第16頁目 

 それでも裕史は壁に左足を踏ん張らせ、両手でノヴを力まかせに引っ張る。

 が、ドアは開かなかった。

 裕史は半分諦めかけて、ノヴから手を放した時、

「ひ・ろ・し。

 そこで何やってるの?」

 突然背後から聞こえる瑞穂の殺気と声。

 裕史は、身体をビクビクさせながらそ~っと振り向く・・・

 瑞穂は、腕を組みながら流し目で裕史の顔をおもいっきり睨みつける。

「このドアは、そんな簡単には開かないわよ。

 す・け・べ・な・オ・オ・カ・ミ・さん・・・」 

 その瞬間、瑞穂の力まかせの蹴り上げが、裕史の股間を直撃する。

のょご!

 鈍い音が裕史の神経を悲痛にさせ、檄痛の叫び声が出ないほどの痛みが無意識のうちに両手で股間を押さえながら部屋じゅうを跳ね回る―

「!⌒☆              

 **♂♂☆               

 ♯♯♪∮√               

 ≒∩☆!」

 由美佳は裕史の超音波に近い叫び声を、右へ左へと首を動かしながら目で追う。とてもサラウンドした叫びだ。

 頬を赤く染め、心配そうに言う。

「・・・さ、佐々木君。大丈夫なんでしょうか?」

 瑞穂の方を振り向く。と、瑞穂は、めぇ~いっぱいの笑顔で言う。

「大丈夫よ。普段から、わたしが鍛えてあげているし。

 裕史も飛び跳ねるぐらいに、とても喜んでいるみたいだし

 まあ、JKの部屋を捜索する男の自業自得ってやつだし」

 瑞穂の勘違いさせるような言葉に由美佳は、ふと裕史の顔を見る。 

 涙目で超音波の悲鳴を上げている裕史の顔が、由美佳の目にも喜んでいるかに見え、思わず納得してしまう。

「本当に、とても嬉しそうですね」 

 由美佳は何もなかったように瑞穂に笑顔を見せると、バッグを開く。

「あの~。占いの料金はいくらですか?」

「は?料金は要らないわよ^^」

「でも、占ってもらたんですから・・・」  

 由美佳が料金を心配していると瑞穂は首を傾げる。暫く(しばらく)考えると小さなタメ息をつく。

「ぅ~ん。料金かぁ~・・・そうね~

 じゃあ、タバコ一本だけ貰おうかしら・・・^^」

「えっ?タバコですか?」

「たとえ吸わなくても、吸えなくても、タバコぐらい付き合い程度に持っているでしょ・・・?」

 瑞穂が笑顔を見せながら言うと、由美佳はコッソリと隠し持っているタバコをバッグから取り出し、瑞穂に手渡す。

「・・・タバコだけでいいんですか?」

 由美佳が不安げな顔で言うと、瑞穂はボックスのタバコから一本だけを取り出し、残りを由美佳に手渡す。

「わたし、料金を受け取らない主義なの」 

「で、でも・・・」

「気にしない気にしない。

 もう、だいぶ暗くなって来ているから、早く帰らないと、裕史見たいなオオカミに食べられちゃうわよ。」


 瑞穂は玄関のドアを開き、笑顔で手を振る。

 由美佳は気のせいか追い出されているような気分にもなりながらも、瑞穂に深く丁寧に御辞儀をする。

「本当に有難うございました」

「又なにか、相談や悩み事があったら迷わず来てね」


 由美佳はエレベーターに乗り込むと、瑞穂に再度深く御辞儀をする。

 ドアが閉まり。由美佳は一階のボタンを押し、緊張の解けた深い溜め息をつく。

「はあ~・・・」


 マンションを出ると、マンションを見上げて首を傾げる。 

「でも、このマンションって、風舞華(ふうか)さんの住んでいる一軒家の場所よね?たしか・・・

 こじんまりとした電器屋さん・・・風舞華さんの家がなくなっちゃった。

 一週間の旅行でこの町を離れていただけなのに・・・家がなくなっちゃった」

 疑問を残しながらも、由美佳はマンションを後にする・・・。


 【尚この物語は、未成年の喫煙を、

  法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。】

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