第21頁目
瑞穂は裕史の顔を見た途端に、お腹が痛くなるほどの笑い声をあげて床に座り込む。
「うわっきゃっはははは・・・
ひぃ、ひ、裕史ィ。な、なんて顔しているの~・・・
お腹が・・・お腹が痛い・・・」
裕史は瑞穂を笑わす為に持参した割り箸を縦にし、両まぶたからニカッとしながら下あごに引っ掛け、鼻の両穴にはビー玉を入れていた。
裕史は瑞穂がウケた事を確認すると、割り箸とビー玉を外し、笑顔を見せる。
「やっと、大笑いしてくれたな・・・」
裕史が急に真剣な顔を見せると、瑞穂はお腹を押さえながら笑い声を止め、首を傾げながら裕史の顔を見上げる。
「えっ?」
「瑞穂。最近疲れているんじゃないのか?以前までは、オレと会う度に大笑いしていたのに、最近はてっきり『つくり笑顔』や『苦笑い』ばかりで、笑顔を見せても心の底から笑っていないし、目自体が笑っていなかったし・・・
ストレスをオレにぶつけてばかりだ・・・一体何があったんだ?」
裕史が眉間にシワを寄せ心配して言うと、瑞穂は今までの自分の行動に反省しているかのような顔つきを見せ、静かに下を向く。
「・・・そう言えばわたし。何か久しぶりに大笑いしたような気がする」
「彼氏の村崎(むらさき)先輩とは、元気に楽しく会っているのか?」
裕史が静かな声で問うと、瑞穂は寂しげに首を振る。
「そっかぁ、元気に楽しくはあっていないようだな?。オレには、丸っきり冷たい態度。…もしかして、原因は全てこの『ジャンヌ・ダルク』なのか?」
「・・・いやジャンヌのせいじゃない・・・
わ、わたし。色々とやることがあったから・・・それでだと思う」
「色々って、何だよ」
裕史は恐い目つきで瑞穂を睨みつける。
「インターネットとかで、ジャンヌ関連のグッズを集めたりとか・・・」
裕史は結局ジャンヌに結びつく事で、目を点にさせ深く溜め息をつく。
「はぁぁ~~~・・・。
瑞穂。彼氏と会わないぐらいジャンヌが好きなのか?ジャンヌと彼氏とでは、一体どっちが大切なんだ?」
裕史がいかにもお悩み相談をしているような、落ち着いた口調で言うと、瑞穂はアッケラカンとした表情でキッパリと答える。
「何言ってるのよ~。もちろんジャンヌに決まっているじゃな~い。
今のところ、ジャンヌが一番で。わたしの大切な『淳也(じゅんや)』は二番目よぉ~」
裕史は瑞穂の期待はずれの言葉に一瞬コケた素振りを見せ、ア然と瑞穂を見る。
「み、瑞穂。きっと、村崎 淳也(むらさき じゅんや)先輩がその言葉を聞いたら、きっと悲しむぞぉ」
「その点は大丈夫。淳也の前では、『淳也が一番』って言うから」
裕史は嬉しそうに答える瑞穂を目の前に、まるで小悪魔を見つめるような冷たい視線を向ける。
「わたしの中のヒロインは、『ジャンヌ・ダルク』よ。
わたしにとって、高嶺の華。雲の上の存在なんだから、ジャンヌが一番に決まっているじゃな~い」
裕史の目には、まるで瑞穂が宝塚のステージで楽しく歌い踊っているかのような迫力と、強引に納得させてしまう脅しにも似た勢いが融合した悪魔に見えてしまった事で、目を擦りに擦りながら目の前の幻を消し。恐怖から逃れたような安心感の気の抜けたタメ息をつく。
「ハアぁぁ~。瑞穂を見ていたら幻覚を見てしまう。
瑞穂・・・雲の上って、そりゃあもう天上の人物なんだから、当たり前だろう・・・?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます