが入ってるみたいな口ぶりで話しやがって!酒の肴にしちゃ…塩気が強すぎる。ゲームレビューサイトのコラムとしても…自分語りがキツすぎて胸焼けする。…許してください。本当に、「機械の脳になった人生」が何を意味するのかが、分かってなかったんですよ、過去の私は。


まるでそれが、なにやら得体のしれない非人間的な行為だとさえ、正直言って、感じていました。昨日までの私は…、遅れた野蛮人だったんです。 知らない技術を前にして、貧しい知識をかき集め。仮想の恐怖を想像し、毎日震えて泣いていた。 こんなもの… 遅れた人間の迷信騒ぎと言わずして、これが一体なんだというんです。


聞いた話によれば、そもそも脳停止の患者が人工脳移植を選択したケースなんて、日本じゃいまだにただの一件も無いそうじゃありませんか。まぁ、それも当たり前の話でしょう。昨日までの私が良い例ですよ。脳停止の患者なんて…、長生きし過ぎた年寄りばかりなんです。みんな、長く生きてきた中で、捨てられない過去ばかり大切に抱えこんでしまっている! そうした連中にとってみれば、人工脳移植は手術なんかじゃありません。過去の全てを賭けて、未来に生きる。一世一代の大博打ですよ。


機械になって感情を失うのか、老いて衰えて感情を失うのか。どうせゲームが楽しく遊べなくなるのなら…、このまま過去のゲームに囲まれて、年寄りらしく衰えて死ぬのが一番だろうと。本気で、そう思っていました。ハハハ、笑わせてくれるわ。


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そもそも皆さん、人工脳移植手術って、どういう手順を踏むか、ご存知でした?


いや、大丈夫ですよ、知らなくても全然大丈夫。何せこの私自身、今日までそんなことはさっぱり知りませんでしたからね。私の持っていた人工脳移植のイメージなんて、拘束具みたいなものに身体を縛り付けられて、脳みそをカッポリ外されているようなイメージくらい。こんなもの考えれば考えるほど吐き気がして、どんな人間が好き好んで手術を受けるんだよって知識しかありませんでしたから…!とは言っても、皆さんの知識だって、おそらく私と大して違いはないはずでしょう?良くて拷問、悪くて人体実験でしょう?脳みそをちゅるっと吸い取られるみたいな?違いますか?


それでいい、それでいいんです。ゲームレビューって言うのはやっぱり、楽しみ方を知らない人に楽しみ方を伝えるものじゃなくっちゃ。皆さんが人工脳移植手術を知らないって言うんであれば、レビュワーの私としてそこまで都合の良いことはありません。実は今日、私は病院で、この人工脳移植手術のデモを体験してきたんです。そして…、思ったんですよ。私はどうしても、この人工脳移植手術というゲームを遊んで、このゲームの面白さを皆さんにレビューしたいって。思ってしまった、本当に、馬鹿な話だとは思うんですけど。それは手術と言うよりは、私の眼には、ゲームにしか見えなかったから。


笑っちゃいますよ本当。誰も遊んでいないゲームを見つけると、先に遊んでその面白さを伝えたいって、ゲーマーとしてのクソみたいなプライドが判断力を鈍らせるんです!


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まず最初にですねぇ…、人工脳移植手術をはじめるとなると、「脳情報ダウンロード」を行う事になるんですよ。脳情報ダウンロードってのはその名の通り、脳をスキャニングして中身をデータとして取り出しちゃうって言う過程の事ですね。ゲームで言ったら…うーん…そうだなぁ…一番最初のキャラクター作成ってところですかね!いや何もこれ、不謹慎な例えってわけじゃないんですよ? なにせ脳情報ダウンロードってのは、お医者様から言わせれば「完全に脳内の情報をデータ化できる」ものらしいですが…、実際にはそうはいかない。つまり、ランダム要素があるんです。


脳内の「情報」のダウンロードは可能でも、脳内の「人格」のアップロードは出来ない。いや「理論上」は出来るはずなんですが…。100%を目指して再現された人工人格も、結局元の人格からは5%程度の相違が生まれてしまう。現代の科学じゃあ、人工脳上に転生した人間は、5%分の初期ステータスが勝手にランダム配分されてしまう仕様らしいのです。もちろん患者側にしてみれば5%も異なる人格を自分の脳に入れるなんてたまったもんじゃありませんから…、自分が納得がいくまで、何度も人格を作り直すことが可能なんだそうですよ。


もう笑っちゃいましたよ、そんな、初期値厳選の為のリセマラじゃないんだから。あ、「リセマラ」は分かんない人の方が多いか。検索してください。要はステータスの高いキャラクターでゲームを始めるために、何度も何度もゲームを一から始めてキャラクターを作り直すっていう、賽の河原みたいなプレイスタイルのことです。


自分の脳をスキャニングして作られた人工人格は、「現実そっくりに作られた仮想空間」にて行動テストを受けることになります。実際の身体に移しこむ前に、本当に問題なく行動が出来る人格か、仮想空間で「生きるテスト」をされるってわけですよ。大体の場合において「5%の相違」ってのは…、人工人格が現実感を失ってしまっている事に起因しているんだそうで。問題のある人格はたいてい、現実を現実と認識できなくなり、この仮想空間内でNPCに暴力をふるったり性的な悪戯をしたりするそうですよ。つまり…、現実で出てきても、同じことをする危険性がある。


面白い、面白いとは思いませんか…!まるではじめて遊んだゲームの中で、NPCをとりあえずぶん殴って反応を確かめているみたい!まずいなぁ、これはまずい!私だったら100%殴っちゃう。お尻だって撫でまわしますよ!だってゲームでそうしなかった事が、人生で一度も無いから!しかし一度でもそういう行動を働いた人工人格は「再現失敗」という扱いを受けて…、その場で削除されてしまうんだそうです。狂った人工知能に人権を与えるわけにはいきませんからねぇ。移植手術を受ける本人には、自分が納得いくまで人格を作り直す権利が与えられるってわけですよ。


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実際今日遊んだ体験シムでも、脳情報から人工人格を作製するシミュレーションを行ったんですが…。まぁ、体験シムに過ぎないことは分かっているんですけどね。私の場合、一致率90%を超える人格すら作れることはありませんでした。笑いましたよ。仮想空間ってのは基本的に、患者に馴染みの深い場所を再現してもらえるらしくて。私の場合は老後の一時期を過ごした沖縄が選ばれていました。しかしねぇ、私の人工人格はどいつもこいつも、仮想空間内の沖縄の街でこれでもかってくらい大暴れしてくれるんです。暴力暴力また暴力ですよ、ハハハ。笑えるかこんなもん。


いや、やっぱりあれは笑うしかないな。仮想空間に再現されるや否や、その辺の女性のパンツを覗き込んで反応を確かめたり、建物と建物の境目に身体を押し付けてオブジェクトの判定漏れを探し出したり。私自身の事だから分かるんです。きっと人工人格の私は、現実と仮想現実の区別がついていなかったんでしょう。自分がゲームの中に転生したと思い込んで、ゲームの中と同じ行動をとっていたんだと思います。何故なら、私だったらそうする自信があるから。よくやっちゃうんですよね。人をまずぶん殴って、「作りこまれてるなー」って確かめるの!


人工脳を移植した後で、現実を現実だと認識できなくなり、女性のパンツを覗いて反応を確かめたり世界の当たり判定のバグを探そうとする人工人格ですか…。ハハハ、ゲーマーとしては正しい。正しいですが、失格、失格に決まってますよあんなの。


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移植用の人工人格さえ出来上がってしまえば、手術なんて一瞬で終わりますよ。


手術準備の完了した患者は、手術数日前から身体を「脳を取り出しやすい」状態にするため、一部の薬品を飲んで意識を薄れさせる段階に入ります。「脳を取り出しやすい」状態になんて言うと恐ろしくも聞こえますが、移植手術が決まった人間というのは誰も彼も「激しい吐き気」に襲われるんだそうで、ようは意識レベルを低下させる「酔い止め」を飲んでいるわけです。脳からしてみれば自分が殺されるのも同然の手術ですから、せめてもの抵抗に吐き気を催させるんでしょう。患者が吐き気も分からないほどグッスリ眠ってしまえば…、手術の開始です。


そうだ、手術台。手術台がまたこれ、一目見て感心しちゃったくらい面白くてですね…。人工脳移植手術は、簡単に言えば「既存の脳を取り出して人工脳を入れる」という手術。BMIインプラントの手術も似たようなところはありますが…、この手の脳を弄る手術は横になって手術を受けると体液等の漏れ出しが激しく、患者は垂直に固定されて手術を受けることになります。人工脳移植用の手術台は、まさにその特化型。一見して仰天しましたよ。その見た目はほとんど拷問器具!垂直な柱に、頭を縛りつけて固定するって形なんです。


ポールに上半身を固定された患者は、頭にかぽっと葉っぱのような施術器具を被せられます。葉っぱが真っ二つに折りたたまれていくように、順番に患者の頭を包み込んでいく。そして合図とともに意識がぷつんと途切れると…、脳の摘出と、人工脳の移植が行われます。人工人格の選出は人によっては一年以上もかかるんだそうですが…、今説明した実際の手術は、たかだか120分で終わるんだそうですよ。120分。体験シムで見た映像はもちろん再現映像ですが、それは見事なものでした。脳をカポッと取り出して、人工脳をカポッと入れてるだけでしたからね。


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手術が成功した後は、人工人格を仮想空間から現実に引き戻し、現実社会に復帰するためのリハビリテーションが行われるんだそうです。しかしながら生まれて初めて現実を体験する人工人格は、初めて体験する現実に「酔って」しまうんだそうで。歩き方は知っているはずなのに、最初のうちは感覚や感情が溢れすぎて、まともに立ってもいられないそうです。ヨチヨチ歩く姿は…、生まれたばかりの赤ん坊ってところですかね。感覚が少ない仮想現実に慣れきってしまった人工脳に、初めて体験する現実の新鮮さは、ちょっとばかし刺激が強すぎるんでしょう。


死の間際に体験する走馬燈や光の溢れるビジョンの事を「臨死体験」って言うじゃありませんか。これは差し詰め「臨生体験」。この世の中には「現実」とは別の「もう一つの現実」があって、そこに転生するには「もう一度生まれてくる」必要がある。この世に再び生を受けるための仮想の臨生体験を、私はしなければいけないってことですよ!全てを知っているのに、全てを体験したことがない。つよくてニューゲームで、もう一度オープニングムービーを見るかのように!!


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あー…頭痛くなってきた。喋りすぎた。吐きそうだ。しかし…、心地の良い吐き気だ…。体に貯まった悪いものの全てが、流れ出ていくかのような。


もしかして、ほとんどの皆さんにはもう私の言いたいことが分かっちゃったのかな…。いやー、分かってるんだろうな…。分かっても仕方ないと思うんですよね。私も手術の映像を見た時、もう笑いを堪えるのに必死でしたもん。いや、そう言うとなんだか私が我慢出来てたみたいに聞こえちゃうな。実際は笑いなんか堪えられなかったんで、随伴していたオペレーターの人に何個も何個も質問してしまいましたよ。


まずは、「手術中、患者には何が見えているのか?」ですね。答えは、「人工脳への接続が成功したところで、仮想空間内の沖縄での生活を夢として見ていると思います」だそうです。この時点ではまだ我慢できてたかな。


続いては、「手術中、患者の身体からは汗や涙は流れるのか?」ですね。答えは、「汗や涙は流れません、患者の意識に影響を与えかねないため、即座に取り除かれます」だそうです。なるほど、流石は最先端技術と感心してしまいました。


最後は、「手術中、患者は口が開きっぱなしになっているのか?」ですね。答えは、「開きっぱなしになっていますが、お望みなら閉めておくことも出来ます」だそうです。流石に、もう笑いが堪えられませんでした。


「口が開く」と言われちゃ、体験しないわけにはいきませんからね…。


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私は昨日まで、「機械の脳になった人生」が何を意味するのかが、まったく分かっていませんでした。ただ、もう今ならはっきりとその意味が分かる。分かっちゃった、私には分かっちゃった。分かっちゃったんです。このゲームの楽しみ方というものが、私にはもう完璧なまでにはっきりと分かってしまった。酔っ払いの戯言じゃありませんよ、もう間違いない、疑いようがない。


だってこれ、「人工ヒメゴコロ」でしょ?


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いやだってそうでしょ、そうとしか思えない。他の人間たちは騙せても、人工ヒメゴコロ完全クリア者である私を騙そうたってそうはいきませんよ。


ヘッドマウントディスプレイを装着し、仮想現実を体験する。そこには昔懐かしい沖縄の景色が広がっていて…、プレイヤーはそこに生きる人々にどう接したかを判定されていて、それによりエンディングが分岐する。もうこれは完全に、人工ヒメゴコロでしょ。遊んでると酔っちゃうから酔い止めを飲まされて、ゲームプレイのためには柱に縛り付けられなくてはならない? はいはい。極めつけは、ゲームを遊び過ぎるとゲーム内の物理法則に慣れ過ぎて、現実で歩く時にもふらついてしまう。はいはいはいはい。ここまでやられたら…、流石に露骨すぎやしませんかね?


やりすぎやりすぎ、やりすぎですよ。今朝はあれだけ暗かった気持ちが、あまりに嬉しくなっちゃって一瞬で吹き飛んじゃいましたもん。汗や涙をかいてしまうとプレイヤーの意識レベルが不安定になるので、意図してそれを取り除く仕様になっている。これ完全に人工ヒメゴコロが「汗や涙ですぐに現実に引き戻されちゃう」と言われた低評価なポイントを意識してますよねぇ? 手術時間が120分。これ完全にに人工ヒメゴコロが「1プレイ最短2時間」と言われた低評価なポイントを意識してますよねぇ? わかるわかる、私には分かるんです。


そもそもの話、人工ヒメゴコロはかつて、「仮想現実の中に入る」という人類共通の夢を実現したVRゲームだった!しかしどう頑張っても完璧には現実を忘れさせることが出来ず、酔いと吐き気で低評価になったまま社会に忘れ去られてしまった!それが今、こうして完璧に現実を忘れさせる技術力をもって、蘇っている。


どうしたって確かめたくなっちゃうでしょう…。 VRゲームの面白さは、ヘッドマウントディスプレイを装着したプレイヤーが「口を開けたまんま」になるかどうかで決まるんです。それを、堂々と、あんなに自信ありげに、「開きっぱなしになっていますが、お望みなら閉めておくことも出来ます」なんて言われたら…!


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あーそうです、酔ってる、酔ってますよ私は。酔っている、それの何が悪い。


ただ、聞いてください。別に私だって、人工脳移植が人工ヒメゴコロそのものだなんて思っちゃいませんよ。思っちゃいません決して。そんなね、多少共通点があるくらいの事で、いや多少どころじゃなくてたくさんあるけど…。いや、そんな、人工脳移植をゲームと思い込むなんてことがあるわけないでしょう!? 嘘、ちょっとは思ってる。これは運命の巡り合わせかなとちょっとは思った。いやでもそれは関係ない。論理的に、そんなことありえないですから。


ただ…、私は。人工ヒメゴコロを人工脳移植に重ね合わせてみる事で、「機械の脳になった人生」というものの意味自体について、気が付いてしまったのです。


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私は昨日まで、「機械の脳になった人生」が何を意味するのかが、まったく分かっていませんでした。自分から感情の全てが奪われていくようで、想像するだけで吐き気が止まらず、それがまるで緩やかな自殺の様にさえ思っていました。


しかし、今こうして考えてみると…、人工ヒメゴコロも人工脳移植も一緒ですよ。


私には夢がありました。


それは、ゲームの中に入りたいという夢です。


笑っていただいておおいに結構、哀れな男の戯言だと思って聞いてください。冒険がある、恋愛がある、選択がある、決断がある。ゲームに半生を捧げたこの人生の経験が、いっそゲームの中に入れたらと、私にそう訴えかけるのです。


人工ヒメゴコロを買ったのは、それを遊べばゲームの中に入れるんじゃないかと思ったからです。しかしながら、結局私はゲームの中に入ることは出来ませんでした。汗が流れる涙が流れる。どうしたって吐き気を止める事の出来ない私の身体は、仮想現実の世界に入り込んでしまう事を拒否しましたから。


昨日までの私は、人工脳移植を拒否しようと思っていました。それをやってしまったら、ゲームの楽しさが分からなくなるんじゃと思ったからです。しかしながら結局のところ、私はじきにゲームを楽しめなくなります。汗も流れず涙も流れず。サイバネティクスで無理に寿命を延ばした脳が、そろそろ限界を訴えていますから。


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「機械の脳になった人生」は、現実を非現実として生きるって事じゃありませんか。

プログラミングとなった脳では、現実もデータとしてしか認知が出来なくなる。


仮想現実技術がいくら進歩していると言っても、結局のところゲームはゲームでしかありません。現実のように無限の工数をかけて作り上げられるわけでもなければ、現実を捨て去ってその中で生きていけるわけでもない。もう私は諦めました。ゲームがもし仮に現実だったらと期待することは、とっくに諦めました。


シミュレーション仮説がいくら真実のように語られていたとしても、結局のところ現実は現実でしかありません。ゲームの様に何かが都合よく進むわけでもなければ、不条理なルールやバランスが修正アップデートされるわけでもない。もう私は諦めました。現実がもし仮にゲームだったらと期待することは、とっくに諦めました。


現実をゲームにするのは不可能。

ゲームを現実にするのは不可能。

現実をプログラミングすることは出来ない。

プログラミングを現実にすることは出来ない。


何をどうしたところで八方ふさがり、この世は闇に閉ざされている!


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しかし、私にはまだ最後に一つ、「ゲームの中に入りたい」という夢をかなえる事の出来る、最後の選択肢が残っている。かもしれない。


私自身が、プログラミングされた存在になってしまえばいい。


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考えるだけで楽しくなってくる…これはすごい、笑える、笑えて仕方がない。


いくら現実がゲームで無かったとしても、私自身がプログラミングとなって現実を生きられるなら…、私の主観からしてみれば現実はゲームと現実に違いなんてありはしません。現実のルールは変わらなかったとしても、プログラミングとなった私自身のルールは簡単に変えることが出来てしまう。認知も、感覚も、ユーザーインターフェースも、何もかもを自由自在に変えることが出来る。認知とは、たかがデータの受け取り方の違いでしかない。人工脳なら、それは自由自在になる!


いいぞ、いい、素晴らしい、MODだ、人生にMODを入れることが出来る!!


人工脳となった私には、五感という入力情報の制限はありません、見聞きするすべてにシステム画面をつけることだってできる。この世に2次元美少女が実在していなくたって、もう嘆く必要なんかありません。現実のテクスチャを張り替えて見えるようにして、この世の全員を萌えキャラにでも見えるようにしてしまえばいい! どうせ機械となった脳が見ているものは、「光景」ではなく「データ」でしかない。私がデータをどう見ようと、それがゲームのルールじゃありませんか!


素晴らしい、素晴らしすぎる、人生はやはりゲームであるべきだった。


よく考えれば記憶だって完全に書き換え可能になるんだから、人生にセーブ&ロードが可能になる。辛いことがあった時は、記憶をロードしてなかったことにできる!何度死んでも何度やられても、データが残っている限り平気で復活して遊びなおすことが出来る。流石に失った資産は次のプレイの持越しされてしまうけど…、まぁそれはほとんどのゲームでそういうもんだから仕方がないでしょう。笑いがこみ上げてくる、初めてなんです、こんなこと。自分の未来が、輝いて見えてくるだなんて。


だって、絵空事じゃあないんです、これは。出来るに決まってる。だってそれらは全て、人工ヒメゴコロで既に搭載されている機能じゃありませんか。私は今、現実をデータとしてしか捉えられない存在に生まれ変わろうとしている。ハハハ。凄いや。ゲームの中で生きるって、どういう気分になるんだろう。ゲームには人生の目的がある。理由もなくこの世に生を受ける現実とは違う。目的をもって生きるという事が、自分の人生にはただの一度してなかったから。それがどういう気分になるのか、まったく想像がつかない…!


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現実がどれだけ現実であったとしても、それを認知している私自身がゲームになってしまえば、私の認知上においては現実はゲームとしてしか存在が出来なくなる。


なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだ。


私は現実を生きている現実の存在だから、現実を現実として生きなくてはならない。


私がゲーム内キャラクターなら、現実はゲームとしてしか体験できない!


人工脳になれば、私は、ゲームの中に入ることが出来る!


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乾杯しましょう。乾杯してください。

今日、私は晴れて、ゲームの中で生きる決断をしてきました。


なんでしょう。今だって、不安がないわけじゃないんです。機械となった脳は、「楽しさ」を理解できないかもしれない。その不安はむしろ、「人工脳になる」ことが「ゲーム中で生きる」も同然の事なんだと分かった時、確信に変わりました。


「現実がゲームになってしまえば楽しく生きていけるかも」って発想は、「ゲームが現実になってしまえばつまらなくなってしまうかも」って発想の裏返しなんです。ゲームの中のキャラクターたちは、自分がゲームの中で楽しく生きているとは…、おそらく思ってはいないはずでしょう。彼らにとってゲームは現実であって、ゲームは現実じゃない。そしてそれはおそらく、私自身にも降りかかってくる。現実となったゲームを生きてなお、私がゲームを楽しく遊んでいられるとは…、そうとは、限りません。残念ながら。


機械の脳になれば、物理的に「楽しさ」を理解できなくなるゲームたちの事も、もちろん頭をよぎりました。私が大事に大事に保管してきた思い出のゲーム達は、その大半が生身の人間が遊ぶことを前提に作られていて、人工脳では原理的に遊ぶことが出来なくなってしまう。私の脳から脳波は発生しなくなり、全てのゲームは「思い出のゲーム」から「思い出」に成り下がってしまう。過去の全てのゲームを捨ててでも、未来に発売されるゲームを遊ぶ事には価値がある。そうとは分かっていましたが、思い出を捨てる決断をすることは…、あまりに、苦しい。


ハッキリ言って今だって、期待と不安は半分半分です。


新しいゲームを買うときは、いつも期待しかしないようにしているんです。常にそう思って生きてきました。しかし、ついには一度も、それを守ることは出来なかった。口では「期待している」ともちろん言ってはいましたが、どうしたって、人間ですから。不安を抱いちゃいけないと思えば思うほど、不安は脳裏によぎりますから。


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思えば私は、皆さんに「ありがとう」と言ったことは一度もありませんでした。


馴れ合い、好きじゃないので。


皆さんがどこからこのサイトを知ったのかは知りません。しかしそれを知りたくはありません。サイトの管理人と閲覧者には、お互い顔も素性も知らない間柄だから、適切な距離感が生まれる。私と皆さんをつないでいるものはただ一つ、同じゲームが好きという弱々しい共通の価値観だけで、今、私たちは繋がっています。


テレパシーも可能なこのご時世、わざわざ素性も分からないどこかの誰かのサイトにアクセスし、真っ白な背景に文字しか浮かんでいないテキストを読んでいるなんて、明らかに異常ですよ。 しかしながらこのサイトは不思議な事に、開設当初からずっと一定のアクセス数がありました。本当に、ありがたいことに。


皆さんは、どうやってここにたどり着いたのですか。

何が楽しくて今、このサイトをご覧になっていますか。

あなたは、どこの誰ですか。


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ごめんなさい…。あー、ちょっと深酔いしすぎたようです。忘れてください。


私はただ、読者の皆さんに、私と唯一価値観を共有してくれる友に、新しく遊べるようになったゲームを自慢したかったんです。皆さんに背中を押されて、皆さんに自慢したいがためだけに、このゲームを買う契約を、してきてしまいましたから。


自分でも分かっているんです。ゲームの中に入ることが夢だった。ゲームの中は何でもできて、自分がいつも主役でいられた。だから、ゲームの世界で生きていくために…、私は、人工脳移植をしたいと思っています。いかれてますよ。無茶苦茶だ。前例がない。どう考えても言っていることが無茶苦茶ですって、オペレーターにも言われました。医者もアドバイザーもサポートAIも。誰一人として、「ゲームの世界で生きていくのが夢だったんです」と言って、納得してくれる人はいませんでした。


私は気が弱いですから、おそらく、かつて私なら、そこで「はい、そうですね」って止めていたと思います。しかし、今日の私は…、どこか浮足立ったところがあって…、自分でも良くなかったとは思うんですが。「分かってもらえなくて結構」と言い切って、人工脳移植手術の同意書にサインを行ってきました。ハハハ、皆さんにも見せてあげたかったですよ。サポートAIが「分かっていない場合のヘルプを参照されますか?」とか口を挟んできて、その場の空気が凍り付いた時の雰囲気を。


おそらく皆さんなら、この面白さを分かってくれるでしょうから。


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私には、このサイトの読者の皆さんという、価値を共有できる友がいる。


私が「ゲームの世界で生きていける」と言って、それを心の底から羨ましがってくれる連中。たかがゲームに人生を捧げ、現実から目を背けて生きている。口だけ達者なゲーム中毒!哀れで惨めな成れの果て!今もまた、ゲームの話しかないようなこのサイトにアクセスしてくれている、救いようのないゲーム狂いども…!!


あー自慢だ、自慢です。そうだ、心して、私の自慢話を聞いてください。私は世界で88番目の選ばれたプレイヤーとして、ゲームの世界に行ける幸運な挑戦権を獲得しました。必ずや、このクソッタレな現実から抜け出し、見事ゲームの世界に入ってやるつもりです。どうだ、羨ましいか!羨ましいだろう!?


新作ゲームを手に入れられなかった奴の前で、思う存分遊んでやれる。今日、私は、もうずっと、胸が騒いで仕方がなかった。不安だとか。期待だとか。そういう話じゃない。ゲームを愛する皆さんが悔しがってくれること、自分が楽しいゲームを遊べるんだと人に自慢できること、それが心をくすぐってくすぐって仕方がなかった!


私は!!本日!!人工脳移植を決断しました!!

皆さんに、自慢したかったからです!!


大変だねとか、辛いねとか、心配の声をかけられるのは御免なんです。

新しいゲームを遊ぼうとしている奴に、心配の声をかける奴なんていますか。

皆さんには、心の底から、私を、羨ましがってもらいたい。


それが、私の為だと、思っていただきたいのです。


===


二度は言いません。馴れ合い、好きじゃないので。


このサイトにアクセスしてくださり、本当に、ありがとうございます。

あなた方がいなければ、このサイトは、とっくに閉鎖されていました。

ゲームの面白さを分かち合える友がいる、こんなに嬉しい話はありません。


累計 10000HIT  心より、お礼申し上げます。


2115/10/3 (Article written by Alamogordo)


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