肌色のアイスはベッドで踊る

「東京に行ったら一緒に死んでもらっていいですか」


「いいですよ。」


そう言うからはるばる東京まで来たのに。心中してくれるんじゃなかったの?


彼とはネットで知り合った。彼は私のこの乾いた生活の中で抱える様々な悩みに答えてくれた。夜中の4時にパニックになって電話を掛けても、優しい声で落ち着けてくれた。そうしてメグミはどんどん彼のことが好きになっていった。だからこうやって東京まで出てきたのだ。


彼は東京のコミュニティハウスに住んでいる。今流行のいわゆるシェアハウスだ。様々な男女が入り乱れて、一つのリビングとキッチンを共有して住んでいる場所。そこに私は上がり込み、彼の個室に居着いた。


メグミがバージンだということに彼は驚いていた。今時○○歳にもなって処女というのは珍しい。だけど、厳しい親の元で言うことを聞いて育ってきた人間なら仕方ないじゃない? 親元を離れて一人暮らしを始めても私には彼氏というものができた試しがなかった。私自身、簡単に肌を許すことには抵抗があった。でも、彼のことは本当に好きだったから。求められて嬉しかったから。


メグミが彼の部屋で寝泊まりをするようになってから、彼はメグミと話さなくなった。私が部屋の隅で泣いていても、彼は知らんぷりをしてパソコンの画面から目線を外さない。心中は仕事が忙しいからと取り合ってくれなかった。それどころか心を開いて話し合うことさえ一度もなかった。結局、親密な時を分かち合えるのはベッドの中でだけ。彼が私に求めていたのはそれだけだったのだ。もうこんな生活は続けたくない。こんな、形ばかりで空虚な毎日は。死ぬために東京へ来たのに。いっそのこと地元に帰ってしまおうか。……そこでメグミは絶望した顔で頭を振る。


彼と離れたくない。


彼のことが大好きだ。どうしようもないぐらいに。


お昼。カップラーメンを作りにキッチンへ向かう。お湯を沸かしてカップに注いで3分待つ。リビングでズルズルとラーメンを啜っていたら、シェアハウス住人の一人が私に話しかけてきた。大人びた雰囲気の女性のこのお姉さんは、シェアハウスの中でも慕われているように見える。お姉さんは私よりもスタイルが良く露出の多い格好をしている。メグミはなんだか自分の麺棒のように起伏のなくてダラシない身体がお姉さんのグラマラスな身体と対比されるようで、心が身構えた。


「メグミちゃん。あかん、あかんでぇ。こんなことしてたらアカン」


「……。」


お姉さんは柔らかいが厳しさを含む声で私を叱責した。赤いマニキュアが塗られたお姉さんの手がメグミの手に重ねられる。


「アイツはなぁ。メグミちゃんのことなんかこれっぽっちも想っとらへん。こんなとこでこんな生活を続けててもしゃあないんちゃう?」


「……私の選んだことですから。」


「何言われて来たんかわからんけど、メグミちゃんの望むものはここでは手に入らんと思うんよ。」


お姉さんは私のことを心底心配した様子で優しく語りかけてくる。


「……。」


「アイツは、病んで判断力のない人間に優しい声を掛けて、釣り針に魚が引っかかったら釣り上げて食うだけの奴や。メグミちゃんは判断力が弱くなったところを引っ掛けられてええようにされてるだけや。お姉ちゃんにはそう見えるでぇ」


「それは……。」


「帰る金が無いんか。お姉ちゃんが貸したる。返すのはいつでもええから受け取っときなさい。はいこれ。」


お姉さんは封のされた無地の封筒を私の手に握らせてきた。こんなものまで用意してたのか。


「一回家に帰って頭を冷やして、自分が何をしたいのかよく考えなさい。」


お姉さんは言いたいことは全部言ったのか、お金を私に押し付けるとリビングから去っていった。


私は握りしめた封筒を見ながら思案する。このお姉さんは私よりも多く場数を踏んできていて、そうしてこういうアドバイスをしてくれたのだろう。だけども、彼女がそうやっていろいろな経験をこなせて来れたのは何故かしら。


顔が可愛いことやスタイルが良いことは人生の関所における通行手形のようなものだ。これが欠けた人は人生の次のステップに進めない。メグミは悔し涙をポツポツと拳の上に垂らしながら、今日限りでこんな生活は止め地元に帰る決断をした。



そうして私は地元へ帰った。そしてある日『若いジブンの型取りサービス』をインターネットで発見したのだ。


『若いジブンの型取りサービス』は、若くてスタイルが良い時分に自分の全身の型を取っておき、数年毎に身体をドロドロに溶かして型に流し込み体型をリフレッシュするサービスだ。全身を美容整形するのとは一味も二味も違う。なにせ、身体の形そのものを作り変えるのだから。


そんな『若いジブンの型取りサービス』は私には関係ないと思っていた。だって、いくら型を取るったって若い時分にスタイルが良くなかったら意味が無いからだ。私はこのサービスのことはほとんど忘れていたのだが、ある時匿名掲示板を巡っているととんでもない情報が目に飛び込んできた。


「型取りサービスで取った型が取引されているサイトが有るらしい」


「あの有名な精巧ダッチワイフもその型取りサービスの中古の型から起こしたらしい」


「中古の型を手に入れれば、闇工場でその型に自分の身体を流し込んでもらって新しい身体になれるらしい」


ほとんど眉唾の情報ではあるが、私は自分の身体に対するコンプレックスもあってネットで検索をしまくった。そして見つけたのだ。中古の身体の型の販売サイトと、どんな型にでも身体を流し込んでくれる闇工場を。


私は販売サイトである型に惚れ込んだ。


まったく。もしこんな容姿であったなら、私はどんな人生を歩んできたんだろう。販売ページのサンプルを見ながら私は溜め息をついた。


型の値段は決して安くなかったし、身体を型に流し込む闇工場の料金は正規のサービスよりも高い。ただ私はこの身体を手に入れたくて必死に働いた。貯金なんて無い。仕事はいままで残業を引き受けずに定時で帰っていた。それを積極的に残業を引き受けるようにし、仕事の効率を上げる提案だっていくつか行った。そもそも無気力で日銭を稼いでは部屋で泣いて暮らしていたようなものだったから、増えた収入はそのまま全部貯金になった。そうしてメグミは1年足らずで型を買うお金と成形サービスを受けるお金を手に入れたのだ。


工場は不気味な田舎の外れにあり、一度東京へ出てから電車で2時間半も掛けて行かなければならなかった。だけども私の心はウキウキしている。


型の実物を工場で見たときはもっと心が跳ねた。セクシーな体型で、肌はきめ細かく、美人という顔立ちではなかったけど男を吸い寄せる魅力に満ち溢れている。鼻はツンととんがっていて高く、唇の芳醇さはいかにもふっくらとして柔らかそうだ。その両端の延長線上に浮き上がったエクボは顔全体をチャーミングにしていた。


作業員の説明を聞いて、型で整形される準備に入る。大きな注射器のようなガラスのチューブに生まれた時の一糸まとわぬ姿になって入り込む。ああ、これで今までも身体とはオサラバだわ! メグミは処置を受けるのが待ちきれない。


作業員がスイッチを入れると、ガラス管の底面が細かく振動をし始めた。


ブブブブブブッ。


振動を受けた身体全体が小刻みに震える。足裏がかゆいような熱いような感触になってくる。ふと足元を見ると、小指の先はトロトロに溶けていた。粘っこい水溜りのようにドーム型のしずくを作っている。こそばい感覚は足元から全身に広がっていく。メグミはいつの間にか自分がハァハァと熱い吐息を出していることに気付いた。ドクドクと心臓も波を打っている。


「ああっ、ふわわあぁぁぁ!!」


足がトロケたことでバランスを失って私は倒れこんだ。するとより敏感な部分が振動床に直で触れる。


「っーーふっひゃあああぁあぁ!!」


突然の刺激にメグミは電気で通電されたようにビクンビクンと背筋を何度も痙攣させる。その勢いで肌色の水溜りはバシャバシャと撥ね散る。


「ぁっ……こんな、……んんぅ、こ、ぁ、ぁあああっ あぐぅ(ゴポポ)」


感極まった声を上げながら私は肌色の水の中に沈んだ。


ずずぅ、ずずずずずずずずうぅぅぅぅーー。


身体が全て液体化すると、ガラス管の底面に備え付けられた管にメグミの身体が吸い込まれる。そうして、ヒンヤリとした金属の型の中に身体が注ぎ込まれる。


型の中にぴっちりハマったものの、まだ身体は液体なわけで安定感がない。フワフワとした気持ちで金属のベッドの中に横たわっていると、少しずつ型の温度が上がってくる。


ジ、ジジジジジジジジジジーー。


最初は冷えた型が温められて心地良いぐらいの温度だった。だけどそんな温度はすぐに通り越して暑くなった。暑い。暑い。……熱い! 熱い熱い!! なにこれ、設定温度間違えてない!? まるでお祭りの屋台の人形焼きの気分だ。


熱い!熱い! もう耐えられない……! 身動きもできず身体全体が型で蒸し焼きにされている状態だ。メグミがほとんど諦めかけたところで、やっと熱するのが止められた。


ああ。やっと終わったのか……。それから6時間ほどメグミは型の中で粗熱を取られ、十分に冷却されてから取り出された。



「東京に行ったら恋人になってくれますか」


「いいですよ。」


そうして生まれ変わったメグミは大好きな彼に再び接触を試みた。名前をカオリに変えて、別人としてインターネットで再び出会ったのだ。今度こそは恋を成就させるんだ。あのお節介焼きのお姉さんには今度は邪魔させるもんか。


上京して再び彼に出会ったとき、私は彼のまなざし一つでたちまちのぼせ上がった。ただ彼の方はというと初めて出会った時と同じように、定型的な優しい顔で定型的な優しい挨拶とシェアハウスへ招く言葉を喋っていた。


この嫌な感触はすぐに悪夢として繰り返された。結局のところ、私は彼が何を企んでいるのかまるでわかっていなかったのだ。


ベッドの上での彼はそれ以外の時と正反対でまるで優しい。部屋に帰ってすぐにメグミは新しい身体を彼の前に披露していた。


彼は私をベッドの上に座らせ、私の新しいなめらかな胸の膨らみをゆっくり愛撫して、じっと見つめてくる。彼の愛撫はメグミを限界へと追い詰めていく。快楽に身を任せ、大好きな彼を求めるあまり思考も心も失ってしまうのを彼は待っているのだ。彼に屈してしまわないよう、メグミは全身を駆け抜ける喜びを必死に抑えこむ。すると彼の目に冷たい炎がやどり、繊細な手を私の胸から腰、腰から胸、胸から二の腕と這わせてきた。快感が否応なしに高まり、欲望が津波のように押し寄せてくる。こんなにも簡単に私を興奮させられる自分のテクニックに、彼は満足しているように見えた。


彼は片方の手で私に優しくタッチしながら、もう片方の手を自分のズボンに伸ばしてジジジジとファスナーを開けた。


「待って、こんなのはイヤ!」とメグミは叫んだ。


「カオリさん……。あなたはわざとオレを挑発したんじゃないの?」何が悪いのかわからないといった顔で彼が不満そうに私を見返す。


「ええ。」だって、彼が大好きだったから。「でもこんなんじゃ、単に性欲を満たそうとしているだけじゃないの。わたしはそんなのイヤよ!」


「互いが望んでいることさ」彼は私の二の腕をぐいと押さえつけ、いきり立ったそれをズボンの中からひねり出す。


「あなただけ服を着たままなんてイヤ!!」こんなんじゃオナホールやダッチワイフと変わらない。


「オレと愛し合うために東京へ来たんじゃなかったの?」


愛し合う……! ハ。セックスをすれば愛しあったことになるの? ハハ。新しい身体まで手に入れて、東京までやってきて。今の私はどんなに滑稽なことだろう。


まったく。一度目にこのシェアハウスに来たときとまったく同じことが繰り返された。彼の部屋に居着いて、会話もせずにセックスだけする毎日。私を抱いた後、彼はすぐ自分の世界へ帰って行った。同じ部屋に住んでいても私たちの距離は太平洋よりも遠い。


ある日、リビングで昼食にカップラーメンを啜っていると、シェアハウスの住人の別の男の子と出くわした。自分に自信がなく、オドオドしていて、明らかに童貞だ。シェアハウスへの闖入者がこんな美人で戸惑っていたのだろう。彼には色仕掛けは通じなかったけど、この童貞にならどうなのか。メグミは軽く童貞君を誘ってみた。彼はぎこちなく返事をする。メグミはもっと攻めてみる。彼はもっとぎこちなくなる。そうしてメグミはシェアハウスの童貞君とセックスをした。


次の日、私はあのお姉さんに蹴り出された。


「お前がやったことはなぁ、病んで判断力のない人間に甘い言葉を掛けてセックスだけしてるアイツと一緒や! 童貞君に性的防御力が無いのはわかってたやろ! お前は出て行け。そういう無責任な人間はここには要らんねん!!」



会ってすぐにセックスをしたのが失敗の原因だ。こちらに女性の魅力があるのだから、なにも進んでセックスを差し出す必要はなかったのだ。あの童貞君の引っ掛かりようを見てみろ。私は新しい身体による新しい人生をわかっていなかったのだ。彼の心をどうして掴めないのか、帰りの電車の中でメグミは必死に理由を探し求めた。


次は失敗しないようにしよう。私はまた別の職を見つけて働き出し、そうしてまた金型と成形サービスを受けるお金を作った。


ブブブブブブッ。


ガラス管底面の振動がメグミを溶かしていく。彼に愛撫されている時とはまた別の感覚。ザワザワした快感が足から頭まで突き抜ける。それと同時にメグミは身体の端から肌色の液体に変わっていく。


「あぅ、んん……あああっ!? ふぁああああーー!(ゴポポ)」


ずずぅ、ずずずずずずずずうぅぅぅぅーー。


肌色の液体は管へ吸い込まれる。


ああ、次はヒンヤリした金型へ送られるのだわ。と思っていたら、今度は違った。送り先は大きなタンクのようなものだった。どうして型に送らないのかしらと不思議に思う。


ぱた、ぱたた。ジョロロロロローーー。


タンクの上から液体が降ってくる。え? なにこれ? 甘ったるくてミルク臭い……。私の身体に何か不純物を混ぜて大丈夫なの?


するとタンクの中に棒が差し込まれグルグルと混ぜられ始めた。液状になってもかろうじて身体の原型を保っていたメグミは、ミルクとごちゃ混ぜになって身体がぐちゃぐちゃに練られていく。


「(なに!? や、やめて……! ひあぁぁぁぁ)」


身体全体がミルクの匂いになり、練られ続けたメブミは身体の組成がゆっくりと脂肪分主体のものになっていった。十分練られたメグミは、今度こそ型に注ぎ込まれる。


ただこの型も前回とは調子が違った。型の真ん中に、股の間から何か棒のようなものが胸まで貫通している。型も前回と同じように最初からヒンヤリとしていたが、だけどもそれからより冷やされたのだ。


「(ぅぅぅ……。寒いよ。。。)」


鉄の型の温度はどんどん下がっていく。私はブルブルと震えたいのに型に嵌められてどうすることもできない。そしてこの身体を突き抜ける棒! 冷えて身体が固まるにつれその異物感はどんどん増す。股から胸まで大きな棒で貫かれているのだ。


一体私をどうするつもりなんだろうか。寒さに凍えながら型枠の中で怯えていると、不意に枠が外された。十分に冷えて身体の中まで完全に固まったらしい。パコッ枠から取り外さられると、私は身体に刺さった棒によって全体重を支えることになった。


うえっ と嗚咽に漏らしそうになる。だけども私はカチカチに固まっていて動けない。身体に刺さった棒が異物感・不快感・そして奇妙な快感を身体の芯からもたらす。ロボットアームで棒を掴まれると、メグミは頭から大きなビニール袋を被せられた。まるで、大きな棒アイスのような……。


アームは今度は私を大きな箱の前に持ってきた。ひと一人がゆうに入りそうな大きな箱。「100%女性から作った等身大棒アイス」と書かれた箱……。全裸の女性の形をしたモノ言わぬ棒アイスは、アイスを溶かさないよう発泡スチロールが内張りになったその箱にパッキングされた。


「今日は面白いものを買ったんだ。みんなで食べようぜ」


果たして。私はあのシェアハウスに戻ってきていた。ただ、今度はアイスの新しい身体で。


彼がその等身大棒アイスを頼んだらしい。ただの偶然だろうか? それとも彼は全部知っていたのだろうか? 偶然か謀略かは私にはわからなかった。


大きなクール宅急便で等身大棒アイスはシェアハウスに届けられ、リビングで開封された。台座に棒を据え付けられ、全裸の女性の形をした等身大の棒アイスとしてリビングに起立している。目の前にはスプーンを持った彼、スプーンを持った童貞君、スプーンを持ったお姉さん、その他シェアハウスの住人やその関係者らしき人たちが周りでスプーンを持ってメグミを囲んでいた。シェアハウスのイベントなのだろう。ギラリと光る銀色のスプーンに私は恐怖する。こんなのを肌に突き立てられたら……。


「いや~よく出来てるね。この棒アイス。でもなんかイヤラしくない?」


「女性らしい柔らかい匂いもするよ」


「ねぇ。早く食べたい!」


「(そんな! みんな私を棒アイスだと思って……。私は人間よ……!)」


人々は口々に私の感想を述べる。アイスになった私の感想だ。


「よし。じゃあ始めよっか。オレが一番!」


大好きだった、身体は触れ合えても心までは触れ合えなかった彼がまず最初に名乗りを上げた。金属の鋭利なスプーンを迷わず乳房に突き立てる……。


「(んくぅ! 乳首が…そんなにしたら…… あ…… あ…… はぁああんんんんぅぅ!!)」


凍ってしまってもう心臓も動かないのに、私は嬌声をあげていた。


彼は切り取った乳首を口に運んで熱心に味わう。ふんわりした甘みにピリピリと女性の香りが舌と鼻孔を刺激する。乳成分と砂糖を黄金比率で配合されたメグミの身体は素晴らしい風味に仕上がっていた。


「うん~。濃厚な香りがすごくて鼻に突き抜けるようだ。みんなも食べて食べて!」


「(んっあぅ! そんなところを弄られたらあっ! ……あああっ!)」


彼の声を皮切りに住人たちや関係者たちは一斉にスプーンを私の身体に伸ばしてきた。あの童貞君やあのお姉さんもアイスの正体には気付いていないようで、無遠慮にスプーンを伸ばす手に交わってる。


「(はあ、はぁぁ、止めて、こんな、これ以上食べたらぁうううぅ……!)」


金属のスプーンで薄く一口サイズに削られ、それぞれの熱い口内で溶かされ味わいつくされていく私の身体。メグミは逃げるすべもなくただひたすら襲いかかってくる快感の波に身体が削り取られていくしか無い。


一体どこで間違えてしまったのだろう?


惨めな気持ちで自問した次の瞬間、自嘲的な笑いがほとばしった。バカだわ、あたしは! この恋愛は最初から間違っていたのよ。彼に入れ込むあまり気付かなかっただけ。そもそもこんな醜悪な一連の出来事を恋愛と呼べるのかしら。彼は私の身体にしか興味がなかったのだ。長いことかかってしまったけどついに私にも現実が見えてきた。ただそれは長すぎた、取り返しの付かないぐらいに。私はベッドでの相手に過ぎなかった。そもそも私たちは対等の立場ではなかったのだ。


メグミの目から涙のようなしずくがこぼれ落ちた。


スプーンの掘削機は皮下脂肪に達し、その中に隠されていた筋肉まで削り取る。今は均一のアイスとなっているから何もわからないが。


「(ふあぁぁぁ……ぁ……ハァ、ハァ、ぅううう。グスン。うぇえええん、グスッヒグッ。……ああっ ひああぁ……!)」


恐怖、寂しさ、快感。周りにこんなに人がいるのに、私は一人ぼっちだ。敏感に反応していた快感も、身体が少しずつ削り取られていく中で徐々に緩慢になってくる。それに伴って快感の中で木の葉のように舞っていたメグミの意識もぼんやりと薄れていった。



「いやぁ、期待していたよりも美味しくてびっくりしたよ」


「こんなに濃厚なアイスをこんなにも食べたら太っちゃうわ」


「甘さとクドい香りが、『私を忘れないで!』って言ってるみたいでジーンと来たね」


「美味しかったけど、なんだか寂しい気持ちになっちゃった」


女性形等身大アイスが全て食べ尽くされると、等身大棒アイス会食会の参加者たちは口々にアイスの感想を言い合う。その賑やかなリビングで棒アイスの棒はポツンと立っていた。白い木の棒はメグミの墓標のようにも見えた。

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若いジブンの型取りサービス ひでシス @hidesys

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