第1話 アーマーシステムの適合者 (4)

 悲劇で謎の美味を持つパスタを食べてからもうすぐ二四時間が経過しようとしていた。今日もまた、訓練が一段落、既に一時間ほどの休憩が過ぎていた頃だった。


「本当に言い御身分だよな。父に教えて貰ったのか?」

「鬱陶しいな。ちょっと今日の訓練、俺の方が良かったからってひがむなよ」

「なっ、ざけんじゃねえぞ。このやろう!」

 と、木島の文句をあしらってそれに対して胸倉を掴まれたとき、建物内に緊急警報が鳴り響く。


「市街地で魔物が出現。第一部隊はすぐさま現場に急行せよ」

「ほら、お呼びがかかったぞ。人の胸倉掴んでいる暇があったら木島も準備しろ」

「お前に命令されなくても!」


 今日は訓練が終了してから時間が立っていない事もあって全隊員が社内本部にいた。故にこういう場合は出動時に決められた場所に向い、ある程度の人数がそろったらワゴン車でむかう。


 ちなみに、何故非番の時だろうと第一部隊に出動命令が下るかと言うと、その理由は一つ。特別な部隊、エリート部隊だからだ。市街地のような住民の危険度が高い所には問答無用でエリート部隊が選ばれるって訳である。


 既に笠木が先頭に立っており、全部隊員がここに集結。数台のワゴン車に乗ってすぐさま現場に急行。もう、次の瞬間には既に住民の避難は終わっている、魔物との戦闘区域になる場所に足を踏み入れていた。


 亮人をはじめ武装した隊員が定位置に立ち戦闘準備に入ると、丁度後ろにある今は空になっているはずのビルを背中に構えをとる。

 と、やがて、向こうからご丁寧に車が放り出されて残っている道路を使ってディードホーンの群れがやってきた。


「目標、ディードホーン。フォーメーションA。殲滅開始」

 いつも通り、戦闘が開始、第一~四部隊が前に出てマシンガンを的確に一斉射撃始める。着々と作戦は進んでいるかのように思えた。けれど、後ろで急にピコンピコンと機械音がなりだした。


 亮人の位置は後ろ。つまり笠木が指揮するワゴン車の近くにいる。そして、そのワゴン車から聞こえたのは笠木の驚愕の声。

「は? 何だ? これは何だと言う?」


 そんな声が後ろから聞こえてくるが、やがてヘルメット越しに笠木の指令。

「少し離れた場所四方八方から魔物が一斉にこちらに向かってやってきている。少なくとも信号はそうキャッチした。数は数十体。まるで特定の目標、つまり、我々を倒すために進行しているかのように……、警戒を怠るな!!」

 射撃を繰り出す先行部隊、待機している後方部隊もどうどよめきが隠せないでいる。また、一つの群れだけじゃないと言うのだろうか?


「ディードホーンを殲滅完了!」

「よし、直ぐにフォーメーションC。固まって敵を迎え撃つ。ビルを背後にし、背中を見せるな!」


 じっと、緊張が走る。まるで時間が止まったかのような感覚でマシンガンを脇からもう一度構えなおすとふと後ろから小さな振動を感じ取った。でも、後ろはビルだ。気のせいだと思って再び前方に集中する。が、第七小隊長、間宮も気になったのか前方を警戒しながらも後ろを振り向いているのが視界に移る。と、同時、更に振動が大きくなっていく……、これは…………?


 嫌な予感が頭の中をよぎる。本当に前方から敵が来るのか? いや、後ろはビルだ。背後が取られることはない。むしろ後ろは安全圏のはず。大丈夫だ、大丈夫だ。そう必死に思い込ませ、マシンガンを前方に握るが、突如聞きたくもない音が耳に響き渡った。


 それはガラスが割れる音。しかもちょっとやそっとじゃない。明らかに壮大過ぎる破壊音。それが聞こえてくるのは真上、頭上、頭の上、ビル転々。ビルのガラスが……。そうだ、考えたくもなかった嫌な予想が的中したのだ。


「上だぁぁああ―――――――――――!!」


 誰からともなく叫ばれる声。それを聞いて咄嗟に反応し、その場から一斉に離れていく隊員。勿論、亮人もとっさの判断でその場を離れた。上から降ってきたのはブルータルとディードホーン、混合の群れ。

「くっそぉおおお!!」

 誰かが叫び出し、それを合図にするかのように一斉に弾丸が次々と全員の、つまり三五個ある銃口からはきだされる。だけれどもヘルメットに届く笠木の指示は裏腹だった。


「チリジリになるのはダメだ。すぐに固まれ。囲まれるぞ!」

 そう聞こえた時は遅かった。既に無人のワゴン、部隊が乗ってきたワゴンを壁代わりとしていたのだが、それが綺麗な弧を描きながらすっ飛んでいく。そして右手の方向、部隊の真横にワゴンを投げ飛ばした危険度☆☆級、ライトパンジーが登場。かと思ったら、こんどは左手の方向、ライトパンジー、二体目のご登場。完璧に囲まれていた。


 しかも前方からも新たな群れ。恐ろしい程の数のブルータル。目を疑いたくなるようなその数に圧倒されてしまう。

 とにかくかなりのスピードで迫ってきているのは確か。


 かと思ったら今度は地面が揺れた。もう、ここにいる部隊員たちは悟った。

 その予想通り、部隊の前方、地下から地面を叩き割って出て来たのは別の魔物。猿型、発火性のモルトギー。黄色の毛並みを持ち二足歩行を行うゴリラに似た魔物。スピードこそ遅いが一・五メートルを超え、かなりのパワーを有する。両肩部分に炎が揺らいでいるのが特徴。


 で、四方八方から既に魔物に囲まれた状態。誰かが指揮をして統率しないないい限り不可能な戦術を敵、魔物はやってのけているのだ。指揮官がいることはかなり確信に近くなってきているが、なにより悟った。

 こんなのどうしようもない。


「すべての小隊、一つに固まれ。攻撃よりも防御を優先しろ。この場から脱出して態勢を立て直す。応援として第二部隊、第三部隊すべてを呼んだ。まずは持ちこたえる事を考えろ」

 ヘルメットから聞こえてくるのは笠木の指示。そしてこの部隊は流石エリートと言った所か。指示を聞いてパニックになるような人は一人もいなかった。のだが、それだけではどうしようもないのもまた事実。


 既に部隊はチリジリ。固まるのは不可能に近い。比較的笠木の乗るワゴン車に近かった第七部隊はそこに残れているが、それ以外はどうしようもない。さっきからずっとマシンガンをぶっ放してはいるが、何より真上から中央を取られた、ブルータルとディードホーンの群れが厄介だった。内と外から攻められているこの状況は逃げる事さえ困難。


 そしてついに、部隊の端から断末魔の悲鳴。耳をふさぎたくなるような声と肉が踏みつぶされる不快な音。また、あっちで、こっちで。確認など出来ないが、間違いなく死者が出始めていた。

 その時に既に決心していた。この状況打破する事が少なからずある唯一の方法を取る事を。魔物に囲まれて太刀打ちできないこの状況をひっくり返せる可能性が数パーセントでもあるただ一つの方法。


「隊長、すみません。離れます!」

「な? は?」

「おい、泉。七光りだからっていい気になるな。この状況から逃げる気か?」

「黙れ、木島!! 親父は関係ない。俺は俺だ!」

 それだけ叫ぶとマシンガンを魔物に向けてぶっぱなしながら笠木がいるワゴン車に入り込んだ。


「ちょっ、泉!? 何をやっている?」

「笠木部隊長!!」

 亮人は必死の表情で笠木を見た。笠木の長い髪の奥に潜む首筋からはとてつもない汗。様々なデータを必死に見て状況を打破しようとしているのだろうが、それでも多分不可能だ。

 だとすれば、この状況で下っ端とか言っていられない。


「アーマーシステムの使用を許可してください!!」

 一瞬の沈黙、その後、ワゴン車内に笠木のとてつもない大声が響いた。

「バカか、お前は!? いくらお前の父が社長だからと言ってもこんな所で出しゃばる理由にならないぞ!」

「ここで、親父は関係ないでしょう。俺は俺の意見で言っています! この状況を打破する方法は他にありません! それにシステムはここにあるんでしょう? もしもの時のために、最終手段として用意されているはずです! 最終手段をここで使わないでいつ使うんですか!?」

「最終手段も最悪の最終手段だぞ!? そんな無責任な事、大体、上の許可が下りるはずが無い!」

「嘘ですよね。俺だって適性テスト受けた人ですよ。ある程度の事情は知っています。もしもの状況時にシステムの使用許可が出せるのは第一部隊隊長の人、つまりあなたです」

「……、ああ、もう、そうだよ、そうだ! 確かにわたしがそうだ。でも、このシステムは誰にも適合していない。お前だって何度もテストしているから分かっているだろう。お前の精神力を理不尽に削っていくこのシステムを! 無理だ!」


 笠木の眼は確かに真剣だった。この切羽詰った状況でも部下の命の心配している。笠木はそんな人物だ。だからこそ、尊敬される部隊長なのだろう。頑なに首を振り続け、大きな胸が揺れ、その長い髪が亮人の顔に当たる。それを亮人は振り払った。

「俺なら大丈夫です。今回の適性審査が来ています! それを見ましたか?」

「ああ、見たよ。ありとあらゆるデータを今ここでついさっきまであさっていたよ! 適性審査の結果、E~A、S判定の中で全てが、E、D。いや、ただ一人だけ、C判定の人がいたっけ。確かこの部隊の人だったはずだ。だったらそいつにやらせる! まだ、そいつは生きているよな!?」

「はい、生きています!」

「ならば、何としてでも連れて来い! せめてそいつにシステムを使わせる。これは本当に最悪の手段だ。ならばせめて早く連れて来い。泉、行け!!」

「ここにいますよ」


 亮人は親指で自分の胸をしっかりさした。堂々と、父の七光りとか、父の恩恵無し、自分だけの自分を、泉亮人を。今ばっかりは外で戦っている仲間たちに申し訳ないがゆったりと時間が流れた気がした。

 笠木はちらっと床に転がる適性審査結果を見て、赤く何重もの輪で囲まれた唯一のC判定、泉亮人の名前が乗っているのを確認した。

「そうか……、泉だったか……、でも、ここでお前にやらすのは……」

「さっき言ったじゃないですか! C判定のそいつにやらせるって! 目の前にそいつはいますよ!」


 正直言って、ここまで一つ上の上司に反発するとかクビものだろうが、この際そんなの関係ない。その中、笠木は手が震えながらも床下にしまってあるケースを取る。カチャッと音が鳴ると同時にケースが開けられ、中から取手付きの白いリストバンドのようなものが露わになる。実験の時、いつもはめていたそれだった。


 ゆっくりとそれを取り出す笠木。丁度その時、また外から無残な叫び声が聞こえてきた。それを耳に嫌と言うほど響いたのだろう。亮人の手にそれが置かれた。


「これを泉に託す。この状況を打破してくれ。正し、無理はするな。所詮、C判定程度なんだ」

「分かっていますよ。所詮C判定、俺自身が一番よく分かっています。でも、ここでやらなくちゃ……、笠木部隊長、すみません。ありがとうございます」

「あと、分かっているよな。そのシステムを装着すると言う事は……」

「すべてに勝る重い責任が課せられる。何度も博士から聞きました!」


 次の瞬間には外に飛び出していた。託されたリストバンドを右手にはめる。その時、既に外は地獄絵図と化していた。何人死んだんだ? いや、これ以上の死者は出させない!


「魔物ども。俺が倒してやる!」

 気合を入れるためにそんなセリフを吐いた後、リストバンドに振れる。それと同時に女性の音声が流れた。


『サモン・デバイス』


 すると目の前にこのシステム起動のカギとなるデバイスが目の前に転送される。小さなスマホみたいなそれを左手で受け取った。これをリストバンドにはめる事でシステムを起動。と、その時、全く別の場所、どこからかこんな音声が聞こえた。


『サモン・デバイス』


 全く同じ音声。どこからだ? いったいどこから? そう思っていると右手に握っていたデバイスの間隔が薄れ、ふっと消えていった。


「え? 消えた? おい、どうなってんだ!?」

「泉じゃ無理だ!」


 別の場所から聞こえてくる声。いや、その時確信した。上だ。上からその声が。そして何よりその声は……、凛?


 上を見上げようとしたその時、ビルの二階から何かが飛び降りる影。すると目の前にその人は降り立った。ショートヘアにその小柄な体型。そして見た事のある制服。その子は二階と言う高さから飛び降りると地面に着地。そして……、


「ッ~~~~」

 ……少し足首ら辺を痛がっていた。

「……無茶するなよ……」

「……、流石にちょっと高かったか……ハッ!」

 その子は急に顔を上げると頬を赤らめたままこっちに振り向いた。


「……、ちょっとしまらないが、安心して泉は下がっていろ」

「いや、安心してって言われてもな……、って、やっぱり……凛!?」

 でも、それはあり得ない。じゃあ、目の前の人は人違い。いや、でも赤らめた顔、まさに凛その者の顔だ。大体、俺の名前を知っている時点で凜と言うことは間違いない。


 だとしても、なんで、凜が左手に亮人が召喚したデバイスを持っているんだ? そして、なんで右手にそのリストバンド、ボーダーラック社が一つしか制作していないそのリストバンドを付けているのだ? そこで、はっとして、再び自分のリストバンドに触れてみる。

『コミュニケイトエラー』

 だけれども、そんな冷たい音声が流れるのみだった。通信失敗? デバイスがこっちに来ない? まさか、同じ機器が二つある事によるエラーが起きているのか? 状況が整理できないでいると魔物、ブルータルが一体、凜を襲ってきた。


「凛! 危ない」

 と、放った次の瞬間には凜は左足をさっと振りはらっていた。それと同時にブルータルが足払いされ、倒される。さらに竹刀を構えると突きでブルータルを押し返した。まさかの生身で魔物に対抗しちゃったよ!?


『プリーズ・セットゥ・ア・デバイス』

 気が付けば次の音声が流れ始めていた。それに合わせて凜はまるでシステムのすべてを知っているかのようにリストバンドにデバイスをセット。そして、音声。

『アーマーシステム・スタンバイ』

 少しの間が空いた後に、再び音声。

『システム・オールグリーン』

 確かに鳴り響いた。それを確認した凜はデバイスのタッチパネルをタッチ。

『プットオン・スタート』

 その音声と共に周りに次々と凜の小柄な体に合ったアーマーが形成され始めた。頭、胸元、腕、腰。次々と吸着していく白いアーマー。最後にヘルメットの一部分に虎のような牙が出てきて、視界部分を透視ディスプレイが形成。アーマーが青白い光を放ちながら最後にシステムはこう言い放った。


『モデルタイガー・シラトラ・ミッションスタート』


 唖然とするしかない。全く持って関係ないと思っていた凜が今目の前で、ついさっきまで自分が使おうとしていたシステムを使用してしまったのだ。しかも、いたって平然とその場で立っている。

 すると、後ろ、亮人の方に向いてくると小さな笑顔でこういった。

「心配するな。あたしは最強だ」

『サモン・タイガバスター』

 デバイスのタッチパネルを操作すると共に凛の目の前に転送されるのは白を基調とし、青いラインが数本入ったシステムのメインウェポン。それを凜は握り締めると即座に飛び出した。


『ソードモード』

 後から流れる音声、それが終わった頃は剣道のように両手で構えられた剣が第一小隊長の目の前で部隊員たちを今にも狩らんとしていたディードホーンを真っ二つに切った後だった。続いて、周りにいるブルータル、ディードホーンの群れ。それを瞬くまに撫で切り、全滅させていく。

「嘘だろ……、あんなこと」


 システムのテストを受けていた亮人には分かる。あんな動きをするまでもなく精神が蝕まれていくはずなのに、それを悠々とこなしていく凜は明らかにとてつもない。


 すると、今度、木島や間宮がいる方向へと一気に跳躍した。目の前で雄叫びを上げているライトパンジーの前に堂々と着地。一瞬動きを止めた魔物だったが、直ぐに電気が帯びた腕が凜を襲い始める。けれども、その小柄な体はなんやくそれを交わし、敵の懐に。それと同時に剣を鋭く奥に深々と突き刺した。そして何のためらいもなく引くと一瞬の間に数回の斬撃。切り刻むと血ぶりをするように振り払い、それが終わった頃にはライトパンジーは倒れ、消えかけていた。


「確かこれって、ショットガンにもなるのだったな」

 ふと凛から洩れるその声。するとデバイスのタッチパネルを操作。『ショットガンモード』の音声と共に剣が素早く変形。ショットガンの形になる。


 もしかして、本当にシステムを知っているのか?

 そう思えてしまうほどこなれたその動き。バッと再び跳躍。もう一体のライトパンジーに近づくと、ショットガンぶっ放した。かなりの衝撃音と共にライトパンジーが仰け反る。凜はそのまま前進しながらリロードを繰り返し数発発射。それによってライトパンジーは完全に沈黙。二体目もあっけなく倒されてしまう。

 その時、既に残りの魔物の目標はすべて凜に向けられていた。モルトギー、ブルータルの群れが凜に向けられる。


 そんな中、凜はデバイスのタッチパネルを素早く操作した。

『ブレイクファンクション・スタンバイ』

 すると青い線の部分にエナジーが流れるような描写。やがて銃全体が青白く光始め、銃口にそれがたまる。今にも漏れ出しそうな光がたまった。

『エナジーチャージ・OK』

 光る銃口が向けられ、凜は引き金を絞る。

『タイガーショット』


 それによって迫ってくるブルータルの群れが一気に吹き飛ぶ。かなりの反動が凜に返っているはずだが足を踏ん張り平然と立ったまま、その隙に再び剣に変形。音声と共に変形が完了するともう一塊のブルータルの群れに切りかかりだした。

 迫ってくるブルータルを片っ端から撫で切りにしていく。ブルータルの襲い掛かってくるような攻撃を全て綺麗によけながら綺麗に切っていく。

 でも、亮人は奮戦する凜の背後に魔物の群れが迫ってきているのに気が付いた。


「凛、後ろにモルトギーが!!」

「知っている」

 冷たくそれだけを言い放つと、左手だけ剣から外し、腰に仕込まれたナイフとピストルが一つになったシステムのサブウェポン、ナイフピストルを後ろにクイックドロウ。背後から迫っていたモルトギーの胸元に向かってエナジーの弾丸が吐き出される。数歩後退したのを確かめたのかしていないのかもわからないが、そのままグインと腰から上だけを後ろに回し、追い打ちでピストルを数発放つ。

 打ち終わった後、剣を地面に突き刺すとこんどはナイフの方でモルトギーを切りつける。一発目の切りつけの時、音声『ブレイクファンクション・スタンバイ』。剣を地面に差し込む前に起動していたのか!? エナジーチャージの間に体の大きさに明らかな差があるモルトギー二体の攻撃をひらりとよけながらナイフで切り付ける凜。

 一体目を超近距離からのピストル発射、二体目を跳躍から顔面にナイフを突き刺して、二体ともいとも簡単に倒してしまう。その勢いのまま今度は足蹴りを剣に向かって繰り出した。


 宙をくるくると舞い踊る剣はやがて『エナジーチャージ・OK』と言い放つ。前方に迫ってきた残り数体のブルータルをナイフピストルで距離を取らせると跳躍。投げ出された剣を握り締めると同時に斜め下に向かって切りつけた。


『タイガーストライク』

 その音声と共にエナジーが放出され、残り全ての魔物を切りつける。一筋の光となったそのエナジーの塊は周りにいる魔物を一切の容赦もなく消滅させていく。やがて、全ての魔物が空気のように音もなく消えていくと、どこからともなく風が吹き、この戦場に置いて遂に沈黙が訪れた。


 華麗に着地した凜は剣を右手で持ち上げるとくるくる回して地面に向けて空を切る。それによって生まれた空気の流れ、風が凜の足元を撫でた。


 圧倒的戦闘力。一瞬の間にあれだけいた魔物を片付けた。あれだけ大量の魔物に囲まれて完璧な劣勢にあったのにそれをいとも簡単にひっくり返した。いままで多大な犠牲を払って倒してきた魔物をあっさりと打倒した。

 亮人じゃまずこんな完璧な結果にならなかっただろう。

「そうか……、あれが……、あれが……、ボーダーラック社が対魔物のために開発した戦闘システム、あれが、本来の姿……、」

 アーマーシステム〇一、モデルタイガー、対魔物特殊戦闘アーマー散弾銃兼両刃剣武装近距離型戦闘アシストシステム……。コードネーム、


――シラトラ――

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