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Mr.S

第1話 プロローグ

 唐突にこんなことを言われても面食らうかもしれないが、“ごく普通の男子高校生”というものを思い浮かべてみてほしい。

 そう、この手の小説のあらすじや冒頭で、ウンザリするほどお目にかかるであろう、あのフレーズだ。




 思い浮かべたか?


 OK。そいつが俺、池畑いけはた遊太郎ゆうたろうだ。

 もっとも、正確にはそんな風体の輩が俺だと思ってくれれば問題ない、という意味だが。


 こんな手垢のつきまくった言い回しで自己紹介するのは大変不本意ではあるのだが、ご多分に漏れず、俺もその“ごく普通の男子高校生”ってヤツの1人だ。


 中肉中背、外見にこれといった特徴もなく、インフラ関連の業界で平均年収に毛の生えた程度のサラリーを得る父親と、昼間はパートタイマーとして近所のスーパーでレジ打ちをする母親の元に生を受け、大きな病に冒されることもなくスクスクと育ち、受験では第一志望の高校へ行くことは叶わず、滑り止めで受けたところに入学。


 実は秘められた力の持ち主であるとか、偉大な人物の血を引いていた、なんていうサプライズもない。

 ……まあ、内面はちと問題アリかもしれないけど。




 だが、今こうやって人前で独白を垂れ流すなんていう、こっ恥ずかしい所業をさせられているということは……だ。

 悲しいかな俺は、“ごく普通の男子高校生”ではなくなってしまったのである。


 あの女にうっかりあんなことさえ言わなければ。

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