04-02 絡み付く意図
「おい
そのちゃれェ呼びかけに、露骨に
「お、なんだよ大将、
意外だ、って感じで
「まあな、っつか、むしろお前が長民知ってんのかよ」
「
「ケンカかよ……」
寄奴がげんなりしたとこに、長民が合流する。
「おう龍符、どうだ、
「……すげえよなお前、何でそんな堂々と逃げられんだ」
「そりゃ、俺と道済が一蓮托生だからよ!」
がははと笑う長民の後ろ、ぬぼーと立つ
「よく言うぜ、体よくこき使ってるだけじゃねえか」
孟龍符が吐き捨てるが、長民はどこ吹く風。すぐに寄奴に向き直り、「ななな、それよりよ」って近寄ってくる。
「聞いたぜ、あのムロン・チュイとやり合ったんだって? 噂の
全身これ興味、みてェな感じで迫ってきやがる。一通り聞き出すまで離れようとしねェ口のヤツだ。
「相変わらず面倒くせえな、長民」
「おいおい、心の外だぜ!? やべえ敵のこた知っとかなきゃやべえだろ? で? ん? んん?」
すげェよな。寄奴の手が出てねェ。たァ言え、そいつもそろそろいっぱいいっぱいじゃあったんだが、
――目が、合う。
長民、じゃねェ。その後ろ、檀道済だ。長民がムロン・チュイの名前を出した途端、目の色が変わりやがった。
だが、寄奴の目線に気付くと、また色を失う。
寄奴ン中で興味の虫がうずいたが、いまは抑え込む。そんかし、長民じゃねェ。檀道済に向けて、寄奴が口を開く。
「そう、だな。正直、二度とやりあいたかねえ。あの野郎、速えだけじゃねえ。一つの攻め手に二つ、三つの罠があんのもザラだ。受けが攻めだし、攻めが受けにもなってくる。こっちの手がちっとでも遅れりゃ、あっちゅう間に篭ん中に放り込まれちまう。実際、何度か囲まれて、俺と龍符で強引にぶち破ったりもしたしな」
言って龍符を見る。思い出したくもねえ、とばかりのげんなりした顔つきになる。
「ほうほう、で、で!? ぶっちゃけ、トゥバ・ギとどっちが強い?」
「あ?」
危うく、切れそうになる。
が、なんとか堪えた。
「ガキかよ。どっちが強えかなんて、そんなもん当人がいねえとこでくっちゃベっても仕方ねえだろ。勝ったら強え、強えから勝つ。そんだけだ」
それで、話を打ち切る。
どっちが強えェか。そいつを知りてェのは、むしろ寄奴の方だ。
中原じゃ、いよいよトゥバ・ギとムロン・チュイがぶつかり合った、って聞く。
それもその筈、北の方じゃトゥバ・ギの奴が後ろの敵を平らげ、いよいよ南下、って動いていやがった。こいつをおめおめほっときゃ、ごっそりと領土を削り取られちまう。だから、ヤツとしても無駄に損害を出したかなかったんだろう。
ムロン・チュイと、トゥバ・ギ。どっちが勝つにしろ、結局寄奴の前に立ち塞がってくる奴がいる。なら考えなきゃいけねェのは、どっちが、より厄介か。
戦ってみた感じだと、やべェのはムロン・チュイだった。が、肌感なんざどこまでも当てにしていいモンじゃねェ。しかもトゥバ・ギと寄奴がやりあってから、もうだいぶ日にちが経つ。寄奴があん時の寄奴じゃねェように、トゥバ・ギもあん時のままじゃねェだろう。
まァ、手の内さらしちまってる事考えりゃ、ムロン・チュイに
なんだよ、って長民が舌打ちする。たァ言えそこで諦めるタマでもねェ。更に寄奴に食い下がろうとしたが、
「将兵、注視せよ!」
見りゃ、将軍の隣にゃちょっとしたやぐらが組んであった。
そこに、
「間もなく、我々は賊徒との交戦に入る! 死地に臨み、王
劉将軍のお声に、どいつもが背筋を伸ばす。分かりきった話じゃあった。誰も、王恭になんぞ興味ァねェ。ただただ、将軍のご号令だから、ってしゃっちょこばった。
「社稷に身命を惜しまぬ、烈武の士よ」
この上なく勿体ぶって、王恭が言う。
が、その一言めで、どいつもが王恭への興味を失った。
総大将どのだ。いろいろ言いてェこともあるんだろう。さすがに、そこをシカトしようたァ思えねェ。っが、まさか一言めから、まるで学もねェ己らクソどもをおいてけにしようたァな。
そっから王恭さまがうだうだお語りになる。おーおーご高説お見事お見事、ところで王恭さま、あんたのお言葉、どいつがまともに聞いてんのかね。
王恭の話が一段落したとこで、劉牢之将軍が進み出た。
「此度の乱には、幾つか中央に絡む噂も流れている。我々は情報を求めている。通常は耳給だが、此度は文の内容に関わらず、耳に十を倍する褒賞を約しよう。無論査定の後有用な情報と分かれば、更に上乗せも考える」
さすがは将軍、ってとこだな。
己らがいっちゃん好きなモンを、きっちりご承知でいらっしゃる。
どいつもこいつも目つきが変わる。誰かが「大晋! 大晋!」って言いだしゃ、あっちゅう間にそいつが広がっていく。ところではじめに言いだしたヤツ、劉将軍の側仕えの一人のはずだが、何で雑兵の格好してんのかね。
「卿らの奮戦が、大晋の栄華に繋がる! 各々の尽力を請う!」
太平楽な王恭さまが、ノリノリで仰った。
大丈夫だぜ、一応寄奴は聞いてたからよ。
今回の出陣に対して、
例えば、この
元顕の野郎ァ、この地で民草からの収奪にずいぶんお忙しくしてらっしゃる、って事だった。こいつを恨みに思った庶民、それから自力で領地を経営できねェ零細貴族どもが、乱に荷担すんなァ当然のなりゆきだ。
だから王恭も手早く軍勢をまとめて、動いた。だらだらしてりゃ、元顕の横槍が嫌でも入るだろうからな。その前に会稽に乗り込んで、証拠を挙げて、中央から元顕を引っこ抜く。
で、元顕だって黙って引っこ抜かれるつもりァねェだろう。何かを仕掛けてくるに決まってる。が、そいつがどんな手立てなのかは、蓋を開けてみなけりゃ分かんねェ。
ったく、無邪気に敵をぶっ殺してるだけでいい、って訳にゃいかねェんかね。
どいつもが装備の確認だなんだを始める。そん中で、ふい、と劉牢之将軍に近付く人影が、一つ。一言、二言を交わすと、急に将軍の顔が強ばった。
やり取りはそんだけだ。その後の将軍ァ、また方々にてきぱきと指示を飛ばしたり、王恭の長話に魂殺した顔で臨まれたり。
そう言ったのの中、寄奴を呼び、作戦だなんだを伝えてくる。
そんで、一通りの話を聞いた後。
「ところで、将軍」
「何だ」
「さっきの、元顕ですか?」
回りくどく聞いても仕方ねェだろう。いきなし、本丸に切り込む。
将軍がわずかに、驚きをお浮かべになる。それから、大きく息を吐く。
「――長生きできんぞ、深入りしたがりは」
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