第20話 初登校
藤巳が夕べ泊まった来賓宿舎は学生寮区画の中でも校舎区画に隣接していて、レベルのポルシェ、ブラーゴのフェラーリ、藤巳のシボレーの三台はほんの数分走っただけで校舎らしき場所に着いた。
塩湖の中に出来た広い島の中核な割にはちっぽけな石造りの平屋。藤巳が抱いた印象は田舎の役所。
校庭だけはやたら広く、そこに数十台の車、この世界ではドラゴンと呼ばれるものが停まっていた。
藤巳はこれから自分が学ぶ建物より、並ぶ車を注視する。種類は色々。メルセデスベンツのセダンやボルボのクーペ、スバルの四輪駆動ワゴン、ルノーの小型車。
希少車、高性能車の博物館というより、国籍も車種も見境無く仕入れた中古車屋の在庫置き場といった感じ。
並ぶ車はいわゆる自家用車と言われる車で占められ、業務車や競技車は無い。
一台分のスペースが随分広い駐車場といった感じの校庭。ブラーゴがフェラーリをさっさと空いてる場所に停めた。
レベルは車列の間を何度か往復し、二台分の空間がある場所にポルシェを停めてから、窓を開けて隣のスペースを指差した。
藤巳はポルシェの隣にシボレーを停める。逆隣は濃いグリーンのジャガー・タイプEクーペ。
ドアを全開にしても隣の車に当たらない、広い駐車スペースでシボレーから出た藤巳は、とりあえず校舎の入り口らしき場所へと歩き始めた。
既にフェラーリを降りたブラーゴは校舎へと向かっていて、藤巳とレベルを「早くしなさい」と急かしている。
校庭に並ぶ車の中でも珍しい、ほぼ競技車に近いポルシェのバケットシートから、ドア下を通る強化バーを跨いで下りたレベルは小走りで藤巳に寄ってくる。
待っていたわけではないが、この小さな体の女の子がポルシェの中から出てくる様が面白くて見ていた藤巳に、レベルは言う。
「トーミ、学校はこっち、わたしが連れてく」
小さいながら藤巳のお姉さま気取りのレベルが、先に立って歩き、なんだかんだで待っていてくれたブラーゴと一緒に校舎へと入っていく。
二人とも昨日会った時に着ていた白い詰襟シャツに白いスラックス、海軍の船乗りみたいな格好。セーラー服やスカートよりはドラゴンを操るのに適した格好だと思った。
頭の中で自然とドラゴンという言葉が出てきた藤巳は、自分の言い聞かせるように「車のことだ」と呟いた。
石造りの建物の入り口は重厚そうな両開きの木戸。ブラーゴはいつもフェラーリを扱う時のような腕力で片側を大雑把に開ける。
レベルがもう片方のドアを苦労して開けているので、藤巳が上から手を添えた。
建物の中に一歩入ったレベルは、自分が開けてあげたかのようにドアを押さえ、藤巳に手招きをする。
ブラーゴに急かされ、レベルに招かれ、藤巳はポケール、ドラゴンスクールの校舎に入った。
内部は外観同様に殺風景な石造りで、下に敷かれた赤い絨毯がかろうじて彩りを添えていた。
左右の壁には張り紙らしき物が幾つか掲示されていた。藤巳はそれとなく目を走らせながら通りすぎる。
内容はやはり知らない文字なのに読める。教務課からのお知らせ、とか、ピクニック部入部案内、とか、洋服箪笥譲ります、とか、さほど重要なものでは無い様子。
狭い建物。入って少し廊下を歩いた先のドア前にブラーゴは立つ。今度は軽いドアを開け、さっさと入っていく、レベルがいつのまにか藤巳の後ろに回り、弱めの力で背中を押した。
藤巳が通ってた日本の中高の教室より少し広い。学校というより教習所や免許センターを思わせる部屋。
その割りに机の数は少なく、黒板のある教壇前のスペースが広く空いていた。
ブラーゴが言った通り遅刻寸前の時間だったらしく、席はほとんど埋まっていた。
教室にいた生徒の視線が、ブラーゴとレベルに挟まれて教室に入る藤巳に注がれた。
生徒たちは揃って、押し殺した声で同じことを言った。
「男!!」
教室にいた二十数人ほどの生徒は、全員が女だった。
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