草創期 《ゲルマニスク1》








ユーロピア中部に位置し、ユーロピア帝国時代ゲルマニア(現在のドイツ)と呼ばれた地区は封建化が進み多くの諸侯の領土がところ狭しに主張し合う土地となってしまった


かつては、アルビオン公、ヒスパニア公、ガリア公、ローマ公と並んで五公と呼ばれたゲルマスク公は自分達の臣下との結束を強めるために行った封土給恩は、今や地方分権を促し、ゲルマニスク家の財政を圧迫するまでになった。


それでも歴代当主は有効な手を打つことが出来ず、緩やかに滅びを待つだけだった。







「貴殿らは、遥か太古、ユーロピア皇帝によりこのゲルマニアの地を承った時から、我が公の家臣として忠誠を誓っていた。違いないか?」

車椅子に座る少女?…いや、少年が固い声で言う



眼前には5人の男性が頭を垂れていた

皆、目の前にいる若造よりも遥かに巨大な領土と軍を持つ有力諸侯だ


(ふん、若造が…当主になって我らを呼んだと思えば、忠誠を示せと…生意気な!)


(さて、どのように操ろうか…)


(かわいい顔してるじゃねーか、むしゃぶりつきてーなぁー)


(どちらの力が上なのか、この時を利用して知るがいい…まぁ、生きてればの話だが)


(さて、我らの時代が続きそうだな)


五人とも不穏なことを考えているが、口から出た言葉は


「それは勿論でございますな!かつては基より今も、そして未来永劫忠誠を誓いますぞ!なぁ、皆の者!」


一番力が強い領主が同意すると


他の者も次々と口を開く。


「何なりと仰せください!」


「ご立派です」


「我らは当主の足元にも及びません」


「これからは当主の時代です!」


口々に誉め言葉を連ねる


「ありがとう…皆の者」

少年は素直に例を言う


(ふん、容易いわ!)


(誉めただけで有頂天になるとは…我らの理想の人形だな)


(へへ、チョロいぜ!上手くいけばこいつを抱けるぜ)


(今までの当主と同じか…命拾いしたな)


(さて、どうやって飼い慣らすか…)


少年が口を開く

「さて…早速、貴殿らにお願いしたいことがあるのだが…」


五人は興味なさそうに耳を傾ける


「ゲルマニスク公として命令する


お前たち五人は






死ね!」


突如、兵が雪崩れ込む


五人は口々に少年を罵倒する


「貴様!どういうことだ!」


「こんなことして只で済むと思うなよ!」


「例え、我らが死んでも!他の者が許さないぞ!」


「その決断がお前の首を絞めることになるぞ…」


「我らがいなくなると、この地は周辺国の食い物になるんだぞ!」


最後に一人が厳かに言う

「末代まで恨みますぞ…」


少年が口を歪める

「安心しろ…お前たちで最後だ」


「それは…どういう意味だ…」


「そのままの意味だ。お前たちはもう羽根どころか手足がもがれているんだよ」


皆の顔から血の気が抜ける


「連れていけ!」




後日…ゲルマニスク首都ベルリン


シャルロッテ宮殿の前にざっと3000を越える男性の死体が並んでいた…彼らはかつて、ゲルマニアの領主とその家族達だった。


彼らは数々の不正と反逆罪で領地と財産を没取され、処刑された


では生き残った女子供は?


子供は遺児として扱われ国が一括に管理し、将来優秀な役人、騎士になるために教育される


では、女性は?女性も国が一括に管理するが、その扱いは公娼として扱われ、ゲルマニスク公直属の騎士に宛がわれる予定だ


この日以来…ゲルマニアでは粛正の嵐が流れ、全ての領土がゲルマニスク公の直轄地となり、全ての騎士はゲルマニスク公に忠誠を誓い、従ったかつての領主達は知事となって忠誠を誓い、ここに中央集権体制が完成した。ここに少年はヒスパニア、アルビオン、ガリアに続き、王号を名乗り、ゲルマニスク王国が誕生した。



そして戴冠式…


戴冠式は宮中ではなく敢えて大庭園で行われた…しかも一般公開だ。後ろにいる一般臣民にも見えるように、大きなステージを造り、まるで、演劇のような感覚だ。いや、ゲルマニスク王…フリードリッヒ1世は庶民の好きな演劇形式で挙国一致を目指しているのだ。



「おおお」


群衆がどよめく


ステージの左側から隻眼の老人に車椅子を押されて出てきた少年王…若干にして14歳の王が出てくる。


群衆は彼のまるで、傾国の美少女のような美しい顔を、神が地上に顕現するときに溢れる…雲の隙間から差し込む日光のような肩まで伸ばした美しい髪を見てため息が零れるが…


体を見て皆一様に悲しげな表情を浮かべる。


彼は手と足が付いているのだが…生まれつき動かせないのである。ピクリとも指一本動かせないのである。


それでもフリードリッヒは悲観さを全く感じさせない、堂々とした態度で臨む



そしてステージの右側から世界各地に存在するあらゆる宝石が埋め込まれた王冠を携えたケルン大司教区復活大聖堂の神父、アレクサンダー大司教が現れた


本来なら粛々と行われるはずなのだが…


突如、庭の西側にある巨大な人工池の真ん中にある小さい島から荘厳な音が鳴る…水オルガンだ!そしてその旋律に合わせて総勢200名の老若男女による聖歌隊が一斉に「女神の祝福」を歌いだす


それらの光景に臣民は目を剥く



ステージの中央にアレクサンダー大司教が立ち、祈祷を始めると大庭園全体に香りが立ち込める


乳香と没薬ミルラ大麻マリファナの香りだ…大庭園の隅から大々的に起こしている


そこはまるで天国にいるようだと錯覚しそうだ


アレクサンダーの祈祷が終わると、今度は国王の宣誓が始まる


「女神の御名によって、誓います。朕は生まれつき手と足が動かない試練を課せられました。朕は試練を超えるべく考えに考え、女神の意思を知りました。朕には手と足があったのです。国という足が、民という手が…慈悲深き女神に感謝を!このゲルマニスクに祝福をヴェネディクトス!ゲルマにスクに栄光あれ!グローリア


すかさずアレキサンダーが大声で叫ぶ

女神をほめたたえよハレルヤ!」



聖歌隊が讃美歌のボリュームを上げる


皆が熱狂する


戴冠式は一気にクライマックスまで突き進む。

アレクサンダーは車椅子…いや、よく見たら車椅子に改造された玉座に座るフリードリッヒの頭、胸、両手のひらに聖油を注ぐ…そして絹の法衣を着せられ、宝剣と王笏、王杖、指輪、手袋などを授けられる。


そしてラストは、ステージの中央に置かれた王冠がアレクサンダーの手によりかぶせられる。



ここに最年少の王が正式に誕生した


臣民は祝福の言葉を送り続けた


「これで、君の権力は盤石になったね。誰も君には逆らえない…むしろ従おうとするんじゃないのかな」

アレクサンダーがニヒルに笑う


「人は人と違ったものを見ると畏怖する。こんな茶番を書いた甲斐があるよ」

フリードリッヒは苦笑する







ゲルマニスクは広大な肥沃な大地を持つため、農業が盛んに行われているユーロピア最大の農業国であった。そのため、他の諸国より農民の比率がとても高いのである。ゆえに、他の諸国以上に封建化が進み、騎士が発達した。当初はそれで良かったのだが…権力は領主を腐らせ、騎士は没落…統一した今でも軍事的には弱国である。それでも諸国から攻められなかった理由は国土の四分の一が広大な大森林地帯となっており天然の要塞となっていることによって、西に国境を接するガリア公ことフランク王国の侵入を防いでいるのだ。それ以外にも辺境の位の低い騎士たちの統制のレベルは高く、精強であることも理由の一つである



フリードリッヒはまず没収し、国有化した農場に騎士たちを派遣して屯田兵とした。ついでに、公娼も連れて行かせた。これにより、圧迫した軍事費を軽減できると考えた。


他にも王国内にある鉱山…ゲルマニアはユーロピア有数の鉄と石炭の産地である。以前はそれらをネーデルラント同盟市(ベネルックス)を経由して輸出し、ユーロピア最大の工業国であるフランクから武器を買っていたのだが、契約を打ち切り、軍事費から浮いた金と没収した財産を使って、遺児たちを留学に行かせ、知識を学ばせ、機械を大量に買った。それと同時に、国有化した鉱山にかつて農民だった者たちを働かせた。もちろん工場にもだ。


他には学術の高揚も促した。優秀な官僚を集めるために、各地にあった学校や私塾をすべて国家で管理し、ゲルマニスク初の大学を作った。これには多くのかつての領主…現知事たちの子弟が集まった。他には軍人国家であるヒスパニアにならって軍事学校を作り、士官の育成に努めた。こちらは騎士の子弟が大勢入学した。


唯一の欠点といえるのは商業を抑制したということである。自国の産業を発展させるために、商業ギルドを追放し、すべて国家が主導している状態であるため、民需が不足がちになり始めたのである。これはアレクサンダーによって解決される。

産業の整理だ。農業は騎士が行う。鉱業は以前は男性臣民が行っていたが、囚人と外国人に切り替える。工業を重工業と軽工業に分け、重を男性に、軽を女性にやらせるのだ。これで、止まっていた軽工業は回り始め、民需はある程度回復し、ゲルマニスクは着々と力をつける


国を豊かにし、強い軍隊を作ったフリードリッヒを王国臣民は賢王と褒めたたえる。





だが、




裏では自分を反対する者には容赦なく粛清することから






のちに各国からこう呼ばれる






最兇の王…兇王





後の歴史家はこの激動の時代を生きた八人の王にそれぞれ、表の顔としての賢、権、剣、拳、虔、倹、堅、研という名が与え、裏の顔としての兇、興、狂、強、恐、侠、矜、怯という名がつけられた。





フリードリッヒは






最も賢き






ゆえに






最も







残酷である

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