第2話

「どういうことだよじーさんっ!」


 バンッと扉開ける音が聞こえる。

 試験に落ちてしまい一時停止状態だった俺だが、しばらくして再び軌道をはじめ、学園長室へと殴り込みもとい質問にきていた。なにをって? もちろん試験の結果だ。というかこのタイミングでそれ以外はありえないだろう。

 それはそうとノックをし忘れていた。途中で気が付いたが気付いたころには時すでに遅し、もう学園長室へと突入していた。やってはいけないことではあるが自身の卒業がかかっているわけだし、少しは大目に見てもらえるだろう。そうであってほしい。もしこれが留年への引き金にでもなってしまったら、俺は時を巻き戻さなきゃいけなくなる。……もちろんそんなことできるはずがないが。


「どういうこととは、なににたいして言っておるのじゃ」

「どう考えても試験の結果に決まってんだろ!」

「はっきりいわなきゃわからんじゃろ。まあ知っておったが」

 このじじい、ぶん殴ってやりたい。

「わかってんならわざわざ聞くなよ……。ってそうじゃなくて結果だよ結果。いったいどういうことだよ」

「しかし、なにか不具合でもあったかの……」

「いや、あるだろ。俺が不合格って一体なんの冗談だよ」

 みんな合格していて俺だけ不合格とか冗談以外の何物でもないだろう。というかそうであってほしい。そうでなきゃ困る。

「冗談なんかじゃないぞ。ユリウス、お主が不合格なのは決定事項じゃ」

「納得いかねーって。なんでだよ」

「お主が普通の生徒なら合格もできたじゃろう。本当にぎりぎりではあるが、一応基準は満たしておるしの。しかし、お主はアーベンロードの人間じゃ。未熟なまま世に出し、恥をさらすわけにはいかん」

 学園長から俺に不合格の理由が告げられる。またあの家名が俺の邪魔をするのか。予想が出来なかったわけではない。がやはり納得はしがたい。


アーベンロード家。


 ハイリヒ王国の中でも1、2を争う名家だ。

 特に高祖父は当時の魔王を殲滅し、現在の王国の土地を取り返した勇者『レオ・アーベンロード』、祖父は今目の前にいる学園長さまと凄い経歴の持ち主である。

 所謂エリート揃いの家なわけだが、どうやら俺はその例から外れてしまったらしく、勇者としては落ちこぼれらしい。

 聖剣適正なし、攻撃魔法の適正はほぼなしといった具合だ。ちなみに補助魔法の適正は天才レベルである。変な偏り方だし、かっこ悪いと思ったやつもいるかもしれないが俺もそう思う。間違いなく、一番かっこ悪い偏り方だ。そりゃ俺だって攻撃用のカッコいい魔法とか使ってみたいと思うけど、才能がかわいそうなほどないので仕方がない。そう思いつつも、いつか使えるようになるかもという淡い期待を抱きながら、俺は補助魔法の訓練を頑張っていた。長所を伸ばさないと進級すら危うかったのである。

 そんな事情があり訓練を続けているといつの日か、異世界転移魔法陣が出来上がってしまった。今までに前例のない魔法なのでついに俺の才能が開花したか、と思いもしたが所詮は補助魔法。勇者になるには必要がなかったのである。


「魔法だって何にも使えないわけじゃないし、そもそも去年は全員合格できたんだろ? いくらアーベンロード家が特殊とはいえ卒業が出来ないっていうのはないだろ」

「補助魔法しか使えんお主に勇者になって何ができる?」

 うっ痛いところをついてきたな……。だが俺を見誤ってはいけない。俺には魔法具がある。

「攻撃魔法が使えなくても魔法具があるし、俺の補助魔法があれば勇者の助けになれるかもしれないだろ」

 これは認めるしかないだろう。俺にも攻撃手段があるってことを。学園長やぶれたり。

「それくらい知っておる。それを込みで話しておるんじゃよ」

「なっ、知ってたのかよ……」

「あれじゃろ? 他人を魔法が使えるようにするのだとか、低級攻撃魔法が撃てるものだとか……、そんなもの何の役にもたたんよ。勇者になるやつは全員魔法が使えるんじゃからの」

 うそだろ、これじゃあ説得する手段が……。

「そっそうだ。アーベンロード家から留年したひとがでるってのもまずいんじゃ……」

「世に出てほかの家の者に迷惑がかかるほうが困る」

「じゃっじゃあ……」

「くどいぞ! お主が卒業出来ないのは決定事項だ。来年卒業できるように訓練でもしとれ!」

 やはり学園長には口喧嘩ではかてないようだ。

 これで俺の留年は決まってしまった。はぁ、これからどうすればいいんだ……。

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