頑張らないという選択

 愛犬が初めて病気になったとき、飼い主は慌てます。

 どうして良いかわからずに、右往左往して、不安でどうしようもなくて、近所の動物病院を探し当てて、そこに駆け込むことでしょう。


 犬を飼っている方なら、必ず通る道です。

 しかし心配はいりません。あなたもその内、段々とその対応に慣れていきます。


 犬はその短い一生のうちに、色々な病気に罹ります。

 大概はお腹を壊したとか、風邪をひいて熱があるとか、夏バテとか、すぐに治ってしまう軽度なものです。

 しかしあなたの愛犬が、絵にかいたように、自然な老衰で死を迎える幸せな子でなければ、いつか必ず命を懸けて闘う時がやってきます。1度のときもあれば、2度、3度と闘うこともあるでしょう。

 もしかすると、愛犬が次に患る病は、あなたの大切な愛犬の命を奪うほど重いものかもしれません。 


 どうですか? 今からもう、不安ですか?


 でも、それも心配はいりません。あなたの愛犬は、どんなに危険なときにも、不安など微塵も感じず、あなたを信じて勇敢に病気に立ち向かってくれます。犬という動物は、あなたが思っている以上に強いのです。


 問題はむしろ犬ではなく、人間の側にあります。

 不安というものは、実体はどこにもなくて、あなたの心の中にだけ作り出された虚像です。あなたが不安を感じるのは、勇敢に戦う愛犬を見捨てて、現実逃避をしているだけです。


 でもね、人間は犬ほど強くありません。

 そんな時は思い切り不安を感じて、思い切り泣いて、それから気持ちを立て直せばいい。


 そして、一度立て直した心は、もう折れないようにしなければなりません。

 それには、同じ思いをした仲間を見つけるのが一番です。ぜひそうしてください。

 あなたのためでなく、愛犬のためにです。


「頑張れ」という励ましの言葉は、とてもありがたい言葉ですが、状況次第では危険な言葉でもあります。

 あなたの張りつめた気持ちを、押しつぶしてしまい兼ねません。

「頑張れ」と言われたら、とりあえず素直に「ありがとう、頑張ります」と答えてください。それ以上は何も言う必要はありません。

 その言葉を掛けてくださる方々は、間違いなくあなたの強い味方で、「頑張れ」の数だけ、あなたは勇気をもらうでしょう。

 でも、本当に頑張る必要なんてありません。不安と闘うあなたは、もう十分に頑張っているからです。それ以上に頑張るとつぶれてしまいます。

 

 同じつらい経験をした人は、恐らくあなたに簡単には「頑張れ」とは言わないはずです。

 何故ならば、その言葉がどうしても口から出てこないか、或いはその使いどころを心得ているはずだからです。


 できたらそんな方を一人見つけて、仲間になってもらい、支えてもらうのが良いと思います。


 苦しいときは、お互い様ですからね。


――本話は、筆者のブログから転載しました――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る