第6話 掃除の時間の大親友、にわとり

淳一が、保育園の年長組になり、

給食の時間にお腹が痛くなる癖も、ようやく克服したときのことだった。




園児たち:「ごちそうさまでした!」

給食が終わると、園児たちは掃除にとりかかる。


教室、玄関、そしてにわとり小屋、この3か所を、

園児たちは日替わりで、班に分かれ、それぞれ掃除をした。


にわとり小屋には、2匹~3匹のにわとりが居て、

そのにわとり小屋の掃除とは、主に糞の片付けだった。


園児の中には、汚物を扱うのが嫌で、先生の目を盗んでは、

にわとり小屋の日だけ、掃除をさぼる園児もいた。


そんな中淳一は、先生に怒られるのが恐くて、

にわとり小屋の掃除のときも、ちゃんと掃除をした。


先生に怒られる恐怖を考えれば、

にわとりの糞の片づけなんて、へっちゃらだった。


しかし、日に日ににわとり小屋を掃除する園児は減っていく。

4人から3人、3人から2人、気が付くと、淳一1人でにわとり小屋の掃除をする日もあった。


園児たちのにわとり小屋掃除さぼりはひどくなり、先生も収集がつかなくなっていた。


ある日先生は淳一に言った。

先生:「岡野君は明日もにわとり小屋の掃除をしなさい。」

淳一:「・・・・ハイ。」


またある日、先生が淳一に言った。

先生:「岡野君は今週ずっとにわとり小屋の掃除をしなさい。」

淳一:「・・・・ハイ。」


さすがに淳一も、疑問を感じ始めた。


毎日日替わりで掃除場所が変わるはずなのに。


そして自分を省みた。


何かの罰だとして、淳一に思い当たる節はなかった。


淳一は、毎日のようににわとり小屋の掃除を担当することになった。




そんなある週替わりの月曜日、淳一は掃除をする場所で悩んでいた。


‟普通のローテーションで考えれば、今日は玄関掃除なんだけど、勝手ににわとり小屋の掃除に行っていいのかな?・・・・勝手なことしたらまた怒られちゃうかな・・・・。”


淳一は意を決して、玄関掃除にとりかかった。


しばらくして、先生が淳一に怒鳴った。

先生:「あなた何でこんなところにいるのよ!」

淳一:「・・・・えっ?」

先生:「あなたはずーっとにわとり小屋の掃除よ!早く行きなさい!」

淳一:「・・・・ハイ。」


淳一は怒られた気分になり、悲しくなった。


そのままの足でにわとり小屋に向かった淳一。


にわとり小屋には誰もいなく、その日も1人で掃除だった。




それから、淳一とにわとりとの日々が始まった。


やがて、にわとりと過ごす日々もまんざらでもなくなっていた。


1人の時間を良いことに、

淳一は先生の悪口を言ったり、大好きな歌を歌ったり、

それをにわとりが全部聞いてくれているような気がした。

「クァ、クァ、クァ、クァ、クァ、クァ、ケーッコッコ!」


手でエサを与えるとき、最初はくちばしが痛かったけど、だんだん慣れていった。


糞の片付けも手際よくなった。




淳一の、掃除の時間の大親友、にわとり。

きっとそのにわとりはもう居ないだろう。


大人になった淳一は心の中で

‟ありがとう、にわとり・・・・。”

と、そっとつぶやいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る