第18頁目
「とても素敵なポートレートでしょう?
J・E・レネヴーの描いた『オルレアンの城壁に立つジャンヌ』よ」
瑞穂がお祈りをするように両手を組み、目をうるうるさせていると、裕史は隣でポカ~ンと口を開けて瑞穂を見る。
「は?ジャンヌ?」
裕史が首を傾げる。
瑞穂は首を傾げている裕史を見て目を点にさせる。
「…も、もしかして、ジャンヌを知らないって言うじゃないでしょうね?」
裕史は瑞穂の問い掛けにもっと首を傾げる。
「ジャンヌ・・・。多分、記憶どこかには聞いた記憶があると思うだけど・・・誰だったかなあ・・・?」
瑞穂は、興味のない冷たい口調で言う裕史に目を大きくさせて怒った口調で言う。
「百年戦争で活躍したジャンヌを知らないなんて、歴史の風上(かざかみ)にも置けないオトコね!裕史って言うオトコは!」
瑞穂がギロリと裕史を脅すかように睨みつけると、裕史は冷や汗をタラリと流し、あたかも思い出したかように、右手を軽く握り、開いた左手の平の上をポンと叩く。
「ああ~っ判った!ジャンヌって、あの女海賊の事だろう?」
瑞穂には裕史の言っている事が理解出来ず、口をポカンと開けたまま、初めて見る生き物を発見したような驚きの眼差しを裕史に向ける。
「女海賊?なにそれ?
ねぇ、裕史。ジャンヌを知らないならオトコらしく『知らない』って言ったらどうなの?オトコの知ったかぶりなんて見苦しいわよ・・・」
瑞穂の軽蔑の視線が裕史に突き刺さる。
裕史は意地になりながらもキレる。
「な、なんだと~!オレがジャンヌを知らないとでも言っているのかぁ!」
瑞穂の顔に唾(つば)が飛び散る勢いで迫り、怒鳴る。
「な、なんなら言ってみなさいよ!裕史になんか判るもんですか!」
瑞穂も負けじとして、裕史をキッっと睨みつける。
「早く言いなさいよ!
それにその前に、裕史の、その津波がびっくりしたようなウェーブスタイルやめなさいよ!裕史が通るたびに津波警告が出て、みんな避難しているの判らないの?!
切る気の無いのなら、その頭の上でサーフィンを楽しんじゃうわよ!」
裕史はご自慢のヘアースタイルにケチをつけられた事に腹を立てる。
「な、なに~!瑞穂だって、その、見たからに腹のたつようなお菊人形風のケツまで伸ばしきったロン毛を切りやがれ!
切らないと、そのロン毛に鼻毛を結びつけて引っ張り合って遊ぶぞ!
今、観念しないと、そのロン毛に鼻毛移植決定だな!」
まるで子供のケンカのような訳の判らない事を言っている二人だった。
瑞穂は裕史のケンカ腰の態度に目を散らばらせ、歯を食いしばりながら裕史の足を強く激しく踏みつける。
「なら、早く言いなさいよ。ジャンヌがどんな人物なのかを!
早く言わないと、裕史のこのか弱い足の指が脆くも粉々に砕けるわよ!」
裕史は足の痛みを堪えつつ、ジェスチャーでロープに手を延ばす素振りを見せる。
「ロ、ロープ!ロープ!!」
瑞穂は痛がる裕史の顔色を上目使いでチラッと確かめると、一旦足を離し・・・とどめをを刺すように、再度力任せに裕史の足を踏みつける。
「おらおらおらおら・・・痛いか?まだ痛くないのか?!」
裕史は痛みに我慢に我慢を重ねたが、耐え切れずに大声をあげ、踏まれた足を抱えるように持ち、その場で飛び上がる。
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