第17話 消えた城主
エルカの傷はほぼ癒えた。……たったの一晩で。特筆すべきは、その驚異的な回復力だけではない。一度破壊されてから再生した細胞一つ一つが、次は破壊されまいと強固になっていく。戦う度に、傷つく度にエルカは強くなっていく。エルカ自身はこの事を知らないが、強くなりたいという思いが、本能的に次なる強敵との戦いを求めるのだ。しかし、その事で一つ困ったことになっている。
「ちっ……。ベルーゼの奴、一体どこに行きやがったのかしら」
城中探しても、ベルーゼの姿が見当たらないのだ。部屋にはいない。食堂にもいない。手下に聞いても分からない。次に攻めるエリアの相談をしようと思っていたエルカは、イライラが募っていく。廊下の向こうから、タオがこちらに歩いてきた。
「あ、エルカおはよう。もう体は大丈夫なの?」
「ええ、まあ。そんなことより、あの馬鹿どこに行ったか知らない?」
「ええと……ベルーゼ様のこと? 見てないけど」
「ったく……。ちょっとあんたも探すの手伝ってよ。この城、無駄に広くて敵わないわ」
「うん、いいよ」
タオと手分けしてベルーゼを探し回った。すれ違う手下一人一人に聞いたが、やはり誰も分からない。これはいよいよおかしいと皆が思い、城の者達総出でベルーゼを探した。外にも出てみたが、城どころかBエリアのどこにもいないのだ。エルカ達は一旦城の前に集まった。
「おかしいでやんすね……。ベルーゼ様が黙ってどこかに行く事なんて、今まで無かったことでやんす」
スケ夫が心配そうに呟いた。タオや他の手下達の心にも、不安が宿る。エルカだけは、ひたすら苛つくだけだった。その時、城の門が開き、全員の視線がそこに集まった。
「……あ、皆さんここにいたんですね」
タルトだった。そういえば、姿が見えないのはベルーゼだけでなく、タルトもだったということをエルカは思い出した。ベルーゼの姿を期待した者達から、溜め息が漏れた。
「何だ、あんたか。今頃起きてきたの?」
エルカが呆れながら話し掛けた。
「はい。私低血圧で、寝起きが悪いんです」
「あっそう……。どうでもいいけど、ベルーゼがどこに行ったか心当たり無い? あいつどこにもいないんだけど」
「え? あっ……」
明らかに心当たりがあるという反応だった。エルカは追求せず、タルトが口を開くのを待った。
「……恐らく、Sエリアに行ったのではないでしょうか」
「Sエリア? あいつ一人で何しに?」
「ま、まさか一人で戦いに行ったんじゃあ……」
タオが青ざめながら言った。しかしエルカは鼻で笑う。
「ハッ! ビビりのあいつが、単身で他のエリアに殴り込みになんか行けるわけないでしょ。笑わせないで」
「いえ、そのまさかだと思いますよ」
タルトが口を挟み、エルカがピクリと反応する。
「……タルト、昨夜ベルーゼと何をコソコソ話してたの?」
「占ってほしいことがあると言われ、部屋に呼ばれました。探している者がいるとのことで……。その結果で出たのが、Sエリアの最南部の高い岩山なんです」
「つまり、そいつに会いに行ったと」
「話してる最中、ずっと殺気立っていましたから、友人に会いに行くようには見えませんでした。恐らく自らの手でその男を殺すために、誰にも言わずにSエリアへ行ったのではないかと」
その話を聞いて、ますますエルカの怒りのボルテージが上がった。弱いくせに勝手な行動を取って、それで死なれでもしたら、たまったものではない。まだまだ自分のために働いてもらう必要があるのだ。もっとも、エルカがベルーゼを生かしておきたい最大の理由は、他にあるのだが……。
「で、そうまでして殺したい相手って誰よ? ベルーゼとどういう関係?」
「理由までは話してくれませんでしたが、その男の名はスコーピオというらしいです」
「ス、スコーピオ!?」
突然スケ夫が叫んだ。今度はスケ夫に視線が集まり、エルカが詰め寄った。
「何? あんた知ってんの?」
「…………スコーピオは……ベルーゼ様の妹君、フライヤ様を殺した男でやんす」
「……!」
手下達の間にどよめきが起こる。エルカは以前スケ夫から聞いたことを思い出した。タオは、死んだ妹に似ているから情が移ったと。そして、ベルーゼの今回の行動の動機はそれだけで充分分かった。
「ベルーゼ様は……ずっとスコーピオを探していたでやんす。しかし奴は、一つのエリアに留まることはなく、尻尾を掴んだと思ったらとっくにその場から去っているという、イタチごっこを続けてきたでやんす」
「それが今回、タルトのおかげで今現在の居場所が分かって、いても立ってもいられなくなったってわけね」
スケ夫がコクリと頷く。
「ここ最近は全く奴の噂を聞くことは無くなり、諦めかけていたところでやんす。しかしそれにしても、居場所が判明したからといって、姫にすら何も告げずに行かれるとは予想していなかったでやんす」
「それだけそのスコーピオって奴が憎いんでしょうね。私の手を借りずに、あくまで自分でケリつけたいみたいだし。ていうかさ、何で妹は殺されたの? あんた前に詳しいことは知らないとか言ってたけど、本当は知ってるんでしょ」
「うっ……」
場が静まり返る。皆がスケ夫が口を開くのを待っている。他の手下達も、エルカ同様に詳しい事情は知らないのだ。気にはなりつつも、直接ベルーゼ本人に聞けるような話題ではないからだ。
「……分かったでやんす。あっしが見たこと、ベルーゼ様から聞いたこと、全てお話するでやんす」
スケ夫は空を仰ぎながら、その時のことを思い出しながら話し始めた。
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