第5話

 まぶしいくらいに輝いていた光がようやく収まり始め、どうにか目を開くことが出来るようになってきた。一体どのような風景が広がっているのだろうか。考えるだけでも楽しいものだ。そのようなことを考えながら、俺は目を開けてみた。


「うわぁ……」


 目の前の風景が、魔法を発動させるときにいた自身の寮の部屋から、まったく知らないものに変わっていた。どうやら自然の多い、緑豊かな異世界らしきところ――ではなく、周り一面が岩のような、石のようなものでできた建物に囲まれている場所についたみたいだ。

 周りを見て、知らないものがあった。つまり、俺は本当に異世界に来ることが出来たのだ。


「よっっしゃーーー」


 あたり一面に俺の叫び声が響き渡る。近くにいた人に聞かれてでもいたら恥ずかしいな、とも思ったが、こちらを見てくる視線もないので大丈夫だろう。たぶん……。だって視線なんか感じられないだろ。というか出来る奴はどうなってるんだって話だ。まあ、どうでもいいか。


 そんな風に異世界にこれたことにテンションが上がり気味だった俺は、あることに気付いた。そう、果たしてこの世界の人に対して、言葉が通じるのかどうかということを。普通に考えれば世界が変われば、言葉だって変わるだろうしな。このままいけば、多くの人が言葉の壁につまずくことになるだろう。しかし、俺は問題ない。なんたって、翻訳魔法が使えるからな。そう、補助魔法の中にはこんなのも含まれている。まさに、覚えてよかった補助魔法といった感じだ。人間相手に使ったことはないけど……。だって元の世界ではみんな同じ言語だったし。なんにせよ、使うだけ使ってはおこう。まあそれに関しては実際ここの住民に会わなければ分からないので後回しだ。


 とりあえずは自身の現状を確認しないとだな。

 服装はここに来る前と変わらず、バルシュミード学園の制服だ。

 持ち物はこの世界で使えるとは到底思えない通貨の入った財布、他人が魔法を使えるようにする魔法具が数個と攻撃用のがいくつか。


「まあ、なんともじーさんに使えないと言われたものばっかりだな……」

 そうとは言え、どこでどう必要になるかもわからない。ほかの世界のものとばれてもいやだし、肌身離さず持っとくか。そんな事態になってもらっちゃ困るが。

「次はこの世界について調べないとだな」

 そう呟き、俺はこの場から立ち去った。



 とりあえずはこの世界の人に聞けたら聞いてみよう、ということでさっきから人の多そうなところを目指してはいるが、一向に人に会えない。この世界には人がいないのではと考えもしたが、いくらなんでもそれないだろう。

 そういえば、さっきから道の途中にある赤や青に点滅しているのはいったいなんだろう? と思いながら歩いていると目の前をでかい何かが通り過ぎた。怪物かと思い警戒したが、どうやらちがうみたいだ。怪物ではなく、見たこともないものだった。


「あぶねーだろ! 赤信号だっただろうが!」

 物凄い耳障りな音を立てながら止まった見たことのないもの――長いのでとりあえず物体Aとでもしよう――から出てきた人がそうどなった。

 赤信号? という聞きなれない単語があったが、どうやら先ほどの点滅していたものがそうらしい。


「すっすみません……」


 自分でもなんで謝っているのかわからないが、相手の反応を見る限りこちらが悪いのだろう。とりあえず謝っておくべきだろう。さすがに自分が一方的に悪いのに、あそこまでどなる人はいないだろう。いないと思いたい。


「まあわかってんならいいさ。車に轢かれるかもしれないんだからもう赤信号のときは渡ったりするなよ」

 そう言うと男は物体Aに乗り、じゃあなと言いながらどこかへ行ってしまった。いろいろと聞きたいこともあったが、仕方がない。

 そういえば、物体Aの名前は車というらしい。また一つ、この世界について詳しくなってしまった。……物体Aという呼び方、つけた意味あったのか。まったく使わなかったな。



 信号や車というものを教えてくれた親切なおじさんと別れたあと、俺は信号について考えていた。赤で渡って怒られたんだから、赤で止まる。ということは青になったら進むのか。点滅は……警告みたいなものか。今までと違う世界でやっていけるかと結構不安ではあったが、なんとかやっていけそうだ。


 そんなことを考えながら、俺は再び歩き始めた。

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