したのそら

さとこ

みつるのこと

みつるは、よくねむる。

先生が黒板に字を書いているときも、かけっこの順番を待っているときも、電車の中で揺られているときも。

ぼくはそんなみつるの手を握っているばかりだった。手紙のはじめにむらかみみつるって書いていたあの頃から、残すところつるだけになった今まで、ずっとそれだけしてきた。ちょうちょみたいなみつるは気がついたら手の内から飛び立ってしまって、自分の好きなお花まで飛んでいってしまう。そのお花がもしとても鋭いとげを持っていたら。いのちを粗末にする毒が入っていたなら。想像するだけで足がすくむ。ぼくはうつくしいちょうちょの死に耐えられない。

みつるの寝顔はとてもきれいで、かなしい。涙をこぼしながら死んでいくお母さんぎつねみたいに見える。みていると心の花びらがすじに沿って燿っていく。だからねむらないでほしい。ずっと起きていてほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る