元勇者見習い候補生は高校生!
楓 みやび
第1話
この世界には対立している二つの国がある。
勇者の存在する国 ハイリヒ王国
魔王が存在する国 オルクス帝国
その片方、ハイリヒ王国の勇者育成校バルシュミード学園では現在卒業試験が行われている。15歳ほどの少年少女が、剣術や魔法などで今までの成果を存分に発揮していた。
この学校を卒業したら勇者になれる――わけではなく、なれるのはあくまで勇者見習いだ。それでも学生たちにとっては隣国、オルクス帝国の魔王退治への一歩をようやく踏み出せるのだから待ち望んでいた日には違いない。
そんな中俺、ユリウス・アーベンロードも試験を終え、講堂で数少ない友人たちと話していた。
「ユリウス、手ごたえどんな感じだった?」
そう聞いてきたのはいつもつるんでる3人組のひとりであるブルート、
「そーだぜ。俺らのはなしは終わったんだし、次はお前の番だぞ」
そしてアーベルだ。相も変わらずうるさいが、結構いいやつらである。
この3年間、楽しく過ごすことができたのはこいつらのおかげだ。
寮の部屋が近かったこともあり、夜中に3人でさわいだり、テストの勉強を一緒にしたりもしたっけか。……ほとんど俺とブルートでアーベルに教えてばっかだった気もするが。
「おい! 聞いているのか」
と今までの思い出にひたっているとアーベルが再度問いかけてきた。
「聞いているって。試験のことだろう?」
「ああそうだよ。お前、どうだった?」
「あーなんというか……普通だ、普通。とくになんもなかったよ」
ほんとのところは少しミスをしてしまったが、まあ本当に少しだし言わなくてもいいだろう。
「本当? 卒業試験の範囲ってユリウスが苦手なところだったような気がするんだけど……」
ブルートが疑問を浮かべた表情でたずねてくる。
こいつ俺の苦手なところ覚えてるのか。……俺はそんな他人のことまで覚えていないんだが、友達というのはそういうものなのだろう。友達と呼べるのがこいつらしかいない俺にはいまいちわからないが。
「……? そうだっけ?」
前言撤回、普通は知らないみたいだ。アーベルを普通と呼んでもいいのかは疑問だが、少なくとも全員が全員とも知ってるわけではないのだろう。いやーよかったよかった。そんなの知っとかないとだったらめんどくさいじゃん。そんなんだったら友達なんていらないだろ。……まあいないとひとりぼっちになって寂しいから友達はほしいが。マジで友達いないのは寂しいから。いや、ほんと、マジで。まあこいつらと別れるなんて今は考えられないので、どっちでもいいが。
「多少は、ってだけだよ。そこまでではない」
「ふーん、ならいいけど」
と少し怪訝そうな表情ではあるが、納得はしてくれたようだ。
そんなことを話していると周りのざわめきがおさまっていた。
何かと思い壇上を見やる。そうすると原因はすぐにわかった。なんてことはない。学園長が壇上にあがってきただけだ。それだけで静かになるって学園長っていうのもすごいもんだよな。
前に出てきたということは結果が出たということだろう。
「これより、卒業試験の結果を発表する」
ほらきた。やっぱりそうだったか。
「……アヒム・ベックマン、ゲルト・ブラーム……」
どんどん名前が呼ばれていく。呼ばれた人たちが「キャー」だとか「ワー」だとかいろいろな奇声を発しているが彼らに教えてあげたい。去年は全員合格しているんだよと。
合格率100%とか多少出来ないことがあっても受かるんじゃね? って話だ。
そんなことを考えながら俺は試験を受けていたわけだがそんなに甘くはないみたいだ。
「……ハンス・デデキント。以上150名中149名が合格だ」
ついに俺の名前は呼ばれなかった。
俺は勇者見習いにすらなれないみたいだ。
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