マンダリンの闘い ~武闘大会~
「トーブの馬鹿」
ワシが、マンダリンを応援するために闘技場の椅子に座り、じっーとマンダリンから視線を離さず、見ていると、後ろからおもいっきり後頭部を叩かれた。
そこにはエヴァとルゥがいた。
エヴァは、頬を思いっきり膨らますとワシに向かって言った。
「もう何で、私に教えもしないで、こんなところ来てるのよ。一人だけずるいじゃない」
エヴァはカンカンだ。
真っ赤な果実が今にも爆発しそうな感じで今ここにいる。
「悪い悪い。マンダリンとは最近よく会って、色々としておったからのぅ。それにエヴァ達がこういう大会が好きなのかもわからなかったしのぅ」
ワシは素直に謝った。
「好きかどうかは別として、きちんと聞いて欲しかったの。どう答えるかは分からないけど。少なくとも友人が何をしたか、どうかは把握しておきたいから」
エヴァがもっともな返答をした。確かに彼女の言っていることは間違っていない。
「分かった。今回は本当に申し訳なかった、次回からは必ず連絡するよ」
「うん、わかったならいいのよ。それにしても最近何をしていたの?」
エヴァがワシにマンダリンと何をしていたのか、聞いてくる。
「それはまずはこの大会に出場したマンダリンの勇姿を見てから教えるわ」
ワシはそう言い、視線をマンダリンに戻した。うーむ、顔色がまだまだ硬い。体の割に心は純真なんじゃな。何にせよ、応援してくれる仲間が増えたぞ、あとはその修業の成果をいかんなく発揮するだけじゃ。にゃりと笑いながら、ワシはただマンダリンを見つめているのであった。
ドクン。ドクン。ドクン。
心臓の鼓動が聞こえる。その音は非常に小刻みに動き、鳴っている。
間隔も非常に短い間隔だ。
周囲を見ると自分よりも一回りも、二回りも巨大な身体をした同族がたくさんうじゃうじゃいる。
現役で活躍している奴もいるではないか。
本当に俺は、この中で戦って勝てるのであろうか?
あいつは大丈夫だと言ったが、どこからその根拠なき自信が出てきているのか。
俺はそう思い、観客席を見渡した。
いた! おおぉ、どうやら他にも見に来たようだな。
トーブの隣にはエヴァとルウの姿もあった。
あいつら……。
俺の心に厚いものがこみあげてくる。
そんなことを考えているうちに、オーク族の武闘来会が始まった。
いよいよか。
拳を握りしめ、自分の順番を待つ。
呼吸を整える。
ゆっくりと前に出ていき。俺は自分の拳を握りしめた。
力がどんどん込められていく。
まるで無尽蔵の何かみたいだ、。
俺は、名前を呼ばれたので前に出て行く。
一歩一歩を踏みしめ、地面をしっかり噛み締めながら。闘技場の中に行くと、そこには俺の対戦相手がいた。
でかい。俺よりも一回りでかい。
「まさか、一回戦がこうも楽にいけそうとは俺も今回の大会は期待出来そうだ」
にやりと笑い、俺の顔を見ている。俺よりも少し年上だ。
名前はウォズと呼ばれていた。
俺は特に何も返答せずに、ウォズの目の前に生き、立ち尽くした。
無駄な事を考えず、ただひたすら、戦闘に集中すること。
あいつがよく言っていた言葉だ。
今考えれば確かにそうかもしれない。
目の前の相手が何を言ってこようが、俺が倒してしまえば何も問題はないのだから。
無差別級に出場すると決めた時にこうなることは予め予想していたことだ。
「おいおい、どうした。これから闘いだからってビビって声も出ないのか。さっきから一言も発しないじゃないか。少しは見どころのありそうなガキだからと思っていたが、やはりガキはガキか。話にもならん」
ウォズはそう言い、また笑っている。
見てろよ……
鐘の音が鳴った。
戦闘開始の合図だ。
「うおおおおおおお!」
ウォズが咆哮した。目が充血し、俺を睨みつける。
一気に俺に対してウォズの敵意が向けられた。
「行くぞ!」
ウォズが地面を跳躍し、こっちに向かってきた。
右手から繰り出されるぶんまわしの攻撃。俺はその攻撃をえびぞりで回避して、距離を取る。
ウォズは躱されたことなどおかまいなしに次の攻撃動作に移る。
観客の雰囲気もウォズの攻撃が、マンダリンが何とか攻撃を回避したとした認識されていないようだ。
だが戦闘というものが、最低限わかっている者には、この闘いの勝利者がおのずと分かっているようだ。
右から来ての左の切り返し。
俺の頭のなかにはウォズの攻撃してくる方向や動作がすぐに予測出来た。
やつの攻撃が、止まって見えるとまでは言わないが、とてもゆっくりなものに感じられた。
あいつの方が何倍も早かった。底知れぬ強さを秘めた自分の友人が頭に浮かんでくる。
そろそろ、この人には悪いが終わらせてもらうか。
俺は右手に力を込めた。
そして彼が、勢いよく攻撃してきた時に合わせて、無防備で空いている腹部に拳をぶち込んだ。
拳が腹にめり込んでいくのが分かる。
「ぶもぅ……」
鈍い音がして、ウォズは腹部を押さえながら、地面に倒れて、ピクリともしなくなった。
勝者、マンダリンの声に。観客から拍手喝采が送られた。
俺は、トーブ達友人のところに手を振る。
エヴァとルゥが振り返してくれた。
悪い気はしない。控室に戻ると、トッドとニハト、ピクルムがいた。三人共、瞳を輝かせながら待っている。
「おう、お前らも来てたのか?」
「兄貴おかえり」
三人が声を揃えて答える。
「おう、お前ら。見ててくれたか」
「いつの間にあんなに強くなったんですかい?何だか急激に強くなった気がしますぜ」
ニハトが聞いてきた。
「ここ最近、トーブに色々と修行の面倒を見てもらっている。おかげでここまで強くなれた」
俺は率直に答えた。これほどまで伸びているとは自分も思わなかった。
「トーブというとあの、リリス族の彼ですね」
ピクルムが言った。
トッドとニハトもうんうんとうなずく。
「そうだ、あいつはすごいぞ。なんたって底が知れないからな」
俺は、トーブの顔を思い浮かべながら言った。
さて次の試合か。
自分の名前が呼ばれたので、俺は闘技場の上に向かった。背中越しに三人の応援が聞こえる。
次の相手はこいつか。
俺の目の前には、両手の筋肉が異様に発達したアックというオーク族の戦士がいる。
さっきのウォズに比べて、このアックのほうが出来ると直感で感じてしまった。
鐘が鳴り、両方共。後方に飛び退き、構える。
「さっきのウォズとの闘い見ていたよ。あの動き、少しはやるようだね。一体どこで習ったんだい? 我々、オーク族の動きではない」
アックがべらべらと話しかけてくる。俺は戦闘中にだらだらと話す奴が嫌いだった。
「だんまりかい? なら拳で聞き出すしかないようだね」
アックはそういうと、一度後方に下がり、距離を取った。
何かしてきそうな展開に俺は身構える。
アックは視線を伏せた。
そして、両手を握りしめている。
すると、ぷるぷると両手が振動し始めた。
そろそろ来るな。
そう思ったのと同時に、アックが伏せていた顔を上げた。こちらを見て不敵に笑っている。
「行くよ!」
アックが直線的な動きで、こちらに向かってくる。
早い!
肌でそう感じた。気が付いた時には、アックは目の前まで迫っていた。
奴の豪腕が動いた。巨大な豪腕を振りかざし、俺目掛けて打ち込んできた。
まずい、このままじゃ。
そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
俺は後ろに引くのではなく、相手の向かってくる前面に向かって突っ込んだ。
アックは自慢の拳を振り切る前に。俺とぶつかってしまい、拳の一撃を放つことが出来なかった。
危ない危ない。
「よく見ていますね。その機転の良さも素晴らしい」
アックは、残念そうな表情でつぶやいた。
俺はひやりと汗をかいた。にしてもよく見える目だ。
ぎりぎりまで寸分の狂いなく、奴の動きを見ていた。
「でも次は外しませんよ」
アックはそう言うと、また両手に力を込め始めた。
来る!
俺の予想と同時にアックが向かってきた。
今度は、攻撃を避けることが出来るだろうか。
「はああああ!」
アックが咆哮した。耳がキーンとし、俺は一瞬、意識がそこで途切れてしまった。
アックの拳が直撃する。
観客の殆どがそう思い描いたであろう。
しかし、そうはならなかった。
俺は、拳が直撃した瞬間に身体を捻り、威力を外部に受け流した。
すぐに距離を取る。
俺は、拳が直撃した腹部を見ると、そこには拳のあとがうっすらと残っていた。
かすれて、これほど跡が残るということは直撃したときはあまり想像はしたくない。
「二度目もやりすごすなんて君は一体何者? いや、それはどうでもいい。三度目、三度目のこの拳で仕留める」
アックがそう言いかけた時、
「御託はいい」
俺は、一気にアックに距離を詰めた。そして掌打を放っていく。
アックは突然のことで対応が遅れ、俺の拳が直撃する。
掌底は一撃の威力が低いけど攻撃があてやすく、次の事象の行動がしやすい。
掌底も何度もトーブとの練習の末、威力が上昇するように鍛えてある。
「ようやくしゃべってくれたね」
アックが俺の掌底を食らいながら、話しかけてきた。
「あぁ、さっきまでは、べらべらとあんたがくっちゃべっていたからな」
俺の掌底が面白いように、直撃するアックの動きが次第に鈍くなってくる。体力がきれたようだ。
「悪いが、その二本腕が活躍する前に終わらせるぜ!」
そう言い、俺は奴の懐に踏み込んだ。
右手をアックの腹部に押し当て、左手をさらにその右手に重ねるように置く。そして体全身の力の流れを全面に押し出すような感じで打ち込んだ。発勁。
「ぐふっ、まさか。三度目で倒れるのが僕だなんて。それにしてもいい発勁だ……体内の血液が振動して中で暴れているようだよ……」そういうとアックはその場に倒れた。どうやら気絶したようだ。
俺は手をあげ、勝者の勝鬨をあげた。
会場からは俺の名を呼声がする。皆が俺を認めてくれたような気がした。俺は会場から降りて、ニハト達のところに戻ってきた。三人がさっきと同じ羨望の眼差しで俺を見ている。
「兄貴、さっきのあの技は一体?」
ニハトが聞いてくる。
「発勁だよ。俺の必殺技だ。相手と密着した時に使える」
簡単に説明する。
「兄貴、いよいよあと一回勝てば優勝じゃないか」
トッドの指摘通り。あと一回勝利すれば優勝だ。
「そうだな。トーブの言うとおりだった。あと一回勝って、優勝して、気持ちよく、終えたいものだ」
俺は次の対戦相手を見た。あの仮面の男のようだ。
あんなちっこい仮面の男がどうやって、勝ち上がってきたんだ。
まぁ、戦えば分かるか。
名前が呼ばれる。
「さて、行ってくる」
俺は三人にそう言い、決勝の舞台に足を運んだ。
すでに対戦相手の仮面の男は先に来ていた。
見ている分には普通の仮面の男だ。
別段、本当に変わったところはない。
この小柄な仮面の男が巨大な体躯をしたオーク族の戦士達を倒してきたのだ。
注意しなくてならない。
何か特別な力でも持っているのかもしれない。
ただ見ている感じでは、特にそんな雰囲気は微塵も感じられない。
隙どころか、気配や存在感がまるでない。
鐘が鳴った。戦闘開始だ。
仮面の男は薄汚れた外套を着用している。
どう出る?
俺は考える。今までの相手は、こちらから仕掛けなくても、仕掛けてきた相手だったが。
この仮面の男はどうであろうか。じりじりと距離を詰めたり、詰めなかったり。俺は動く素振りをするが、相手は動く気配はない。
嫌な相手だな。
微動だにしないところが何とも不気味である。
すると、仮面の男が動いた。
右手を僅かに動かすと俺の足元の地面に穴が空いた。
俺はそれを横っ飛びして避ける。
魔法の類か。
オーク族は使えないはずだが。
俺はその地面に空いた穴を除く。
そこには底が見えない真っ暗な闇が続いていた。
これは食らったらお終いだ……。
俺の背中に冷たい汗がしたり落ちた。
それにしてもこんな協力な魔法を利用してくるんだから、この仮面の男は、遠距離戦主体なのか。
じわりじわり系の魔法で今まで戦ってきた試合も勝利してきたというのか。
それでも、仮面の男は動かない。
ちっ。
む……。
俺は、我慢できずに仮面の男に向かって至近距離での戦闘を試みた。
隙のない掌底中心の攻撃を繰り出していく。
「!?」
俺の掌底は空を切った。再び、繰り出していくが、その分も躱されてしまった。
馬鹿な、体術まで会得しているのか。
恐ろしいやつだ。化け物か。
それでも、俺は掌底止めない、うまく隙が生まれてくるのかもしれない。
「ぐはっ」
俺は体術の乱打戦で何発か、攻撃をうける。
打撃事態はそう苦しいわけじゃない。
通用しない……。
俺の攻撃が。
ちくしょう、ちくしょう、どうしたらいいんだ。
勝てないのか。
負けるのか。
せっかくの修行もこの相手には意味のないことなのか。
くそ、くそ。
自分のあまりの無力ぷりに涙がでそうになる。
でも、それでも自分が信じて、やってきたことを否定されるのは嫌だ。
俺は、掌底を打ち込んでいく。
トーブから学んだこの技なくして、俺はありえない。
今回のこの戦闘も、この掌底で活路を見いだそうとする。
いままで何百発も打ち込んできたのだから、絶対に直撃する。
絶対にだ。
俺はただそれを信じ、掌底を打ち込んでいく。
「破っ!!」
何度も何度も諦めずに打ち込んでいく。
たまに相手の衝撃技で、吹き飛ばされるがすぐに戻る。
息を切らすが攻撃の手を緩めたら反撃を食らうので攻撃の手を緩めない。
すると、変化が生まれてきた。
なんとその場から、全く動かなかった仮面の男が動き出した。
少しずつ少しずつ、わかってきた。
俺は何となくだがわかり始めてきた。
長期戦に入り、相手の体力もじりじり減り、ついにはあの元いた場所から動かざるを得なくなったのだ。
俺はというと少し息は弾んでいるが、ようやく身体に長期戦へと変化していく流れを感じてきたところだ。
だからまだまだ元気だった。
これも日々の体力をつけてるために訓練していたおかげである。
さらに時間が経過すると仮面の男の動きも大振りで単調になってきたので、俺の掌底が決まり始めた。
十発に二初発は当たる感じで、じりじりと、相手を追いつめていく。
そしていよいよこの時が来た。
俺の掌底が直撃し、身体がぶれて動いた時に、俺は体当たりを決めた。
仮面の男は後方に吹き飛んでいき、地面に倒れた。それでも仮面の男は何とか立ち上上がろうとする。
「!?」
そして、ここで衝撃の出来事が。
あまりの衝撃で仮面が砕け散り、そこから見えたのはオーク族の女性の顔だった。
「女だったのか?」
俺は思わず、つぶやいた。
「だから何? 女だから出ちゃいけないわけ?」
「別に俺は一向に構わん。戦っている最中は男、女は関係ないからな」
俺はくだらない質問だと思い、答える、
そう言うと、女オークは一瞬微笑んだように見えた。
「それじゃ決着つけるか?」
「ええ、私は勝つためにここまで来たんだ!」
お互い、言葉を交わし、拳を交えあった。
結果的に俺が勝利したが、前半戦で彼女が本気で攻めてきたら、俺が負けていたかもしれない。
こうして武闘大会は、何とか俺の優勝で幕を閉じた。
しかし、今回の大会は例年に比べて強者があまりいなかった大会だったらしい。
俺はまた開かれるであろう次大会に向けて頑張ろうと思う。
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