とりあえず異世界が平和で暇すぎるので辻ヒールをやってみた
皆さんこんにちは、靴下を履く時はいつも右足からのタカシです!
今日は懐具合が寂しくなってきたので、冒険者協会で依頼を受けに来ています。
ヒーラー向けの依頼って結構ある上、報酬もそここそ良いから稼ぐには持って来いなのです! それに困っている人を見過ごす訳にはいかない!
いや~、こういう時チートって便利だよねぇ。
何せ初級回復魔法と古代級蘇生魔法を使うのとで消費する魔力が大差ないって、他の魔法使いを知らない俺からしても頭おかしいとしか思えない。
まあ、それと引き換えに回復魔法以外は一切使えないんだけどね!
「でも、俺にはスーさんという頼もしい相棒がいるから大丈夫なのだ! ね、スーさん!」
振り向くとそこには誰もいなかった。
偶然、俺の横にいたオッサンがなんか困った顔をしてる。
これには俺も思わず愛想笑い。
「……あれ!? スーさん! スーさんはどこ行っちゃったの!?」
ヤバいよ! ヤバいよ!
俺一人じゃ雑魚の代名詞、丸いフォルムでお馴染みのスライムにすら勝てないよ!?
この見知らぬヒューマンジャングルの中心で俺を一人にしないで!
スーさん、ウェイアーユー!?
俺は顔面蒼白になりながら愛しのスーさんの姿を探した結果……
「オジサン、この串焼き3本」
「あいよー!」
なんて事はねぇ俺のすぐ後ろで串焼きを買っていました。
隣にいないからつい焦っちゃったぜ! テヘペロ♪(・ω<)
「なんかウザい」
おーっと、声にも出してないのにウザがられましたー。
うん、正直自分でもウザいと思うね!
これやって良いのは可愛い女の子限定だね!
「だからスーさんがテヘペロってやってくれたら、何だって許せちゃう気がするよ!」
「モグモグ」
おう、お食事中でしたか。
でもスーさん、歩きながら食べるのはお行儀が悪いでしてよ!
そんな事、一人前のレディのする事ではありませんことよ!
「まあ、スーさんの胸は一人前でhぶべら!?」
最後まで言う前に吹っ飛ばされました。
はい、顔面に容赦なくグーパンです。
鼻の骨と歯が何本かぶっ飛んで下アゴの骨を針金で繋がないといけないほど大怪我ですが、ハンサム顔じゃない俺のチート回復なら一瞬です!
でも痛い事には変わりないよ!
俺が何事も無いように立ち上がると、心配そうに見ていた屋台のオッチャンがビックリしてた。
「スーさん、幾ら治せるからってぶん殴られると痛いんだけど」
「黙れ変態」
おう、男はみんな変態でい! エロくて何が悪い!
ちなみに
英雄、色を好むって本当だね。特にテストには出ないから覚えないように!
「……」
「あ、あの~、その汚い物を見るような目でこっちを見るの止めません?」
「見るな変態」
そこはちょっと顔を赤くして、顔を背けながら言うとポイント高いよ!
あ、ごめんなさい。
謝るから駄目な物を見る目は止めて、心の柔らかい部分が削れちゃうの。
という訳でやってきました冒険者協会。
簡単に言えば冒険者というのはチンピラを何でも屋にして仕事を与えようという失業対策なのだ!
「その所為か、冒険者っておっかない人が多いんだよね……怖い」
「フラフラしない。余計なのに絡まれる」
そうは言ってもねウサギさん。
こうも厳つい人が多いとミジンコハートな俺は押し潰されてしまいそうになりそうなんです。
アキレスは亀には追いつけないんです。
嗚呼、貴方が居るから生きて行けるこの異世界砂漠!
「なんだぁ? 女の陰に隠れてる情けねぇ男がいるなぁ!」
おふ、言ってる傍から絡まれちゃったよ。
しかも見るからに厳つくて目付きの悪いチンピラ冒険者ですよ! 怖い!
「おいおい、怖くて声も出ないんでちゅか~? エルフの姉ちゃんもそんな奴は放っといて俺たちと遊ぼうぜぇ?」
「いいねぇ、そうしようぜ!」
い、いかん!
スーさんが悪漢に絡まれている!
ここは何とかせねば!
「という訳で先生、お願いします!」
「……はぁ」
誰だ、先生に溜息を吐かせたのは!
「とりあえず、“邪魔”」
出たー! スーさんの【
格下の相手を『恐怖』状態にして、格上の相手には『挑発』状態にする前衛系スキルなんだけど、ちょっと使い勝手が悪いのは内緒だぞ!
「「……っ!」」
まあ、どう見ても格下っぽいチンピラどもはビビってますけどね!
やーい、女にビビって情けねーでやんの!
どうよ、この俺の小物感!
「バカやってないで行くよ」
「あ、待ってスーさん!」
雑魚には興味ないと言わんばかりに、ビビっているチンピラを気にも留めずに依頼書の張り出されている掲示板の方へ歩き出した。
俺も慌ててスーさんの後を追って掲示板の前へ立った。
「ふむふむ……おお、幾つかヒーラー向けの出てるね。お、この依頼なんて貴族から出てるよ! しかも依頼料が高い!」
「ならそれ、早く行こう」
そういう事になった。
「う~~、仕事仕事」
今、依頼先を探して全力歩行している俺はチートヒーラーでごく普通の転生者。
強いて違うところをあげるとすれば、冒険者ってとこかナ。
名前はタカシ。
そんな訳で、上流街にある貴族の屋敷にやってきた。
ふと見ると、屋敷の入り口に初老の男性が立っていた。
「ウホッ! 貴方が依頼人ですか?」
「いえ、私はこの屋敷に仕えさせて頂いております執事でございます」
……アカン、この人ボケても真面目に受け止めちゃう系の人や!
あ、スーさん止めて。
二の腕を抓るのに捻りを加えられると余計痛いよ!
「ふざけてないで挨拶」
「あ、忘れてた。初めまして! 依頼を受けたヒーラーのタカシです! とりあえず緑色の食べ物は全滅しないかなぁって思っているごく普通の冒険者です!」
「相棒のスーです」
「お待ちしておりました。旦那様がお待ちです」
馬鹿な、こちらの巧みな話術が華麗にスルーされただと!?
という訳で瀟洒な執事さんに案内されて、我々探検団は屋敷の中へと潜入する事になった!
一体この先、我々に待ち受ける物とはいったい何のか! 乞うご期待!
「見っとも無いからキョロキョロしないで」
「ぐふっ!?」
れ、レバーは止めて……
内臓系のダメージは回復が効きにくいの……
その頃、寝室ではカイゼル髭を生やした屋敷の主が病に冒され、やつれた顔でベッドに伏していた。
その脇には妻がすまし顔で控えている。
「あなた、お加減は如何ですか」
「目が霞んで前も見えんよ。ダメかもしれんな」
「……あなたのそんな弱気な言葉、初めて聞きましたわ」
妻のそっけない言葉に、自嘲気味に力なく笑った。
「そうだな。お前にはそんな顔は見せなかった……どうやら病で大分弱っているようだ……」
彼の呟きに、部屋の空気がしーんと静まり返った。
そして、その沈黙を破ったのは彼自身だった。
「弱っているついでに、私の本音も聞いてくれるか?」
「……なんですか?」
その言葉に、妻は僅かに身を固くした。
見合いをして結婚してから碌に会話も交わさず、夫は毎日朝早くから出かけて帰って来てもすぐに書斎に篭ってしまう。
ずっと外に女でも作っているのだろうとは思っていた。
どうせ外に子供が出来たので面倒を見て欲しいとでも言われるのだと、そう思っていた。
だがそれは大きく裏切られた。
「……ずっと隠していたが、私はお前に初めて会った時から惚れていたのだ」
少し照れながら言われた言葉に、妻は思わず夫の顔を見た。
「そんな! 私たちは家の都合で無理矢理……」
「ああ、最初は私も乗り気ではなかった……だがお前に初めて会った瞬間、見えていた世界が変わった。この世にはこんなにも美しい人がいるのかと、お前の周りが輝いてさえ見えた」
「そんな……式の時ですら、あなたは無愛想に私の方を一回も見なかったじゃないですかっ」
「ははは、あの時は私も極度に緊張していてな。正直、あの日はベッドに入るまで自分が何をしていたのか覚えておらんのだ」
「そんな……そんな事を今更……っ!」
「すまない、こんな間際でなければ本音を明かせない私を許して欲しい……」
「あなた……っ!」
思わず妻の目から涙が流れる。
泣き崩れる妻の背中を、すっかり細くなってしまった手でゆっくりと撫でて落ち着かせる。
「愛しているよ。アメリア、出会った時からずっと」
「ずっと……あなたは私に興味が無い物だとばかりっ」
「ははは、面と向かって言うのが恥ずかしくてこんな時にしか言えんわゴホッ!」
弛緩した雰囲気から一転、彼の口から咳と共に出た赤い血が布団を汚した。
それを見た妻は顔を青ざめて叫んだ。
「あなた、しっかり!」
「私はもうダメだ……もしもの時は弟に……」
「そんな! 私は貴方以外の人となんて考えられません! どうか生きてください!」
「ハハ、出来れば私も……おまえと……」
「あなた!」
「全力全快! 【
あっぶねぇ!
もう少しで依頼主さんが死んじゃう所だった! 間一髪!
「あ、ドア蹴り破ってごめんなさい。でも、悪い所は粗方治したんで奥さんと仲睦まじくいてくださいね! あ、依頼主さんお布団を頭から被ってどうしたんですか? 奥さんも両手で顔を隠して何か……ぐぼっ!?」
「ほら、用が済んだら帰る。ドアはごめんなさい。請求は受ける」
「ホッホッホッ、ご心配なく。ドアならば幾らでも直せますよ。それよりありがとうございました。報酬は上乗せしてお渡しいたしますよ」
「ん、感謝」
「ねえ、スーさん。首根っこ掴んで引きずるのは止めてくれない? 靴が脱げちゃうから!? ねぇ、聞いてる!?」
スーさんからの
メーデーメーデー、こちらタカシ! スーさん応答願います!
あ、ダメ! そっちは階段……うぎゃー!?
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