第13話

あきらたちは宮脇から春日千鶴の実家の場所を教えてもらい、王子へと車をはしらせた。

 池袋を出発したのは午後四時で、夏場の日はまだまだ高い。

 とはいえ、おそらく今も千鶴の母、聡子が水商売をつづけていると考えれば、できるかぎり早く到着するにこしたことはない。入れ違いは避けたい。

 北池袋から竹橋、江戸橋、堀切の各ジャンクションを経由して王子へ。

「春日千鶴は片桐殺害に関与していないのかもしれませんね」

 流れていく景色をしばしみやっていたあきらはハンドルを繰る幽人を見た。

 彼はベトナムコーヒーをたっぷり味わったというのに、コンペイトウを口のなかで転がすようにして食べている。

「片桐の殺害には深い恨みが見られた。恨みって、ある意味では執着しているってことですよね。乾いた人間と警部補がいった春日千鶴像とは正反対です」

「そうだな」

 幽人は小さくうなずく。

「このまま春日千鶴の足取りを追うことは正解なのでしょうか……」

「しかしこれ意外に辿るべきものがない。そうだろ?」

「そう、ですね。すみません、弱気なことを」

「いや。そう思うのは当然だ。俺たちはドラマにでてくる筋書きが決まった世界にはいない。どれだけ苦労して手に入れた情報がなんの役にもたたないことはままある。そして事件は、必ず解決するとはかぎらない」

 ずっしりとした重みをともなって幽人の言葉がのしかかる。

「だからこそ、俺たちには信じることが大切であり、必要だ」

「はいっ」

 あきらは弱気になりそうになった心を奮い立たせ、手帳をひらく。そこには永田朋香の生前の写真を挟んである。今はもう見ることのできない輝く笑顔の同年代の女性をじっと見つめる。

 刑事としての技術は未熟だ。たとえそうでも、被害者のため――その気持ちは、警察官として任官したときから胸にしっかりとある。

 信じて進む。あきらは念じるように口のなかで唱えた。

 車が市街地に入るとコインパーキングに車を駐める。

 電柱の番地をみながら探していくと、大通りから一本伸びた道を十分くらい歩いた左手側にに築うん十年の古ぼけたアパートが建っているのが見えてきた。

 オレンジ色の夕陽のなかに半ばとけこみ、昭和レトロの雰囲気をかもしだす。

 アパートの壁に『畑谷コーポ』とあった。

 今も住んでいるというのであれば102号室が春日千鶴の実家ということになる。

 小さな石段をあがって敷地に入ると集合郵便受けがある。

 102号室には『春日』の文字。しかし郵便受けにはスーパー、パチンコ屋、デリバリーなどのチラシに、電気ガス水道等の請求書がおしこまれ溢れかえっていた。

「不在、でしょうか」

「……一週間以上は家を空けているかもしれないな。とりあえず部屋をみてみよう」

 足首が隠れる程度の背丈の雑草が茂るなかを通って、102号室の前にいく。外に設置された洗濯機の上をクモが這う。

 電気メーターは回っていない。だめもとで呼び鈴を鳴らす。応答なし。

 もう一度押しても反応はなかった。

 ノックをして、呼びかけてもみた。しかしやっぱりうんともすんともいわない。

「……警部、どうしま……警部……?」

 幽人を見ると、彼は扉に手を沿え、睨むような怖い目で扉をじっと見つめている。

「――歪みだ」幽人は呻くように言った。

「え?」

「歪みを感じる」

「……永田さんの家で感じたもの、ですか」

「そうだ。それも、いくつかの気配を感じる」

「ということは、ここで人が……?」

「いや。そうとは言い切れない」

 幽人は再び集合郵便受けに戻ると、チラシを押し分け、郵便物を選り分ける。

 そこには手書きの催告状があった。どうやら家賃を三ヶ月分滞納しているらしい。そこにははやく家賃を払う旨、そして大家の電話番号が記載されている。

 日時をみると、一ヶ月前のものだ。

 すくなくとも二ヶ月は戻ってきていないのか、それとも無視しているだけなのか。

 幽人は携帯で大家の番号を押す。

「――私、警視庁の樋筒と申します」

 幽人は大家と会話を交わすと、電話番号らしい言葉を口にした。あきらは慌ててメモをとる。 幽人はそれを認めると、礼を言って切る。

「携帯に電話してもいっさい応答がないようだ。大家はこの近くにすんでいて、昼間にも様子をみているようだが、どうも在宅している様子がないらしい」

「それじゃ」

 幽人の感じた歪みの意味するものに信憑性が増して、鳥肌がたつ。

「とりあえず勤め先を訪ねてみるか」

「わかりました」

 あきらは電話番号をよみあげ、幽人が携帯を捜査する。

 向こうの声が大きく、かすかに電話口から声がもれてきた。

 警視庁の名前を出した途端、今は開店準備中だからいそがしいと言うが、幽人は押しの強そうな酒やけ声などものともせず、春日聡子の名前を出した。すると、三ヶ月前から無断欠勤、首よ首と早口にまくしたてて、電話は切られた。

 幽人は大家に再度、連絡をとってマスターキーをもってきてくれるよう頼んだ。

 最初はそれでも――と勝手に部屋にあがった際のトラブルを懸念した反応がかえってきたようだが、

「勤め先にもここ三ヶ月間、顔をだしていないようなんです。もしものことがあります。どうかご協力ください」

 と幽人が半ばおしきったのだった。

 大家は五十代くらいのひょろりとした男性だ。老眼鏡ごしの目が不安をおぼえて落ち着かないようだった。

「ご足労いただきすみません」

 あきらは頭をさげると、大家はいえいえと恐縮し、こちらの様子をうかがうような上目遣いをした。

「あのー、春日さんは、なにか……そのー、犯罪に?」

「いえ。なにかをしたというわけじゃありません。ただ、娘さんについてお聞きしたいことがありまして」

「ああ、なるほど……」

「なにか心当たりが?」

「あ、いえ。何度か、喧嘩というか、口論というか……。そういうことで、トラブルと申しますか、違う部屋の方から苦情がありまして……」

「これまでは家賃の滞納はなかった?」

「なかった、とは言いませんが。まあ、何の音沙汰もないというのははじめてですね……」

 大家はチラシがあふれかえった郵便受けをみた。

「……ほんとうに、大丈夫なんでしょうか」

「万が一のことがありますので」

 幽人の声に、大家の表情が夕闇のなかで強張る。

 ガチャン、と硬い音とともに解錠された。

 大家はさっと後ろへさがり、あきらたちへ場所をゆずる。

 幽人がドアノブを回すと扉がひらいた。

 室内の蒸された空気が出口を求めて殺到してきているようで思わず顔をしかめてしまう。

 かすかなほこりのにおいが鼻をつく。

 室内は薄暗い。

 電気をつけようとしたが、スイッチを押してうんともすんともいわない。

(まあ、そうよね。あの状態で電気料金は払ってるともおもえないし……)

「懐中電灯があれば……」

 台所の明かりとりからさしこんでいる、外からのあるかなしかのあかりを頼りに玄関周りを窺うと冷蔵庫のうえに懐中電灯があるのをみつけた。

 スイッチをつけるとちゃんと電気もついた。

「ひゃっ!」

 明かりの下にさらされた光景に、あきらは悲鳴をあげてしまう。

「ど、どうかしましたかっ」

 後ろ手で締めた扉ごしに大家の引き攣った声。

「あ、いえ、すみません。なんでもありません。ちょっと……む、虫が……」

 あきらは耳まで赤くなりながら言った。

 キッチンのある板間の床には、無数のハエとおぼしき虫が死んでいたのだ。

 入ってすぐにキッチンのある板張りの部屋があり、その奥が和室だ。

 コタツテーブルがちらりとみえている。特に散らかっている印象はないが、荷物が多い。

 あきらたちは床にほうりだされていたスリッパを拝借した。それでも心なし爪先立ちになる。

 キッチンのある板間に面している風呂場をのぞく。浴槽には水がたまっているが、黒く淀んでいた。

 あきらは窓の桟に目を走らせると、虫にまぎれてほこりが厚くつもっている。

 奧にある六畳間へ入る。

 懐中電灯の助けをかり、幽人がハンカチで口を押さえつつ、カーテンをいっぱいにひらく。

 日暮れのあかりが入るだけでももずいぶんと違う。

 やっぱり板間と同じように虫の死骸が目についたが、なんとか悲鳴だけはこらえる。

 室内にはこたつテーブル、そして部屋を狭苦しくみせている大量の衣料品がかかっているハンガーラック、そしてテレビ台。

 テーブルの上にはノートパソコンと皿。

 皿にはなにかよくわからないが、白いものがべっとりとはりついている。見た目だけでいうなら、食べ残しのモチが放置されて硬くなったものに近い。

「……警部。歪みはこの部屋から、ですか」

「永田朋香の部屋よりは薄いが」

 幽人は皿にこびりついているものに触れる。

「ロウソク、か……?」

「電気が停められてるから、でしょうか」

「その可能性はなくはないが、だったらその懐中電灯だってこの部屋にあるべきだ」

(朋香ちゃんの現場にも)

 そんな考えが一瞬過ぎってから頭を振る。ただの偶然を無理矢理つなげて考えるわけにはいかない。

「冷蔵庫に置かれているのはおかしな話だ。――さて、他に調べるべき場所は」

 あきらたちの視線は自然と押し入れに向かった。

 幽人の手がふすまにかかり、ひらかれる。一般的な押し入れと同じように上段下段にくぎられ、上段には布団がおかれている。下段には柵のようなものがおかれている。犬を飼っているうちで会談前や玄関前でしばしば見かける行動を制限するためのものだ。

 当然このアパートはペット禁止だろうし、仮にこっそり飼っていたとしてもここにおくのもおかしな話だ。

 幽人は中腰になって暗がりをのぞきこんでいる。

 あきらも一緒になってちらっとみる。

(人形……?)

 しかしそれにしては大きなものが柵の向こうにある。

「懐中電灯あるか」

 さすがに夕陽の明かりだけではわからなかったらしい。

 あきらは幽人の肩ごしに懐中電灯で奧を照らした。

「っ……」

 ぞわりと前進の産毛という産毛が逆立つ。

「ひ、人……」

 茶褐色の膜が身体全体を張りついている。それでも辛うじて目鼻の痕跡、むきだしにされた黄ばんだ歯、まくれた唇はたしかに確認できた。

 遺体がまるでなにかにおいたてられるように押し入れの奥でうつぶせにうずくまっている。

「警部、こ、これ……」

「ミイラ……いや、屍蝋、か?」

 写真ではなく、まともに見るのははじめての遺体に、鼓動が早くなる。

「本物、でしょうか……」

「こんな押し入れに人体模型を押しこむようなセンスの持ち主には見えないな」

 幽人は淡々と言い、あいらから懐中電灯を受けとると、柵を外し、身体の半ばを入れて隅々までしっかりと照らす。と、白骨の奇妙な恰好に気づく。

「警部、あれ……」

 遺体は背中で腕を交叉するように、両手首を革のベルトできつく縛りつけられていた。打ち捨てられた遺体と、新品同様のベルト。そのなんともいえないちぐはぐな対称に怖気をふるう。

(ロウソクに、拘束……)

 永田朋香もまた拘束されていた。

「軟禁されたまま、死んだのか」

「だから、歪み……ですか」

「たしかに打ち捨てられた魂が、別の魂を引き寄せることはありうるし、これまでも何度か遭遇してもいる。だがこの部屋にある歪みをつくっている魂はまるで逃げ場を失っているかのようだ。そうだな、沈殿しているといったほうがいいか」

「――とりあえずちかくの署に連絡をいれましょう」

「待て」

「待てって……」

 幽人はすぐうしろに遺体があるというのに、ポケットからとりだした手袋をはめたかとおもうと、パソコンをもちあげたのだ。

「――警部、なにをされてるんですか。ここは現場ですよ。勝手に触るんて」

「ちゃんと手袋はしてある」

「そういうことじゃ……」

「現場検証がはじまればこのパソコンだって押収される。俺たちが手をつけられるのはいつのことかわからないだろう」

「ですが」

「気づいているか。この部屋はそっちの板間とくらべれるとホコリのつきが少ない」

「……はい」

「このパソコンにもあまりつもっていなかった。白骨化するまでは気象条件がさまざまあるが、最低三ヶ月はかかるはずだ。つまりパソコンをつかっていた人間がいたということだ」

「……は、犯人」

 あきらは口のなかが乾くのに気づいた。

 幽人はパソコンを小脇にかかえると、家を出た。手持ち無沙汰そうだった大家が「なにかありましたか」という呼びかけを無視する。

 あきらとしても遺体があることを告げるべきかと幽人のほうをちらちらみる。

 幽人は隣家に設置されている洗濯機の電源プラグを抜くと、ノートパソコンの電源コードを差しこんで起動させる。

 ネットにはもちろん接続できないが、それでも履歴くらいは見られる。

「熊虎。このサイトのアドレスをメモしろ」

「分かりました」

 あきらと入れ替わった幽人は大家に遺体が見つかったことを告げ、110番するように言った。

 しばらくして付近の交番から制服警官がかけつけ、さらに何台かの機動隊の覆面パトカーがやってくる。

 そこまでにはパソコンは元あった場所に戻しておいた。

 幽人は大家にパソコンの件はなにも言わないように釘を刺すことを忘れなかった。

 閑静な住宅街は警察関車輌や現場付近の交通整理に駆り出された警察官とで騒然とした。

「さてと……。事情はわかりました」

 王子警察署刑事組織犯罪対策課強行犯捜査係の初瀬警部は口をひらいた。

 今、あきらたちから遺体をみつけるにいたった経緯の説明をうけていたのだった。もちろんノートパソコンの件については一切、話してない。

 初瀬警部は面長であつぼったい目蓋に、顎には無精髭がめだつ。

「捜査の進展具合は教えてもらえるますか」

 幽人の融通無碍な発言に、初瀬は顔をただでさえへの字を描く口元をきつくした。

「おそらく帳場がたつことになるでしょうが……まあ、そのあたりは本庁の方々同士でうまくやっていただければと思います」

 つまり、知るか、ということだ。

 何にせよ、これでようやくあきらたちは開放されるに至った。

「……あの人、あまりやる気がありませんでしたね」

「仕方がない。それに、やる気をなくさせているのは警視庁の問題だ」

 捜査本部ができれば所轄の警察は半ば本庁の捜査一課の道案内係のようになってしまう。もちろん所轄の刑事は事件解決に全力を注ぐが、はなから付属品のように扱われてはおもしろくないだろう。

 車のところへ戻る最中、幽人はどこかへ電話をかける。

 すぐに電話口におぼえのあるだみ声が聞こえてくる。

 どうやら聡子の勤め先であるスナックに客を装って電話をかけているらしい。

 女性店主はさっきかけてきた警察とは気づかず、店の場所を教えてくれたようだ。

 聡子の勤め先である『スナック まり』は駅前の大通りから二つほど離れた細い路地にたたずんでいる。

「お前は、ここで待ってろ」

「でも」

「他の客がいるんだ。それに、女性同伴でスナックも変だろう」

「……わかりました。あの、愛想良くお願いします」

 幽人はすこし怪訝な顔をすると、さっさと店内へ入っていく。

 あのぶっきらぼうな口調で女性店主を怒らせ、酒やけした声で怒鳴られているのではないかと思うと、不安になる。

 しばらくして幽人がでてくる。そのうしろには茶色く染めたセミロングの、肩幅のがっしりとして押し出しの強そうな女性が顔をしかめている。

 あきらは早足で駆け寄る。

「ちょっと。うちにまできて営業妨害じゃないっ」

「協力しないのであれば王子警察のほうにここの情報を伝えないわけにはいきませんね。煩わしいことになるかもしれませんよ」

「あんた、警察のくせに脅すのっ」

「脅しているわけではなく事実です。面倒事はお互い――」

 あきらは幽人と店のオーナーの間に割って入り、できるかぎり人当たりのいい笑顔をむける。

「すこしの間ですみますから。ご協力をお願いします」

 あきらがぺこぺこと頭をさげると、女性オーナーは鼻を鳴らしながらも、眉間によせた皺のうち一本をなんとかなくしてくれた。

「春日聡子さんですが、どんな女性でしたか」

「なにをやっても要領のわるいダメ女よ。ただそれだけならまだしも見栄っ張りなところもあってねぇ。最初は調子のいいことをいうんだけど、ぜんぜんつづかない。仕事もやたらと欠勤が多くて。シングルマザーで困ってるっていうからお情けで雇ってあげたんだけど……あるときにね、あの子が若い男とちちくりあいながら街んなか歩いてるのをみちゃって。ああ、こりゃだまされたってね」

「おつきあいしてる男性がいるんですか」

「おつきあいっていうか、あれは単純に男に利用されてるってかんじだわね」

 女性はすこし表情を曇らせる。

「私がみたのはひとりだけど。なんとなく店の子に話しをふってみたら、とっかえひっかえしてるらしいよ。のろけられて写真みられてうんざりってしてるって大不評。いったいどこでみつけてくるんだか。あの子も年の割には美人だけどさぁ。まあ、しょせんは四十の女よ。尽くして尽くしてその末に捨てられる――の、くりかえしよ。そのたびに店を休まれて、まったく……」

 いつの間にか火を付けたたばこを吸う。

「で、あの子がどうかしたの。なんかしたわけ?」

「殺されたようです」

 女性はふうんと小さくうなずき、紫煙をはきだした。

「あまり驚かれないんですね」

 あきらは思わず言ってしまうと、じろりと睨まれた。その凄味に、思わず後退ってしまう。

「薄情に思える?」

「いえ、そういうわけじゃ」

 女性オーナーは少し悲しげにつっと視線を逸らす。

「……まあ、なんていうの。年を重ねて水商売に入る子ってのは誰も彼もなにかしらの問題をかかえてるもんよ。本人がそれを意識してるかどうかはともかくね。……さすがに殺されるような子ってのは私ははじめてだけど、同業者同士とつるんでると、まあ、DV男に半殺しにされた、なんてことはミミタコだからさぁ。刑事さん、あんたいくつ?」

「は、二十歳です」

「図体はおおきくてもまだ子どもじゃない。いい? こつこつ生きるのが人生、幸せの道。あと男には十分気をつけんのよ。どんだけ優秀な人間もね、男ですべてをぶちこわしにするんだから。こんな愛想のかけらもない男にひっかかるんじゃないよ」

 あきらは「はあ……」と曖昧な返事をするしかなかった。

「用件ってのはこれでいいわけぇ?」

「あの、娘さんとはお会いしたこと、ありますか」

「ない。聡子から話しを聞いたことがあるけど、正直、うそだって思ってたし」

「どんな風に放してました?」

「子どもっぽくなくて、可愛げないとか愚痴ってたわね。ま、思春期の子どもはえんえんと背伸びしてるもんだし、そういうもんでしょって言ったら、唇とがらせちゃって。ま、あの幼い精神状態の親をもったら、どんな子だってはやくひとりだちしたくなるでしょうけど」

「そうですか……。ありがとうございます」

「じゃあね。もう、くんじゃないわよ」

 女性はタバコを足で揉み消して店へ戻っていった。

 ふう、と思わずため息を漏らしてしまう。

「突かれたか?」

「あ、い、いえっ」

「無理をするな」

「でも、まだやれますから。それにあのパソコンの履歴も調べないといけません」

 あきらは今日はこれで解散だと言われたくないという一心で言った。

「分かった。じゃあ、戻るか」

 今回は幽人はあっさりと折れた。

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