第4話 斬りつける者 (3)
「ハッハッハ! で、その凜って子に言いくるめられただけでなく、女の子に倒された挙句、年下女子におごって貰ったと言うのか。どんだけ無様なんだよ、君は。笑わせてくれる」
盛大に笑ってくれるのはシラトラを開発した博士、翠。尤も今は天才博士と言うのは名ばかり、亮人をいじり倒すのに執念を燃やして楽しむだけの人なのだが。
「そういえば、最初に出会った時も倒されたとか言ってなかったか? 本当にダメダメだな。いっそのこと、剣道の試合でも申し込んできたまえ。きっとMに目覚めることが出来るぞ」
「目覚めたかぁ、ありませんよ! そこまでいじる必要もないでしょ」
「ハッハッハ、いやいや、愉快愉快」
これでもかと笑いこける翠。正直、直ぐ手元に転がっている本を投げつけてやろうかと思ったがその後やられる仕返しが余計にひどくなる事はほぼ確信だと悟り、大人しく座る。本当に女性は強いな。
「ふう、一つ気持ちよく笑えたことだし、本題に入ろうか。いやあ、にしても笑わすのが得意だな、君は。笑いすぎて涙が出て来たよ。で、倒されたと言えば……、第一部隊もやはり凜にあっさり倒されたみたいだね」
「本当に急に本題はいってきますね……。まあ、その通りです。多分、博士の言うとり、勝ち目なんてありませんよ」
「そんなの戦績を見るだけで分かる。誰一人として重傷を負わせずに退けたんだ。相手は余裕を持っているよ。シラトラの性能を引き出すどころか、完璧に使いこなす、コントロールを出来ていると言ったのが、今回の戦闘データから分かったな。本当にチートだな……。シラトラも……凜って子も」
「本当にとんでもないですよ。何ですか、あの強さ」
「ふ~ん、もしかすると彼女ならば隠しシステムも使うことできるのかもしれないな」
「隠しシステム?」
「そうだ。亮人君たち被験者には一度も説明していないシステムだ」
「……、博士の話を聞く限り説明されていないことだらけだった気がするけど」
「人体実験してやろうか?」
「すみません、聞かなかったことにしてください」
恐ろしい事が起きる前に話を戻してもらうと翠はパソコンをいじりだし、シラトラのCG映像を取り出した。するとしばらく操作し、やがてシラトラのアーマー全体が青白く光り始める。
「シラトラの強化システムだ。精神力をより大量に削る代償により戦闘力が増す。装着者にもよるが数倍は変わるだろうな。しかし、精神力を削る過程で起動時は理性の一部を失う」
「暴走って事ですか?」
「そんなたいそれたものじゃないが、それに近いな。理性を失うレベルも個人差はあるが、別に仲間と敵の区別もつかなく全てを破壊つくすまで暴走し続けるなんてぐらいまで失う事はないさ。勿論、それなりの危険性はあるが、かなり合法的にパワーアップは望める。正し、時間制限はある。それこそ使い続けたら暴走し始める前に精神が完全に壊れて廃人にすらしてしまう」
「確かに危険性はありますね……」
「勿論、そんな事になる前にストッパーがある。それが時間制限だ。システムを続けて使用するみたいな無茶をしない限り問題は無い」
取りあえず時間制限はある物の、あの凜の強さが更に何倍にもなるって事になる。それこそ手におえない存在になるだろう。
「そんなのに俺たちは対応できるのですか?」
「ハハッ、無理だ」
「また、あっさりと」
「当然だ。強化システムを使っていない現状でこの様なのにいけると思うか? 本当にそう思うならば君はバカを通り越した何かだな。対抗できるとしたら同等のシステムしかないのは間違いないだろう」
「じゃあ、そのシステム作ってくださいよ。博士ならちょちょちょいっと作れるんじゃないんですか?」
「……、亮人君? わたしを買い被りすぎだ。ほいそれと簡単に作れる訳がないだろ。天才と言っても日本一の頭脳とか世界トップレベルの天才とか言う化物とは違う、一般的な博士号を持つだけだよ。君からしたらわたしは天才かもしれないがこちらの世界から見れば別に特別大したものじゃない。同じ兵器の研究者としてもわたしなんかより核を研究していたあの化け物物理学者たちの方がよっぽど天才。わたしなど足元に及ぶわけもない。本当にあの天才たちは同時にとてつもない怪物、変態だよ、色んな意味でな」
まあ、確かにその通りなのかもしれない。亮人に理解できる世界ではないが。
「勿論、とっくにシラトラにも対抗できる新しい対魔物システムは開発開始している。でも、そう簡単に出来る訳もない。シラトラをもう一機作ったとしても装着者がいないんじゃ話にもならないからな」
「まあ、同じシステム作ってもあの凜を超えるのは難しいですよね」
「分かればいい。それとわたしが特別大したことがない天才と言う事を理解してもらったと言う事を前提に君に忠告もしておいてやろう」
「な、何です?」
「他にシラトラと似たようなシステムを作った人、完成させた人がいるとしてもおかしくはないって事だ」
「そう……何ですか?」
「ま、どこの組織にも研究機関はあるからな」
翠の話の理屈は分かっていたがどこか信じられないと言った感情が残った。
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