第4頁目 

 瑞穂は横で一緒に歩いていた裕史がイジけている事にはまったく気づかずに、そのまま自転車(バイク)を押しながら歩き続けていた。

 ふと路肩沿いの自販機の前で足を止め。サイフから小銭を出し。自販機の投入口に入れる。  

「ねえ、裕史。裕史は、なにが飲みたい?」

 瑞穂はボタンを選ぶ指を止めたまま裕史に聞く。が、返事が返ってこない。

「・・・?。

 ん?」

 まったく返事の無い裕史に首を傾げる。

「ねえ、ねえ裕史ってばあ」

 振り返ると、いるはずの裕史がいない。

「ひろ・・・あれ~?。裕史がいない・・・」 

 周辺(まわり)を見渡しながら裕史を探す・・・。

 と、視界の中に小さく見える裕史の姿。

 百メートルぐらい離れた後ろの方で、すっかりイジケ切っている姿を目にする。

 その姿を目にした瑞穂は、目を点にさせ呆(あき)れて思わずタメ息をつく・・・

「・・・はぁ~」             

 しばらく裕史の行動を観察すると、

 襟首の髪を右手でゆっくりと持ち上げ・・・

 ゆっくりと持ち上げた髪を下ろし・・・

 垂れた数本の前髪を上目使いで見ながら枝毛を探し始めると、ポツリと呟く。

「・・・ダメねぇ男のクセにイジケちゃったりして・・・。」

 枝毛を探し出すと、引っこ抜き・・・両手で前髪を整え。終わると。大きく深呼吸をしてから、裕史に向かって大声で怒鳴り叫(さけ)ぶ。

「そこでイジケてるゥ~赤点遅刻男ぉぉォォ~!。

 早く来なさいよぉ~~!!」

 裕史は瑞穂の怒鳴り声を耳にすると、周辺(まわり)をキョロキョロと見渡す。

 すると、下校中の生徒達の視線が裕史に集中して向いていた。

 笑いながら通り過ぎて行く生徒達に顔を赤らめた裕史は、あまりの恥ずかしさにイジケていた事などはスッカリと忘れ。一秒でも早くその場の恥ずかしさから逃げ出したい気持ちでいっぱいになり。一目散に自転車(バイク)に飛び乗り、瑞穂の所へと必死にペダルを漕ぎ・・・自転車(バイク)を全力疾走させた・・・


 ゼェゼェと息を切らし、額から溢れ出す汗を拭いながら到着した裕史は、急ブレーキをかけると瑞穂の前で『ガシャーーーン!』と凄(すさ)まじい音をたてて、自転車(バイク)ごと倒れた。

 瑞穂は呼吸を乱しながら大の字で倒れている裕史に優しく微笑む。

「お疲れ様、裕史。ドリンクがとても冷えているわよ^^」

 瑞穂は裕史が疾走している間に買っておいたスポーツドリンク缶を、裕史の頬に押しあてる。

 裕史は頬に冷たさを感じ取ると、乱れた呼吸を落ち着かせながら上体を起こす。 

「ぅわ~っ、すっげぇ~冷てぇ~や!」

 ドリンクを受け取ると、フタを開け。いっ気に飲み干す。

「情けないなあ、裕史。たった百メートルぐらいの疾走でくたばるなんて・・・」

 瑞穂はドリンクを一口だけ飲むと、ポケットからハンカチを取り出し、裕史の額(ひたい)から頬(ほほ)に伝(つた)い流れる汗を優しさいっぱいに拭(ふ)いてあげる。

「あっ、瑞穂ありがとう。

 ・・・瑞穂のおかげで、冷や汗なのか、運動後の汗なのか、まったく判らね~よ!

 けど、だいたいなあ!瑞穂がオレの気にしている事を言うからなぁ、オレがイジケなきゃならねぇ~んだぞぉ・・・ったく、そもそもだなあ~・・・」

 裕史がここぞとばかりに文句を言いたい放題の時、瑞穂のカバンから着信音が響く。

 「あれ?LINEかな?・・・」

 瑞穂はカバンからスマホを取り出し、LINEを見る。

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