金曜日の魔女

終末禁忌金庫

金曜日の魔女


 金曜日の魔女は、どこか空々しい。朝目が覚めて、手探りで眼鏡を掛けて、そうして電気ケトルに水を注いで珈琲を作る。飲む。その一連の仕草のひとつひとつ、どれを切り取っても、どこか味気ない。あるいは、文学の一幕だと言われたとて、信じてしまいそうな。否、黒子の操る人形の方が、もっと生き生きとしているだろう。


 金曜日の魔女は、珈琲の湯気で曇った眼鏡を指先で拭う。そこで初めて人間味が生まれた気がする。なんてことはない、寝ぼけていただけの話である。彼女は、正真正銘の人間であり、魔女である。もちろん、魔法だって使える。得意な魔法は、人と人の関係を険悪にする魔法。名付けて、メタルファティーグ。金属疲労、だなんて、情緒も風情もない。けれどいかにも真実を突いているようにも思える。


 金曜日の魔女は、陰険である。人間関係を悪化させる魔法を喩えて金属疲労と呼ぶなど、性格が歪んでいる。が、彼女自身もその性格の悪さを自認しており、また情けなく思っているところは、辛うじて救いがあるだろうか。可愛げはどこにもない。やはりどこまでも陰険である。


 金曜日の魔女は、珈琲とトースト一枚を飲み下し、寝間着姿のままふらりと家を出る。14階建てのマンションの最上階の角部屋から、鼻歌ひとつ奏でながら、遠足気分で家を出る。途中、ゴミ出しに現れた隣人の少女とすれ違い、一気に青ざめる。魔女は、自身の鼻歌のひどいできであることを知っている。


 金曜日の魔女は、町へ出る。今日も今日とて、魔法を使うのだ。仲の良い友人同士、付き合いたての恋人同士、親しげな先輩後輩。彼ら彼女らの人間関係を摩耗させる。それを傍目から見て、ケタケタ笑うのである。日課の趣味である。陰湿である。


 金曜日の魔女は、自分の笑い声にはっとする。ひどいカラス声である。したたかにしょげかえって、コンビニで買った珈琲をちびりとやる。楽しそうに笑いながら目の前を行く男女を見つけて、再び指先を振るう。途端に、男が失言。女がそれを耳聡く聞き咎めて、口論に至る。


 金曜日の魔女は、もいちど珈琲を傾ける。目を細めて、鼻で笑った。男と女は再び手を繋いで歩き去っていった。魔女は、珈琲の苦さのためにか唇を尖らせた。



■あとがきというか蛇足というか


 金曜日の朝に思いつきました。社会人の皆様は、花金だとお騒ぎになられることでしょうが、サービス業に従事する僕からすれば、地獄の2日間の始まりです。土曜日に外で遊ぶ社会人は、ぜひとも家で体を休めてください。お体に障ります。


 メタルファティーグ、という言葉で勘付いた方もいらっしゃる方もいるかもしれませんが、紫の格好をした魔女の影響を受けています。それから、太宰治著女生徒の主人公からも少々。


 結局、なにを伝えたかったのかという、書き上げた僕自身にもいまひとつわかりません。みなみなさまのご解釈にお任せします

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