第2話 最強の幼馴染

 俺には、幼馴染がいる。


 とは言っても、毎朝登校前に勝手に部屋に上がりこんできては、

「も~っ! 早くしないと遅刻しちゃうぞっ!」

 なんてふくれっ面で寝起きの俺を起こしてくれる美少女とか、そんなモノでは断じてない。むしろマッチョなヤローだ。


 そのマッチョ……もとい土生はぶ英雄ひでおとは家が隣同士ということもあり、俺が物心ついた頃にはもう、アイツの存在は俺の生活の一部になっていた。

 小学生の頃は近所を裸足で駆け回ったり、林の中に秘密基地を作ったりして遊んでいたものだ。


 ……にも関わらず。

 何故だろう。同じような環境で同じように育ってきたはずなのに、俺と英雄はあまりにも対照的だった。


 まず第一に、俺は足元で静止しているボールすら一定の割合で蹴り損なうほどの運動オンチだが、英雄はリフティングしながら階段を上り下りすることなど造作も無いレベルのスポーツマンだ。

 アイツとは通っている高校も同じなのだが、入学の経緯ひとつとっても、俺は前述のように滑り止めとしてだったのに対し、英雄は全国有数のサッカー強豪校に特待生として入った、という違いからもそれは明らかだろう。


 次に、交友の幅に差がありすぎる。

 俺は生来人見知りが激しく、他人になかなか心を開けない性格も手伝って、胸を張って友人だと言えるのは英雄ぐらいしかいないのだが、アイツは部活の先輩・後輩やクラスメイト、果ては先生に至るまで、スクールカーストなどお構いなしに誰とでも気さくに接する為、とにかくウケが良い。

 周りの誰に聞いたって、アイツを嫌いなヤツなんていないはずだ。


 そして何より決定的なのは、能面のような顔をした俺と違って、英雄はハッキリとした目鼻立ちのイケメンだということだ。


 もし神様ってのが本当にいるんだとしたら、相当ひねくれた性格に違いない。

 じゃなきゃ、こんな絵に描いたような好青年と、俺みたいなの能面を幼馴染として設定するはずがないからだ。


 ……とまあそんな感じだから当然、英雄はモテる。それはもう、ドン引きするぐらいに。

 アイツにカノジョがいると知っていても、言い寄ってくる女子は後を絶たない程だ。


 あの女――掛谷かけやりんも、はじめはそんな女子のうちの1人だと思っていた。

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