現代におけるブアメードの血

 大前提となるが現代でブアメードの血に関する再現実験を行うことは倫理的に不可能である(法律的には不能犯ということで未遂犯にもならない可能性が高い)ことを頭の片隅に入れておいたうえで筆者や筆者以外の催眠術を扱うものが行ってきた実験やパフォーマンスに関して説明を行う。


 聖痕スティグマータ現象というものをご存知だろうか。聖痕スティグマータとはイエス・キリストが磔になった際についたとされる傷とされているが、聖痕現象は何らかの科学的に説明できない力によって信者らの体に現れるとされている類似の傷をいう。

この聖痕現象はキリスト教の歴史においてたびたび発生しているとされている。スピリチュアリズム普及会第3公式サイトによると「代表的なものとしてイタリア人のピオ神父(1887~1968年)です。ピオ神父は15歳でフランチェスコ修道会に入り、修道生活を送っていましたが、23歳のとき手に鋭い痛みをともなう“聖痕”が現れました。その後、31歳になって神秘体験をきっかけに、両手・両足・胸からどくどくと血が流れ出るようになりました。そして81歳で他界するまで、毎日のように聖痕と出血が続きました。ピオ神父はその苦しみに耐えながら、人々のために祈りを捧げる日々を送りました。1999年、亡きピオ神父は“福者”に列せられています」と書いている。


 何かしらの傷が現れるという意味では再現が可能であるとされている。ブライアン・イングリスは自著で実例として「さらに驚くべきことに、催眠状態の中で与える暗示によって、火傷その他の外傷を被験者に発生させることができるという事実が発見された。……ジャネは患者のひとりに催眠をかけることによって、どう見ても本物の火傷としか思えないものを生じさせることができた。その火傷は水泡を伴い、最終的には痂皮まで形成されたのである。そのような形で発生する斑点ないし変性は、患者の思い込みを反映していることもあった。ある女性患者に、胃の上に芥子湿布を当てたという暗示をかけたところ、丸みを帯びた長方形の赤みがそこに発生したのを見て、ジャネは驚いた。すると、患者は、その形も大きさも、自分がいつも使っている芥子湿布と同じだと言ったのである」と述べている。


 しかし、ピオ神父のような血が流れるという血汗現象を暗示によって引き起こすという例は現代でも起きていない。現代においても暗示では血を流すような怪我をさせるのは不可能であるというのが主流な考え方である。



 ここで変わった催眠を紹介させていただく。催眠術師がパフォーマンスで用いる催眠の一つに人型のぬいぐるみと感覚をつなげるという催眠が存在する。まるでエロ漫画に登場するような催眠だなと思った方もいらっしゃるかもしれない。まあそれは置いておこう。


 感覚がつながる催眠をかけた状態で人型のぬいぐるみの手を触れば実際に手を触れられたような感覚に陥り、ぬいぐるみの脇の下をくすぐれば実際にくすぐられたような感覚がし、笑ってしまったりするという。ただし、この催眠は相手がぬいぐるみを視覚的に認識してる場合に限るが。。。


 興味深い現象として、ぬいぐるみを殴れば実際に殴られたような痛みが生じるというのだが、繰り返しぬいぐるみの同じ場所を叩いたりしていると、催眠にかかった相手がぬいぐるみの殴られたりした場所とほぼ同じ場所の皮膚が変色する現象が起きたのである(このことは筆者も実際に確認している)。このことから催眠によって聖痕現象を引き起こすということが可能であると考えられる。



 そしてアダルティックな話題となってしまうが、催眠音声というジャンルをご存知だろうか。催眠音声といっても多岐にわたっているのだが詳しい内容に関してはここでは割愛させていただく。

 催眠音声というのは音声によって暗示を入れることで手を使わず卑猥なことを音声による想像だけで行うことであるが、これに関しても非常に興味深い現象であると言えるのではないだろうか。



 ブアメードの血そのものは行われていないものの 催眠によって様々な現象を引き起こせるということは理解していただけただろうか。

 少なくとも筆者は催眠によって人を殺す、人が死ぬという現象を引き起こすことができるという考え方には否定的である。人には防衛本能が存在し、危険な直面になると生存本能が働くからである。


 また催眠音声について読んだ時に、催眠音声を試したことがあるけど、実際には何もかからなかったという方もいるのではないだろうか。

 催眠をかける催眠術師や臨床心理士などにも技術がいるが、催眠にかかる人にも被暗示性というものが存在する。この被暗示性が強い人ほど催眠にはかかりやすいし、これが弱い人ほど催眠にはかかりにくい。ぬいぐるみとの感覚共有や催眠音声にはまるほど催眠にかかりやすい人とは2割程度である。ただし、これは催眠の階層でいう記憶支配までかかる人の割合であり、肉体支配までであれば、7割くらいの人は催眠にかかるだろう。


 何度も繰り返しているが、催眠とは身近に存在するものである。




ブライアン・イングリス (1994) 『トランス』春秋社


スピリチュアリズム普及会第3公式サイト(2016年4月21日参照)

http://sp-phenomena.in.coocan.jp/part3/p3chapter1/p3c1-08.htm

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