第6話


 人間の順応性というのは意外と高いものだと思う。知らない場所でも何か1つ情報を手に入れれば、なんかやっていけそうだという気持ちになる。今の俺がまさにそんな感じだ。


 なんて、人間の順応性という今の状況を打破するには役に立ちそうもないことを考えながら歩いていると、前方に人が見えた。



「ねえねえ、君美人だね。今ヒマだったりする?」


「すっすみません……。その、用事があるので……」


「用事くらい大丈夫だよ。ねぇ兄貴?」


「そうだな。その用事とやらより、俺たちと遊ぶほうが楽しいと思うぜ」


「あっあの……」


 聞こえてきた限りではそんなことを話しているようだった。男のほうが女の子に言い寄っているような感じかな。

 にしても男のほうはいかにも悪って感じの雰囲気だな。ああいう輩はどこの世界にもいるもんなんだな。


 対して女の子のほうは、舎弟っぽいほうの男が言っていた通り、とても美人だ。

 髪は黒色の長めの髪、ロングヘアというやつだろうか。体型もとてもスラッとしている。……知らない人に対してこんなことを思うのもあれだが、胸のほうもスッとしているといえるだろう。


 目の前にいる美人さんのことを考えていると、話が進んでいた。


「いいじゃん、いいじゃん。俺たちと遊んだほうが楽しいって」


「でっでも……」


「そんなに時間はとらせないからさ!」


「本当に用事があるので……」


 女の子のほうはとても嫌がっているように見える。それでも断り切れないのか男たちの勢にどんどん押されて行っている。

 はじめは知らない土地の上、知らない人だったので助ける必要もないかと思ったがどうやらそうはいかないらしい。さすがにあそこまで嫌がっているのを見て、助けない選択をできる男はいないだろう。俺は出来ない。

 ということで、少しお邪魔させてもらおう。


「嫌がってるみたいだからやめてあげたら?」

 そう言いながら女の子と男たちの間に割り込む。


「いまは彼女と話してるからさ、ちょっとどいててよ」


「なあ坊主。人が話してるところに割り込んじゃいけないって誰かに教わらなかったのか?」


 まあ、教わったことはあるが……。


「いや、そうじゃなくて嫌がってるみたいだからやめてあげたら? って言ってるんだけど伝わってる?」


 ほんとに伝わってるのか? さっきの車の人とは話せてたから言葉そのものは通じてるはずなんだけどな。理解ができてないのか?


「いやいや通じてるけどさ? いま彼女と話してるところなんだからちょっと待ってろって。後で相手してやるからさ」

 男は俺をどかすためか、右手をのばしてくる。まあ、俺も退くつもりはないが。


「だから、あとで相手するとかそういうことじゃなくてさ……嫌がってんだからやめてやれっていってんの」

 俺はそう言いながら伸ばしてくる腕をつかみ、思いっきり捻る。

「痛っ。なにすんだよ、このガキ!」

 そんな言葉を発しながら殴りかかってくるが、もう1人の男が低い声でそれを制す。

「おい、やめろ。……なあ坊主。俺らは別に彼女に危害を加えようとしているわけではない。ただ、一緒に楽しまないかって言ってるだけだ。なぜそれを止めようとする?」


「楽しむってあんたたちが、だろ。嫌がってる子が楽しめるわけないじゃん」


「そうか。どうあっても退く気はないということだな」


「さっきから、そういってるじゃん」

 ほんとに聞いてるんだよな。ほとんど同じことしか言ってないんだけど……。


「俺らとやりあうってことか?」


「……そういうことになるな」

 まあそれしかないだろうな。むこうも退く気はないみたいだしな。俺? 俺も退く気はないさ。


「大人2人に対して子供1人。無謀もいいところだ。勇者にでもなったつもりか?」


 勇者? この世界にも勇者がいるってことか? いてもいなくてもどちらでもいいか。だって……

「俺は勇者になれなかったのだから……」


「ん? 何を言っている?」 


 どうやら、口に出ていたのか。

「いや、なんでもない」


「そうか……ではっ!」


 そう言うのと同時に男は大きく腕を振りかぶり、殴りかかってきた。

 俺は左へとステップをして躱す。

 どうやら、よけられるとは思わなかったらしい。男の表情が驚きに変わる。


「まさか、よけられるとは思わなかったぜ」


「俺もそう思うよ」


「……オラッ」


 今度の打撃は先ほどよりもスピードがあがっていた。

 右、左、右、左……と交互に繰り出される攻撃を、たまに手を使い払いつつよけ続ける。

 そうしていると、単調なリズムだった攻撃が変わり、フェイントや蹴りを入れ始めてきた。

 さすがによけ続けるのがきつくなってきたので、手だけで捌く。



 

 さすがに疲れてきたのか速度も落ち、隙もでてきた。

 このままじゃらちが明かないので、相手の体めがけて牽制用の打撃を放つ。

 さすがに当らないだろうと思っていたがそうではなかった。

 右手に何かが食い込むような感触がし、直後、「ぐわぁっっっ」などといった声をあげ、一瞬宙に浮き少し飛んで行った。


「…………マジかよ……」



 相当加減して打ったつもりだったんだが……。俺が強いのか、相手が弱いのか、いや今回はその両方か。俺はこれでも訓練を積んできたが、向こうはそんなことしてこなかったのだろう。


「あっ兄貴! くそっ覚えてろよ!」

 そんなことを言いながら、先ほどの戦いで気絶したであろう男を担いでどこかへ消えていった。

 覚えてろって……。もう会わないだろうし別にいいだろ。と頭の中から消し去る。


 さてと、長い間ほっといちゃったけど女の子は大丈夫かな。

 

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