第22頁目  

 瑞穂は裕史の夢も希望もない言葉を聞き逃さなかった。

 咄嗟(とっさ)にテーブルの上からライターを握りしめ、裕史めがけて投げた。が、裕史は飛んできたライターをすんなりとかわす・・・

 ライターは裕史が寝ていたソファー横のパソコンの液晶モニタースイッチにぶつかり、モニターが突然に点き、綺麗な女性が現れた。

 裕史は輪郭(りんかく)のラインが細やかな美人の女性が現れると、引きつけられるようにモニターに近づく。

「わぁおぅ。すっげーーー綺麗な女性だなあ~^^。

 どこの国の女性だ?これ、顔の映し出せるインターネットだろう?。すっげ~ナイスバディだよなあ。

 ・・・いいなあ、インターネットってさ。オレもパソコン買おうかなあ?w」

 裕史がヨダレを垂(た)らしまくる程に、目をギンギンにさせながら見ていると、モニターに映る女性が笑顔を見せる。

 そして、裕史に向けて画面いっぱいに時刻を表示した。

「もう、午後の九時になりますよ。」

 裕史は目の前に見える時刻に目を点にさせた。

「んん? く、九時?やっ、やっべ~。 

 早く帰らないと、母ちゃんに怒鳴られる!」 

 裕史は目の前の美人だろうが、瑞穂に対する彼氏の事だろうが、自分自身の身の危険・・・と言うより、十時が門限のために家に入れて貰えなくなる寂しい思いのほうが大事になってしまい、瑞穂の事自体が眼中に入らなかった。

 急ぎ足で玄関まで行き。素早く靴を履くとドアを開け、エレベーターの前に立った。  

「じゃあな瑞穂。オレは、突然ながら帰る。また今度あった時に、話しの続きをしようぜ!」

 裕史の急ぎ足をついて行き、エレベーター前で瑞穂が立ち止まる。

「あっ、裕史。自転車(バイク)は、わたしが直しておくから、悪いけど歩いて帰ってね」

 瑞穂はやっと裕史が帰ってくれる嬉しさで、目の奥からの笑みがこぼれていた。

 以前の笑顔に戻った瑞穂を見た裕史は、安心した顔を見せながらエレベーターに乗り込むと、上目遣いで右の人差し指を瑞穂に向ける。

「瑞穂。ヒロイン志願も悪いとは言わない。 

 ただ、彼氏を優先的に大事にしないと、一生会えなくなるかも知れないぞ」

 瑞穂は真剣な顔で言う裕史に、笑顔を絶やさずにエレベーターの中のボタンに手を延ばし、『1F』のボタンと『閉』のボタンをためらい無く押し。やさしく手を振る。

「親切で暖かい言葉をありがとう。

 とっとと早く帰るのよ。

 それじゃあ、お・や・す・みぃぃ・・・」 

 瑞穂が手を振ると同時に、冷たい機械音と共にドアが静かに閉じた。

 エレベーターは静かに一階へと降下する・・・

 裕史は瑞穂の早々とした行動力にア然としたまま顔を引きつらせていた。


 奥に秘めた冷たさの残る心底からの笑顔で裕史を見送ると、瑞穂はプライベートルームへと戻り。冷蔵庫を開き、冷たい缶ビールを手に取る。

 缶を開け、少量のビールをグイッと喉ごしに流し込むと、一度ビール缶のメーカーラベルを見てから、残りのビールをイッキに喉に流し込む。


 「、ぁぁぁぁぁあ~・・・おいしい。

 ったく、裕史が目の前に居たんじゃ、大好きなビールも飲めやしない!」

 瑞穂はほろ酔い気分で缶ビールを作業台に置き、その場でタンクトップとスパッツを脱ぎ捨て、シャワールームへと向かった・・・

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