第2話 虫になんかよくわからない液体をひっかけられた結果

その日園児たちは、先生を先頭に、二列に並んで、隣同士の園児とは手をつなぎながら、あるところへ歩いていました。

園児たちが到着したところは、保育園保有の畑でした。


淳一の通う保育園は、畑を持っており、定期的に芋をほったり、園児たちが畑仕事をすることがありました。

今日も育った芋を掘り起こす、畑仕事の日でした。


芋を掘る前に、先生が園児たちに言いました。

先生:「今日は芋ほりが終わったあとに、みんなにアイスクリームを用意しています。」


喜びにざわつく園児たち。しかし先生は、続けてこう言いました。

先生:「でも、途中でさぼったり、芋ほりをちゃんとやらなかった子には、アイスクリームはあげません。しっかりやるように。」


先生は、頑張ったかどうかの基準を、手の汚れで判断するというのです。

先生:「一生懸命やったかどうかは、先生は手の汚さを見ればわかります。この芋ほりが終わったら、みんな先生に手を見せにくるように。」


園児たちに、多少の緊張が走りながらも、芋ほりがスタートしました。


淳一は、決してさぼらず、真面目に芋ほりをすることを心に誓いました。

アイスクリームが食べたかった、

先生に頑張る姿を見てほしかった、

その一心で。


そして淳一は、一生懸命畑仕事をやりました。

一生懸命芋を掘り、掘った芋は台車に運びました。

一生懸命雑草を取りました。

淳一の手は、土や葉っぱでみるみるうちに汚れていきました。

これで先生にも怒られずにすむ。


そしてどんなアイスクリームが出てくるのか楽しみにしながら。

でも、ニヤニヤした顔を見せたりすると、一瞬でも遊んでるように見られるかもしれないと思ったので、決して笑顔は出さず、真面目な顔を作りながらがんばっていました。


芋ほりの時間も残り少なくなってきたその時、

一匹の空飛ぶ虫が淳一の手に止まりました。

大きさは、テントウムシほどの小さな虫だったので、淳一は最初その虫が止まったことに気が付きませんでした。

淳一がその虫に気がつくと、その虫は淳一の手に謎の液体を放ち、どこへともなく飛び去っていきました。


淳一は、その液体が何なのかわからないまま手ではらっていました。

それを見ていた1人の園児が、先生に言いました。


園児:「先生!岡野君が手が汚くなるのでイヤだからって、虫のおしっこで手を洗っています!!」


淳一に、いろんな意味で衝撃が走りました。

淳一が、不安そうな顔で先生のほうを見ると、先生は黙って、淳一をにらみつけていました。

淳一も何も言わず、そのまま作業に戻りました。


作業に戻ってから、淳一の心は不安でいっぱいでした。

“どうしよう、大丈夫かなぁ。ここから取り戻せるかなぁ。でもとにかく残り少ない時間でも一生懸命やるしかない!”

そんなことを思っていました。


でもよく考えれば、

“別にさぼっていたわけじゃない。水道に手を洗いに行ったわけでもないし、虫におしっこをひっかけられただけ。先生はそれまでの僕のがんばりを見てくれている、きっとわかってくれている。”

そうやって淳一は、自分で自分を励ましました。


そしていよいよ芋ほりの時間も終わり、園児たち全員が先生に手を見せに行きます。

淳一は、ドキドキしながら先生に手を見せました。

淳一の手を見た先生は何も言いませんでした。

そして、次の園児の手を見ていきました。

淳一は、何も言われなかったことが不安でした。


そうして畑をあとにし、園児たちは先生に連れられて保育園に戻って行きました。

園児たちが保育園内の水道で手を洗っています。

淳一も一緒になって手を洗いました。

淳一は雰囲気的に、園児全員アイスクリームを食べれそうな気がしました。

“あのとき先生が言ったのは、みんなにちゃんと芋ほりさせるために言っただけで、結果的にみんな食べられるんだ”と、淳一は先生がちゃんと自分の頑張りを見ててくれたと思い、うれしくなりました。


園児たちの手洗いも終わり、先生が園児たちを広い体育館に誘導します。

淳一は移動してる間も、どんなアイスクリームを食べられるのか、楽しみで仕方がありませんでした。

その途中、淳一を含めた少数の園児だけが別の教室に誘導させられ、残り多数の園児たちは体育館へ向かいました。

淳一はまだ、アイスクリームが食べれると信じて疑いませんでした。


誘導された教室の窓から、ちょっと離れた体育館の様子が見えます。

淳一がその様子を見ていると、先生が園児たちに何かを配っています。

その体育館には、園児たちの笑顔が溢れていました。

それを園児たちは、幸せそうに食べています。

先生が園児たちに配っていたものは、アイスクリームでした。


淳一は体育館でのその光景を見て、声をあげることもなく、自然と涙を流していました。

みんなのあの楽しそうな空間に行けない・・・・。

あれだけ真面目に芋ほりをすると、心に誓ったはずなのに・・・・。

せめて、アイスクリームだけでも食べられれば・・・・。


淳一はその日、とうとうアイスクリームを食べさせてもらえませんでした。

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