第3話 嘘を覚えた日

その日は、月曜日でした。


保育園では毎週月曜日、園児たちが休日の日曜日に何をして遊んだのかを、微笑ましく発表する日でした。




淳一は日曜日になると、毎回お父さんにレンタルビデオ屋さんに連れて行ってもらっていました。

そこで大好きな仮面ライダーやウルトラマンのビデオを借りることが、毎週毎週楽しみで仕方がありませんでした。

ビデオを借りるときに、会員カードを出すお父さんの姿が、なぜかかっこよく見えたものです。

淳一にとって、大好きな仮面ライダーやウルトラマンが観れる毎週日曜日は、本当に幸せそのものでした。




発表の時間。

園児たちは園内の小さな体育館に集まり、一人ずつ壇上に上がって、日曜日の出来事を発表していきます。

園児1:「昨日は近所の○○君と公園で遊びました。」

園児2:「昨日はおじいちゃんとおばあちゃんのお家に行きました。」

園児3:「昨日は遊園地へ行きました。」

園児4:「昨日はお父さんとお母さんに動物園に連れていってもらいました。」

園児5:「昨日はデパートへ買い物に行きました。」

園児たちはみんな、とても楽しそうな休日を過ごしていました。


そして、淳一の発表の順番が回ってきました。

淳一は壇上に上がり、溢れんばかりの笑顔で発表しました。

淳一:「昨日はお父さんにレンタルビデオ屋さんに連れてってもらって、仮面ライダーを借りてみました。とても面白かったです!」


淳一が発表を終えると、先生が次の園児に順番を回します。

先生:「はい、じゃあ次は○○君~。」


そうして淳一は、その日の発表の時間を、無事に終えることができました。




次の月曜日。


今週も月曜日の発表の時間がやってきました。

園児たちはまた、休日の日曜日に何をして遊んだのかを発表していきます。


淳一は、その前日の日曜日もお父さんとレンタルビデオ屋さんに行ってビデオを借りたので、

発表は、当然そのことを言うつもりでした。


園児たちの発表が進み、淳一の順番が回ってきました。

淳一は壇上に上がり、意気揚々と発表しました。

淳一は:「昨日はビデオ屋さんでウルトラマンを借りてみました。とても楽しかったです。」


すると、

淳一の発表を聞いていた先生が、不機嫌になりました。


他の園児たちは、先週と全く違う内容の発表をしているのに、

淳一は、仮面ライダーとウルトラマンという違いだけで、話の内容がほぼ一緒でした。


先生は多少苛立ちながら、次の園児に順番を回しました。

先生:「次、○○君!」


淳一は、その日は何事もなく、発表を終えることができました。

しかし淳一は、自分が犯した失態にまだ気がついていませんでした。




次の月曜日。


今週もまた。月曜日の発表の時間がやってきました。

体育館に集められてから、すでに園児同士では日曜日何をして遊んだか、どこへ行ったのか、楽しそうに話をしていました。

そしてまた順番に、園児たちの発表が始まりました。


園児たちが、今週も違う内容の発表をしていく中で、

淳一は何を発表するのか、やはり決まっていました。


淳一の順番がやってきました。

淳一は壇上に上がり、幸せそうに発表しました。

淳一:「昨日はビデオ屋さんで仮面ライダーを借りてみました。すごく楽しかったです。」


すると、先生のカミナリが落ちました。

先生:「何であなたはいつも同じ発表なの!ほかの遊びはしないの!?毎回毎回同じこと言って。いい加減にしなさい!!」


その場の空気が一瞬にして凍り付きました。


淳一は、壇上で固まっていました。天国から地獄へ落とされた気分でした。

しかし淳一は、どうして怒られたのかわかりませんでした。

ただ先生から怒られたという感触だけが残りました。


先生からすれば、

嘘をついて毎回同じ発表をして怠けている、

そんな感情を淳一に持ったのか、

先生の真意は定かではありません。


淳一は悲しみの中、その日の発表を終えました。




次の月曜日


その日もまた、発表の時間がやってきました。


淳一はといえば、前日の日曜日はレンタルビデオ屋さんでビデオを借りました。

しかしそれを発表すると、また怒られてしまうかもしれない。

淳一は憂鬱で仕方ありませんでした。


そしていよいよ、淳一の順番が回ってきました。


淳一は壇上に上がりましたが、何を言っていいのかわかりません。

‟昨日はレンタルビデオ屋さんに行きました・・・・ビデオを借りました・・・・仮面ライダーをみました・・・・すごく楽しかった・・・・でも・・・・‟

淳一が発表できないでいると、その場の空気がだんだん悪くなっていきました。


淳一は勇気を出して、言葉を発しました。

淳一:「・・・・昨日は・・・・」

園児たち:「・・・・。」

淳一:「・・・・お父さんと・・・・」

先生:「・・・・。」

淳一:「お父さんと・・・・・」

園児たち:「・・・・。」

先生:「・・・・。」

淳一:「・・・・積み木をして、遊びました・・・・。」


それだけ言うと、淳一は発表を終えました。


先生が、次の園児に順番を回します。

先生:「はい、じゃあ次○○ちゃん発表してね~。」

なぜかそのときの先生は、上機嫌のようでした。


淳一はホッとしながらも、かといってすっきりもせずに、壇上を降りました。


淳一は、時には嘘をつくことを覚えました。


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