第3話 掛屋鈴の謎
掛谷鈴は、父親の仕事の都合やら何やらとかいう理由でこの春から我が2年5組にやって来た、いわゆる転入生ってヤツだ。
ストレートの長い髪を頭のてっぺんでクルっと大きくまとめた“おだんごヘア”が印象的で、これがよく似合っている。
くるくるとよく表情が変わり、愛嬌もあることから、新学期早々ウチのメンズ共のハートを鷲掴みにしている。……まあ、同姓からの評価はぶっちゃけあまり芳しくないようだけど。
そんな掛屋は、俺の通学路沿いにあるマンションに住んでいるらしく、登校中にバッタリと出くわすことがままある。
普段は「おはよう」と何気ない挨拶だけで終わるのだが、俺が英雄と一緒に登校している時だけは訳が違った。
彼女はよほど気があるのか、あれやこれやとまくし立てるようにしゃべりかけてくるのだ。無論、英雄にのみ、だ。俺のことなど全く眼中にない。
この日も、どこそこのスイーツが美味しかったとか、昨日観たドラマがどうのこうのとか、そんないつもと同じような会話が繰り広げられる……と思いきや、少し趣が異なっていた。
「ねえねえ、そういえば土生君って、ビデオゲームとかで遊んだりはしないの?」
ゆるふわ系女子の口から飛び出すには、なかなかにギャップのある内容だった。
特に“ビデオゲーム”と、敢えてアナログゲームと区別するかのような表現を用いたことに強い違和感を覚えたが、そんな俺の思いをよそに話は進んでいく。
「ゲーム? 最近は遊太郎と遊ぶ時ぐらいしかやらないかな」
「そうなんだ~! ちなみにどんなジャンルのゲームが好き?」
「俺、サッカーやってるし、やっぱりスポーツゲームとか」
そう、数日前も2人で日本代表としてワールドカップ優勝を成し遂げたばかりだ。
「ふ~ん……」
一瞬、掛屋の表情に陰りが見えた気がしたが、すぐに元の笑顔に戻り、
「RPGとかは?」
と、今度は随分とピンポイントな質問をしてきた。まるで何か探りを入れているかのような……。
「あー、昔はよくやったよ。な、遊太郎!」
「へっ!? お、おう……」
急に話を振ってくるからキョドっちまったじゃねーか!
「じゃあさ! 土生君ってRPGやる時に、アイテムをゲットする為に村の隅々とかまで調べちゃったりするタイプ?」
あ~、いるいるそんなヤツ。俺もそうだし。つーか、プレイする人の大半はそうだろ。
……と思いつつも、俺は知っていた。数少ないレアケースがここにいることを。
「いやー……実は俺、苦手なんだよね、そういうの」
英雄は頭を掻きながら言うと、
「何ていうかその……たとえゲームの中とはいえ、他人の家のタンスを漁るようなマネだけは、どうしてもしたくなくてさ」
と続けた。
そう、我らの英雄君は、ゲームの中でも紛うことなき好青年なのである。
こういうクソ真面目なところがまたコイツの魅力だったりするんだよな、と俺は俯きながら苦笑した。
「それにほら、そういうのって面倒じゃ――」
そこまで言ったところで、英雄のしゃべりが急にそこで途切れた。
俺は不審に思い、顔を上げる。
掛屋の手が、それを制するように英雄に向けられていた。
その表情はそれまでとは打って変わって、いつになく険しい。
車の走行音や小学生がはしゃぐ声の中に生じる、一瞬の静寂。
ややあって、
「……そう。もういいわ。結構」
と言い放つと、掛屋は俺たちにくるりと背を向け、学校とは逆の方向へと歩き出した。
呆気にとられる俺と英雄。
「……掛谷のやつ、どうしたんだろ」
英雄が言った。むしろ俺が聞きたいぐらいだ。
「俺、何かマズいこと言ったか?」
正直、全くそうは思えなかった。
だがしかし、英雄の発言に含まれる何らかの要素が、掛谷を豹変させたことは間違いなさそうだ。
「ち、ちょっと様子見てくるわ!」
俺は英雄にそう告げると、突き動かされるように掛谷の後を追った。
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