第14頁目 

 エレベーターが三人を乗せて、五階の瑞穂の部屋へと辿り着く。 

 瑞穂はセキュリティにパスワードを入れ、ドアを開き部屋の中へと入る。と同時に、裕史と由美佳は驚きのあまりに目を点にさせた。

 幅六~七メートルはある玄関。どう見ても十六畳はあるフローリングの玄関の間。   

 玄関と言うよりは、待合室のようしか見えなかった。

 ごく普通のレザービニール製の黒色のソファーに天上が透明ガラスの円形テーブル。大画面がギラギラとしている、百画面の液晶テレビ。の、三要素揃ったアイテム。

 これで受付でもあれば、病院か役所の待合室。

 裕史が目を点にして玄関を見ていると、瑞穂は由美佳の手を引き、靴を脱ぎ、さっさと玄関正面の占い部屋へと入って行く。

 裕史は点にさせた目で二人を追いながら、同じ部屋へと入ろうとする。が、

 ばごっ!

 瑞穂は素早くソファー横のスタンドライトを裕史の脳天へと目掛けて投げて、一撃・・・

 裕史は一撃の為に曲がったシェードを首まで被り、頭の上に星をきらめかせながら千鳥足で玄関を入って直ぐのソファーへと倒れた。            

 那由美はとりあえず裕史の怪我の状態を心配しつつも、ドアをバタンと勢いよく閉める。

 裕史が目を虚ろにさせて起き上がると、ドアの向こうで待ち構えていたように、瑞穂がそ~っと顔を覗かせる。

「裕史。六時半頃、小包届くと思うから受け取っておいて・・・

 昨日、不在通知書が入っていたの。

 今日学校で、スマホで連絡入れておいたから、後で来るはずだから・・・お願いね」

 瑞穂はやさしい口調で言うと、由美佳のローヒールを裕史に投げつける。

 ぼぎゅっ!

 五メートル手前から振りかぶって投げたローヒールは、力強く裕史の顔面にめり込むように直撃し、ゆっくりと床に落ちた。

 「裕史。そのヒール、シューズボックスに入れておいて。ソファーの後ろに有るから・・・」  

 ばたん!!

 冷たくドアを閉める瑞穂に、掛ける言葉もなく・・・いや、掛ける間も与えてくれ無いほどの優しさに、裕史は顔に踏んづけられたような跡を残しながら、ボー然として瑞穂達の入った占い部屋をしばらく見つめる。

「あんな乱暴娘と毎日あってりゃ、例え貧弱で病気がちな人であろうと、強化するような気がするのは、オレだけだろうか?」

 裕史はヒールを手に取り、ソファー後ろの五段になっている筒型の螺旋状シューズボックスの一番上に手を延ばし、押し込み入れると、何気にその場で立ち、玄関のドアを背に改めて部屋の中を・・・いや、玄関の間を見渡す。

「初めて瑞穂のマンションに入ったけど・・・

 はっきり言って、オレの部屋より広い玄関の間だ・・・」

 裕史は羨(うらや)ましい限りに溜め息をつき、羨ましい限りの間(ま)の広さにガックリと前屈み(まえかがみ)に肩を落とすと、ソファーの手前にチョコンと遠慮するように座る。

 シーンと静まった空間。まるで今にでも面接を受けるような緊張感が裕史の動悸を圧迫させていた。

「オレの嫌いな空気だ・・・病院の消毒薬の匂いも嫌いだけど、この、反射的な緊張感はもっと嫌いだ」

 目をキョロキョロとさせながら瑞穂を待つ裕史には、とても耐えられない状況だった。

 裕史は大画面のテレビを嫌でも視界に入れると、視線を左にずらして占い部屋をジッと見つめる。

 『早く出て来い!』と、心の何処かで思いつつ、不安そうな目で訴える。

 ふと視線をテレビ左横のドアに視線をずらすと、また瑞穂のいる部屋へと視線を戻す。裕史は目をパチクリとさせてもう一度見渡す。

「ん?」

 首を傾げつつその場で立ち上がり、玄関を背にくわしく玄関の間を再度見渡す。

 三畳程度の靴を脱ぐスペースからフローリングを上がり、直ぐにソファとテーブルが置いてある。

 玄関の正面には、瑞穂の入った占いの部屋。

 ソファの正面の占い部屋の左隣に部屋がある。

 占い部屋の右側にテレビが有り、テレビの右横にも部屋がある。

 パンツを逆さにしたような六角形造りの玄関にも見えたが、裕史の目には森の中の三方に枝分かれした道にも見えていた。 

「暇つぶしに探検でもしてみるか」

 人の家の中を勝手に見ようとするいけない好奇心が裕史の感性をまさぐり、未知の世界を体験しようとする何気ない冒険心に変わった。

「まず、ここからっと・・・」

 裕史はテレビ右横の部屋のノヴをそ~っと回し、ドアを除々に開きながら中を覗く・・・

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