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 そして、真っ暗で何も見えない部屋の中に入り、ドアを閉めると壁を伝(つた)い、手探りで電気のスイッチを捜す・・・

 手の感触がスイッチだと判ると、慌てるように明かりを点ける。

 裕史は部屋の中を見渡すと同時に目をパチクリとさせる。

 十二畳ほどのフローリングの真ん中に三脚に乗っかった縦横一メートルほどのキャンパス。

 その周りに乱雑に散らばる油絵の具。   

 脚の低い木製の椅子の背もたれに掛けられた色とりどりに染まった白の肩紐の付いた前掛け。

 キャンパスの後ろ側には、年代物の古びた蓄音機・・・その周りに散らばるジャンルを問わないレコードの山。

 いくら見渡しても部屋中には、それだけしか無かった。

 裕史はキャンパスに描かれた絵をジィーっと見つめる。

 柔らかく優しい色使いの風景画をバックに、力強いタッチで描かれた人物像。

 まだ、所々下書きの見え隠れする未完成の作品。

「瑞穂って、絵心もあるんだな・・・」

 裕史は瑞穂が多分描いたと思われる絵を両手で押さえながらジッと観る。

「・・・この両端にいるのは、天使だよなあ?

 で?この真ん中にいる人物と、その周りにある白い花は何だろう?」

 絵に丸っきり興味のない裕史は、絵に疑問を持とうとも、その絵の観た目の判断で、上手いか下手の白黒はっきりした判断しか出来ず、何処がどう下手なのか上手いのか、考えている暇をつくる前に飽きてしまい、軽く流して観る程度でキャンパスから手を離す。 

「まあ、オレよりは上手いな・・・

 さて、ここは面白くないから、別な部屋でも見て来るかな・・・」

 裕史は何も無かったように明かりを消し、部屋を出た。

 ドアを閉めたと同時に、インターフォンが間を空けて数回鳴り響く。

「ん? 郵便かな?」

 裕史はインターフォンの音と共に玄関のドアを開けると、目の前には配達員が立っていた。受領書に『揺織』とサインをすると、A4サイズの小包みを受け取り、ドアを閉めた。

 受け取った小包みをテーブルの上に置くと、玄関に目を向ける。

「玄関のドアって、中からだと簡単に開くんだな・・・」

 と、言いながら占い部屋の左隣の部屋のノヴに手を掛ける。

 ノヴを回し、開けようとしたがドアを引こうとも押そうともドアは開かない。

 裕史は意地になり必死になって開けようとするが、やっぱり開かない。

 硬く閉じられたドアは、開く隙間さえない見当たらない。

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