本当に異世界が平和で暇すぎるので辻ヒールをやってみた

 初めましての人は初めまして、そうじゃない人はフォーエバー!

 好きな物はハッピーエンド、嫌いな物はバッドエンドとか人が死んじゃう話のチートヒーラータカシでござい。


「だからさぁ、リアルなバッドエンドよりチープでもハッピーエンドの方が良いと思わない? というか一部のリアリティ=バッドみたいな風潮って何なの?」


「知らない、黙って」


 皆が幸せにならないと気に入らない私です。

 救われない人に愛の手を!


「くねくねしない、ウザい」


「おぅ……スーさんの言葉が胸の柔かい所にグサグサ突き刺さるぜ」


 美人の冷たい眼差しって余計怖く見えるよね!

 タイプ一致でダメージが1.5倍ですね。強い!


「でもスーさんってエルフだから、どっちかって言うとタイプ:妖精だよね」


「エルフと妖精族のどこが同じな訳? 目が腐ってるの?」


 ポケットに入っちゃう系のモンスターの話はこっちの人には通じないか~。

 ちなみに妖精族というにはフェアリーやケットシーなどを代表とする、絵本に出てくるような種族である。

 俺もここへ来た初めの頃に、つい道具屋の店主であるおっちゃんケットシーをモフってしまって、あとで滅茶苦茶気まずい思いをしたのだ。


「ケモナー属性は無いけど、あのモフモフが犯罪的だと思います」


「そんなだから道具屋のおじさんに気持ち悪がれる」


 はい、そうですね……

 道具屋のおっちゃんは未だに俺と目を合わせてくれません……

 見た目が猫だから思わずやっちまったけど、冷静に考えれば中年親父を撫で回してたんだよな俺。

 うん、人間に変換したら滅茶苦茶気持ち悪い。


「でも仕方ないんや! ケモ耳が! ケモ尻尾がワイを惑わすんや!」


「変な言葉遣いがウザい。でも内容は同意」


 スーさんと目と目が通じ合い、お互い頷き合った。

 ウザいとか言いつつも付き合ってくれるスーさんが俺は大好きです!


「スーさんグラシアス!」


「叩き斬る」


「怖っ!」


 照れ隠しとは言え、剣に手を掛けないで!

 僅かに覗いたキラリと光る刀身が本気っぽく見えて物騒だよ!?




 ダンジョンには安全地帯という、モンスター避けを張った空白地帯が存在する。

 そこに少女を背負った青年が、転がるように飛び込んだ。

 2人とも命からがらと言った風体で、服はボロボロ、革製の鎧も辛うじて引っかかっている程度で防具として機能していない。

 その上、少女の背中には痛々しく引き裂かれた傷から血を流していた。


「リリィ、しっかりしてくれ! 目を開けるんだ!」


「ご、ゴメンね……ディル。わたし……もうダメみたい……」


 儚く笑う幼馴染の少女の手が冷たくなっていくのが、握り締めた手から伝わってくる。

 青年は少女を引き止めるように抱きしめた。


「そんな事言うなよ! 待ってろ、すぐ治療院へ……」


「最後に……わたしのお願い……聞いてくれる?」


 握り締めた少女の手から次第に力が抜けて行くのを感じる。

 溢れ出る涙を必死にこらえ、少女の姿を必死に目に焼き付ける。


「ああ、聞いてやる! 何だって聞いてやるから最後なんて言うな!」


「さ、最後に……ディルのお嫁さん……なりたかった……」


「なってくれよ! 元気になってさ! だから死ぬな!」


「あ……あはは、う、嬉しい……な」


 儚く笑った後、少女の身体から力が抜け、握り締めた手スルリと抜け落ちた。


「リリィ? リリィー!」


「【上回復エクスヒール】!!」


「「え?」」


 突然放たれる魔力光。

 光に包まれた少女は一瞬で顔色が元に戻り、背中の傷も消しゴムで消したかのように無くなっていた。

 そしてボロボロになった服以外、綺麗になった少女を見てタカシは満足そうに頷いた。


「ふう、もう大丈夫! 幸せな家庭を築いてね!」


 親指を立てながら爽やかな笑顔を向けてタカシは去って行った。

 後ろで真っ赤になった少女が悲鳴を上げながら少年の頬を叩いていた。




 ダンジョン内は俺の趣味である辻ヒールがやり放題なので、よくスーさんと一緒に来ている。

 と言っても戦ってるのはスーさんだけだけどね!

 スーさん戦う人、俺見てる人!


「前に出ないで、邪魔だから」


「そうやってさり気無く、罠とか奇襲を注意してくれるスーさん大好き!」


 おぅ……無言で嫌そうに思いっきり顔を顰めないでください。

 心が不安になります。


「そこはツンデレっぽく『べ、別に貴方の為にやってるんじゃないんだからねっ』とか言ってくれると、萌えポイントが増えるよ?」


「死ね」


 一言でバッサリ斬り捨てられちゃいました。

 流石スーさん、剣技も言葉も砥石要らずっすね!

 あ、止めて、ゴミを見るような目で見ないで、新しい世界に目覚めちゃいそう!

 新世界の神に俺はなる! ってやかましいわ!


「でもスーさんは美人だし、可愛いから笑ったらもっと可愛くなると思うよっ!」


 脳内ではキラキラエフェクトが入った爽やかスマイルを浮かべた俺が歯を光らせる。

 うはっ、テライケメン! ステキ、抱いて! あ、俺だった!

 それに対してのスーさんからの返答は、耳たぶまで顔を真っ赤に染めて顔を逸らして……じゃなかった。


「……ペッ」


 うぁ~リアルで唾を吐き捨てる人、初めてみた~。

 いけない、あたい目から心の汗が零れそう。

 おかしいな、目の前にいるのに距離が果てしなく遠く感じるよ?

 俺はまた異世界へ転生しちゃったのかな?

 届かないこの思い、コミュニケーションは一方通行。

 こちらタカシ、世界聞こえますか?


黄昏たそがれてないで、さっさと行くよ」


「うん、ダンジョン内は危ないもんね。スーさんが守ってくれてるけど、俺も自衛はしないとね!」


 紙ペラみたいな吹けば飛んじゃうほどの無きに等しい警戒だけどね。

 人間的に薄っぺらい訳じゃないよ!

 ただちょっと他の冒険者より弱いだけなんだからねっ。

 いいもんいいもん、ヒーラーとしてチートだからいいんだもん。


「スーさんも怪我したら言ってね! どんな擦り傷だって立ち所に治しちゃうよ!」


「擦り傷程度で無駄な事しないで、過保護」


 だってスーさんの玉の肌が傷ついたままなんて、俺は我慢できないよ。

 美女は綺麗なままで居て欲しいと思う俺の老婆心。

 お母ちゃん、お嫁前の娘っ子が傷だらけの身体なんて許しまへんで!


「ああ、言ってる傍から擦り傷作って! ホンマもうこの子は~」


「この程度、大したことない」


 どこかで擦ったのか、スーさんの御身足に擦り傷が出来ていた。

 こういう所からバイ菌が入って大変な事のなっちゃったりするんだからね!

 菌という概念すらない世界の人に衛生を説いても無駄だけどさ!


「ほら、傷を見せて……【回復ヒール】!」


「んっ……」


 あっという間に塞がる傷。

 相変わらず魔法ってスゲー、これって細胞が塞いでるのかね?

 何となくでやってるから全然原理とか知らないんだよね。

 まあ、科学的な話をされても俺のおつむじゃ全然理解できないよ!


「バカちゃうねん! ちょっと勉強が苦手なだけやねん!」


「煩い騒がないで、敵が来ちゃう」


「はい……ごめんなさい」


 スーさんはマジクールだった。

 スーさんのリアルトーンに思わず凹んじゃう俺。

 そんな風にふざけていると、奥の方から複数の人間の悲鳴が聞こえた。


「スーさん!」


「行く!」


 俺とスーさんは急いで走り出した。

 ……ま、待て! 俺、後衛のヒーラーだから!

 そんな早く走られると付いて行けない! 置いてかないで!



 脇腹がねじ切れそうなのを我慢しながら現場に辿り着くと、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 5人の冒険者に対して10体以上のビッグアントが群がっていた。

 ビッグアントとは名前のまんまの大型犬サイズのアリ型モンスターで、甲殻が硬い上に顎の位置が丁度人の脚を狙いやすい高さの為に片足を失って、冒険者を止めざるを得なくなる原因の上位に君臨するモンスターである。


 全く関係ないけど、昔子供たちが小さくなっちゃってアリに乗って、ジャングルと化した自宅の庭を探検する映画があったよね!

 何故か敵がサソリだったんだけど、米国にはサソリって住宅地に普通に居るのかしらん?


 さて、そんな危険なモンスターも我らがスーさんの前には虫けらと成り下がる。 虫だけにな!

 スーさんは素早く、音もなくビッグアントの群れの背後に近寄ると、近くにいるアリを片っ端からぶった切って行く。

 ワザマエ! キャー、スーさんステキ―! こっち見てー!


「っと、俺もボーっとしている場合じゃないね。スーさんに届け、俺の【回復ヒール】!」


 ここでの俺の役目はスーさんを回復しつつ、敵に襲われない様に警戒する事なのだ!

 まあ、一撃で死なない限りは回復で復活できるけどね!


「タカシ、行って!」


 お、スーさんからの合図や!

 俺はスーさんが開いた道を一直線に駆け抜け、冒険者たちの元へと辿り着く。

 既に5人中2人がビッグアントの餌食となって足を失っていて、傷口からはダラダラと血が流れ出していて、その臭いがビッグアントをさらに呼び込んでいる。

 こりゃあ、【上回復エクスヒール】でも回復足りんかもしれんね。


「ああ、もう俺は駄目だ……早く逃げろっ!」


「そんな事できるかよ! アンナがお前の帰りを待ってるんだぞ!」


「……アンナに伝えてくれ。愛していた……と」


 一生懸命仲間が彼を担いで逃げようとしているが、ビッグアントが血の臭いを頼りに追いかけて来る為、とても逃げきれそうにない。


「ふざけんな! それぐらい自分で伝えやがれ!」


「ふっ……俺はもうげんか……いみた」


「コレでも喰らえ! 【最上回復オメガヒール】!」


「「「「「は?」」」」」


 脇腹が痛いので、半ば投げ付けるように回復魔法をぶつける。

 おお、さすが最上級魔法。

 逆再生の様に欠損した足が生えてきて気持ち悪っ!


「ふう、これで良し。じゃあ、アンナさんには自分から愛を告白してくださいね! お幸せに!」


 お、スーさんも片付け終わったみたいだからそろそろ撤収ー。

 俺は途中で立ち止まって、呆然としている冒険者達の方を振り向いて親指を立ててこういうのだ。


「あばよ!」


 いやー、良い事をした後って気持ちがいいね!

 あ、止めて!

 スーさんの脚力で俺の脛を蹴らないで! 痛いの!

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