いま

幼い頃の夢を見ていたようだ。頬が熱い。自覚した途端に手のひらからてらてらと光る筋が次々に流れていった。あんなこともあったのか。ため息と一緒に出て行った無駄なものは、やがて彼の額にするりと落ちる。それを半ば強引に腕で拭う。

はじめては、まだ冬の寒い時期だったように思う。あれから何度も何度も同じことを繰り返していたから、もういつだったかなんて覚えていない。耐えきれなくなって、抱いた。それだけのこと。どうしようもないやるせない気持ちに蝕まれてまっくろの裸の胸に、彼はなんの躊躇もなく触れたのだ。おまえなら、いいよ。そうやって腕をひろげることをやめなかった。

今も彼は隣で寝ている。まだ暗い。当然のことなのだろうけど、僕はまた彼を揺すった。まつげが僅かに震える。泣いているようにみえる。

「泣いてるの」

「ないていない」

おきていた。

「起きてたのなら言ってくれればいいのに」

拗ねているのかもしれなかった。いとしい。

「すこし、黙って、くれないか……」

上半身を起こし、しばし沈黙して、それからやっとのことで開けたまぶたの奥で、僕を見た。白い陶磁器のような肌が表面から輝く。きれいだ。

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したのそら さとこ @pikachu

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