第5話 親が子を産むとき、性別も決められると思っていた

バスのドアが開く音:プシュー


朝、いつものように送り迎えのバスが保育園に到着した。


園児たちのはしゃぐ声。

園児たちはバスの中ですっかり盛り上がってしまい、

到着するやいなや、保育園の中に走りこんでいく。


園児たちが、玄関の下駄箱で雑に靴を履き替える。

仮面ライダーblackRXの靴。

超獣戦隊ライブマンの靴。

キティーちゃんの靴。

ドラゴンボールの靴。

皆靴を履き替えると、一目散に教室に走り出す。

園児たちにとって、それはそれは楽しい瞬間だった。


淳一も、一緒になって教室に走っていく。

でも淳一は、

‟騒ぎすぎてるかな・・・・先生に怒られちゃうかな・・・・。”

不意にそう思うと、心配になり、先生の位置を確認して、先生を見た。


すると、今まで見たことのない同い年ぐらいの子供と、

そのお母さんらしき人が、先生とお話していた。

園児たちが騒いでいたので、どんなことを話していたのか聞こえない。


淳一は誰だろうと思いながらも、先生が怒っていないことを確認すると、

皆に負けないようにと、教室に駆け込んでいった。


園児が教室に着き、間もなく先生がやってきて朝礼が始まった。

朝の挨拶などを行い、朝礼が一区切りすると、

先生は、一人の男の子を手招きした。

後に続いて、さっきのお母さんも入ってきた。


先生:「今日から新しいお友達が増えます。名前は○○君(※1)です。」

転入園児:「○○です。よろしくお願いします。」


その転入してきた男の子は、見た目がとても中性的で、まるで女の子のようだった。

淳一は○○君と仲良くしたいなぁと思いながらも、ふと思った。


‟この子、男の子なのかなぁ・・・・それとも女の子なのかなぁ・・・・。でも名前が男の子の名前だから、男の子なんだろうなぁ・・・・。”


さらに淳一は、こう思った。

‟じゃあなんでお母さんは、○○君を男の子にしようとしたんだろう・・・・?”


やがて○○君に対する、軽い質問コーナーの時間になった。

好きな遊びは?

好きな食べ物は?

好きなヒーローは?

など。

そして淳一が、おもむろに手を挙げ、元気よく笑顔で質問した。




淳一:「えーっと、○○君のお母さんは、どうして○○君を男の子にしようと思ったんですか!?」




その場にいた誰もが言葉を失った。


先生:(‟えっ・・・・?”という顔)

○○君:「・・・・?」

お母さん:「・・・・?」

他の園児:「・・・・。」


淳一:「だから、どうして○○君のお母さんは、○○君を男の子にしたいと思ったんですか!?」


○○君:「・・・・?」

お母さん:「えーと・・・・」

淳一:(答えを待っている)

先生:「(お母さんへ)すいません、あとでどういう意味か聞いておきますから。」

お母さん:「あっ、はい。」

先生:「岡野君座りなさい!!」

淳一:「・・・・。(恐る恐る座る)」


淳一はこのとき、あとでなんとなく怒られることを覚悟した。

しかし、何とその転入園児の○○君とは、その後仲良くなっていくのでした。


つづく




解説

今改めて思い返しても何とも訳の分からない出来事でしたが、当時は男の子とか女の子とか、親の権限で決められるもんだと思い込んでいたんですね僕は。

※1、その転入園児の名前は忘れてしまいました。

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