第4話 斬りつける者 (4)
いろいろと不安な要素が残っていたが魔物が出現することを拒んでくれることはない。今日もまた出現により第一部隊は出動する。だが、このところ部隊が到着する頃には魔物は殲滅。そして前回は凛、シラトラにコテンパンにされたのだ。心なしか部隊の士気は低かった。
でも、今回は違った。たどり着いたときには混合の群れが誰にも邪魔されずにのさばっていたのだ。それを目にした部隊員たちは一気に気を引き締める。そして笠木の指示の下、戦闘を開始した。
「先方部隊はブルータルを目標に攻撃開始。後方部隊、五~七小隊は離れたところに居るモルトギーを遠距離射撃」
一斉に射撃を開始。魔物を引きつけながらも一定の距離を保ちながらマシンガンを発砲し続ける。その間に亮人は確かに思った。今の時間、凜は授業中だ。確かにこんな時間に凜が魔物を殲滅しに来る訳がない。だとすれば今までのは……。
「南方より魔物の反応あり。かなりの数だ。それに備えろ」
まだ、殲滅しきれていない中、増援と言った所か。ちらりと南方の方を見ると壁があった。壁があるならばしばらくは大丈夫か。しかし、そう思った矢先、壁が吹っ飛んだ。魔物、ライトパンジーによって壁を粉砕されたのだ。それを合図に一気になだれ込んでくる大量の魔物の群れ。明らかに複数種がいる、同じく混合の群れ。だが、何より不思議に思ったのがその勢いだ。まるで何かに追われているような。
「予想以上に多い。後方部隊は南方の魔物を目標に変える。出来る限り殲滅」
とてもじゃないが、対処できる数じゃない。かなりの数が出てくるとやがて壁から出てくる魔物はぴたりと終る。と、その次の瞬間、今度は人間がなだれ込んできた。黒いアーマーを身に着け、組織立って動くその部隊。それは別の対魔物組織だった。
「MOAT社だ!」
誰かしらそう叫んだ。MOAT社。それはボーダーラックが勢力範囲とするそのすぐ横を勢力範囲とする対魔物組織。そのMOAT社がこちらの勢力範囲にまで侵入してきた……、と言うよりは魔物を追ってきたと言うべきなのだろうか。基本的に勢力圏で別れてそう頻繁に相対するわけではないが、もし出会ったらただの増援だと思って喜べる状況ではない。それに魔物の数が多すぎる。MOAT社の部隊とボーダーラックで挟みうちをしている状況ではあるが、とても抑えきれそうにない。
「数が多すぎます! このままでは持ちこたえられるかどうかが怪しい所です!」
「そんな事は分かっている! だからと言ってこんな魔物を放って撤退するわけにはいかないだろ! 今はMOATの奴らも魔物の殲滅を優先にするはずだ。なんとしてでも殲滅しろ」
やばい。明らかに厳しい。三十体……、いや、四十体はいるだろう。しかも☆☆級が五体もいる。簡単にはいかない。これをあっさり打破するにはシラトラしか……。
その時だった。MOAT社の黒い部隊の中から一人、ガタイのいい男性が堂々と出てきたのだ。後ろでは黒い部隊が発砲を続けている中、男はあろうことかポケットからスマホを取り出す。遠目から何だあいつ、と思いながらも自分の敵に集中と魔物に目を向けた。
『クラッシュシステム・起動』
かすかにそんな音声が銃撃音の中聞こえた気がした。
『システム良好、武装に移行します』
とにかく必死に魔物に対し発砲し続けた。もうそろそろ予備用のマガジンが切れかかっている頃だ。多分、これは全員が同じことだろう。もう、撤退するしかないのだろうか。そう思った時、目の前にまるで視界が斬られたような斬撃が走る。その刹那、目標としていた魔物が次々と真っ二つになって消滅していった。
『武装完了・スラッシャー』
既に驚きの余り銃撃が止んでおり、今度はその音を確かに感じだ。そして視界のその先にいたのは、黒い防具に身を包んだ男。さっき戦闘中にスマホをいじっていた男だ。その手に握られているのは日本刀のような形をした黒刀。まるでゴリラを匂わせる巨大でがっちりした体を持つ男は更にもう一本の黒々とした黒刀を腰から引き抜くと二刀流となり構えた。
後ろからブルータルの群れが襲う。それを男は確認し群れに向かって突進。刀が流れるように振られ群れを抜けて停止。その数秒後、次々と魔物の体が切断され始め空気となっていった。あっという間にどんどん周りにいる魔物を切りつける。既にMOAT社の部隊は発砲をやめ、男が戦闘終了するのを待つかのように待機し始めた。
やがて、魔物は☆☆級、ライトパンジー五体だけになる。既にライトパンジーはその男の方に向けられていた。それに対し男は一切動じることなく戦闘開始。ライトパンジーは一斉に男に向けて攻撃を仕掛けるが男はまるでその攻撃が分かっているかのように先を読みながら避けていく。その間に斬撃をどんどん入れ始める。そしてライトパンジーの足が全員負傷。地面に崩れる中、男は悠々と武器を構えた。
『クラッシュパワー・解放』
その音声が男のどこからともなく発生。黒い刀から不気味な光が揺らぎ始める。男の構えがより固くなっていき、その不安定な光がピカッと強い一瞬の光と共に安定。
『スラッシュ・十字裂斬』
その後は一瞬だった。パッという感覚が体中に響き、その後には、既に消えかかっているライトパンジーの姿があった。
亮人をはじめとしたボーダーラックの部隊が唖然。男はそんな部隊に近寄ってきた。一本だけ刀を鞘に納めると一本の刀を両手で持つ。そして地面と水平に構えると……、笑った。
「次はお前らボーダーラックだ。ここの防衛はMOAT社が受け持つ」
一気に踏み込んでくる男。狙われた隊員は見事咄嗟にブレードを立てにして防ぎはしたものの数メートルにわたって弾き飛ばされた。
「発砲! 発砲開始!」
笠木の指示の下、一斉に男に向かって残り少ない弾丸を叩きこむ。それに対し男の目が光ったように見えた。と、突如男の体が歪んだように見える。と、連続する金属音がほとばしり、銃撃がひと段落する頃にその音は止む。
そして目の前には発砲目標だった男が平然と刀を構えて立っていた。いつの間にか再び二刀流の構えで。こんなの漫画、アニメの世界でしか見た事が無かった。そう、男は銃弾を剣で全て切り落としたのだ。
いつの間にか男の後ろにはMOAT社の黒い部隊が銃を構えていた。男は右手を上げると一気に亮人たちボーダーラックに向かって振る。発砲の合図!?
「クソッ、撤退する! 撤退だ!」
いっきにふりそそぐMOAT社の銃弾の雨を後ろに受け、被害を受けながらもなんとか撤退することに成功した。
部隊員は手当てを受けながら混乱状態に陥っていた。あれは恐らくシラトラと同等のシステム。MOAT者が開発した対魔物システムだ。それに亮人は何となく気づいていた。
恐らく、ここ最近先に部隊が到着する前に魔物を殲滅していたのは凜ではなく、MOAT社のあのシステムだ。あの戦闘力ならば、部隊が到着する前に殲滅することは可能だろう。
多分、あのシステムは所詮対魔物、なんて考えは安直すぎるだろう。元々MOAT社とは犬猿の仲だ。今回のようにシステムで容赦なく部隊を襲ってくる。これに対抗するにはシラトラしかない。
でも、そのためにシラトラを使うって事は凜の言う戦争に繋がるのではないのだろうか。そう思ったが、手当てを受けている隊員を見ればそうはいっていられなかった。
「すみません、間宮隊長。俺、ちょっと出ます」
「え? お前は怪我……、は大丈夫らしいな。分かった」
亮人の体を見て問題ないと思ってくれたのか、了承してくれたので亮人はすぐさまレストラン琴吹へと足を進めた。
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