六神七王国八王記

sh1126

草創期 《はじまり》







かつて、老神と呼ばれる闇を司る神がいた。彼は暗く静かで優しい宇宙で生まれた。彼は優しい宇宙に囲まれながら寝て、たまに起きてを繰り返して寂しさを慰めた。だが、彼は とうとう寂しさを紛らわすことが出来なくなり、老神は自分の半身を使って光を産んだ。光は老神の良き伴侶として尽くした


そして二人で長い悠久の時を過ごしたがそれでも老神は寂しさを紛らわすことが出来なかたので、二人で三柱の神をもうけた。長男は空と名付けられた。次男は大地と名付けられた。長女は海と名付けられた。


しばらくして五柱は楽しく優しい宇宙で暮らし、老神はやっと寂しさから脱却したが、光はそれでも寂しさをぬぐいきれなかった。


ある時、光は自分の息子である空との間に三柱の神をもうけた。三男は太陽と名付けられ、次女は月と名付けられ、そして男と女の機能を持った子は星と名付けられた。


その後、光は自分の息子と交わり、多くの星を産んだ。


そして最初の星は自分の母と兄姉達によって生命の種が吹き込まれる。空と交わり鳥を産み、大地と交わり獣を産み、海と交わり魚を産んだ。そして父である老神…闇を一方的に襲って交わり人を産んだ。


そしてこれに激怒した光は父である闇を暗く冷たい宇宙の深淵に幽閉し、人間たちを洪水で全滅させ、星と交わり新たなる人間を産んだ。だが、溺死させた旧人間は全滅していなかった。


これがのちに永遠に続く光と闇との戦いの始まりとなった。






「これが真実の物語なの?セイラム?」

一人の少年が一冊の本を取り、奥で静かに羊皮紙に向かって何かを書いている女性に聞く


彼が持つ本には<創世記ジェネシスと書かれていた


奥で書き物をしていた女性は手を止めて、メガネを取り、少年を見据えて口を開く

「真実は誰にもわからないものだよ。その本は大昔の老神信者が書き記したものだ。今教会で書かれているものとは内容が違うね。教会が所有する<創世記>では老神…いや急神と呼ぶのが適切かな?旧神が星を襲い、無理矢理人間を産ませ、暴虐の限りを尽くし、それを見た光は心を痛め、傷ついた星を慰め、自然と肉体関係になり新たな人間を産み、旧い人間を駆逐して、旧神を封印したと書き記されている」



少年は首をひねる

「どっちが正解なの、セイラム?」


セイラムは薄く笑う

「さぁ、わからないね。それを調べるのが我々なんじゃないのかな?そうだろう、アーカム?」


「そうだね…セイラムの仕事は真実を追い求めることなんだよね」

アーカムは頷く


「さて、もうそろそろ女神に祝福された大地ユーロピアに到着するぞ…」

セイラムは扉を開ける




それは馬車だった。外から見るとこじんまりした馬車に見えるが、中はセイラムの空間拡張の術式で広々とした空間が広がっている


アーカムも外を覗くとそこには広々とした田舎町が広がっていた

「へぇ~、ギリシア帝国ツアラ・ヘレンと違ってのどかだね」


「ハハハ、アーカム!のどかなのは帝国との国境付近までだぞ!ここから先は危険地帯だ。ただでさえ私は闇の神である老神と月の神であるルナ以外の神からは嫌われているからな…老神を信仰するアフリカとルナを信仰するアジアは違ってユーロピアは光の神である女神の領域だ。アーカム気を抜くなよ」


セイラムが使った空間拡張は闇系統に分類される


この星には神術と呼ばれる力が存在する。まぁ、神術以外にも魔術、法術など色んな呼び方があるが、これらに共通してることは自分の体内に存在する原素マナ…魔力や神力など色んな呼び方があるが…マナを使って神やその眷属、及び精霊や悪魔と契約して力を振るう。


例えば浄化に特化した神術と呼ばれる光系統の力は、光を司る女神とその眷属と契約して得ることが出来る力であり


法術と呼ばれる回復や守りに特化した聖系統は月の神ルナの力であり


魔術と呼ばれる四大元素の力は

火は太陽の神ソル

水は海の神マーレ

風は空の神エール

土は大地の神テラー

から得ている


自分の潜在能力を引き出すことが特徴の仙術と呼ばれている力無系統の力は地球の神ステラの力である


最後に老神の力である闇系統はユーロピアでは禁術、それ以外の地域では導術と呼ばれている


では、セイラムは闇系統を使用しているから導術師なのか?


それは違う。


彼女が行っているのは魔法と呼ばれる法則を理解し、魔導と呼ばれる理を理解して力を行使する魔女と呼ばれる存在である。ちなみに魔女は女性だけがなることが出来、男性は法則を理解する魔法使いか、理を理解する魔導士のどちらかになることが出来ない。


この両者の違いとは何か?魔法使いは法則…つまりこうすれば力が使えることを知っている者である。故にどうして力が使えるのか知らないのである。

逆に魔導士は法則が教えられないため力は使えないが力の原理を知っている者である。故に普段は魔導具造りに励んでいる。


では、アーカムは?


彼は魔導士を志願して日々切磋琢磨しているのだが…セイラムに魔女になるよう訓練されている。


セイラムは禁忌をおかしてまで男を魔女にしようとしているのだ。故にアーカムは自分の男性の象徴がいずれ消えるのではないかと日々ビクビクしてるのは余談だ。



では魔女について具体的な説明をしよう


魔女とは歴史の裏に棲んでいた一族で、老神の子孫、女神に滅ぼされなかった旧人間の末裔と呼ばれている。彼女らの特徴は神などの霊的な者とは契約しないことである。


この世界は契約することで力を得ることが出来るがそれは一生に一度で一柱しかできない。つまり一度契約すると自分からは破棄は出来ないし、複数の契約を結ぶことも不可能である。魔女はそれを嫌がって、契約するのではなく、魔力を使って、精霊や悪魔たちに力を使わせるよう促したり、召喚して奴隷契約を結ばせたり、大気に存在するマナと自分の魔力の間に反応を起こしたり等をして力を振るうのである。


故に他の者と違って複数の属性が使えるのである



魔女は神を冒涜するという理由でアフリカ以外は迫害の対象となっている。それでも世界中に散らばっていたが今より300年前、魔女達を管理する自治組織<魔女達の宴サバト>が結成された。現在<サバト>はアフリカの闇に根を張り巨大な権力を持っている。



セイラムについて説明しよう。セイラムは現在のサバトの長の妹である。サバトの長は主に世襲されており、初代の長アビスの血統でなければならないという決まりがある。先代の長…つまり彼女らの母が死んだため、後継者争いが行われる。その後継者は三人、現在の長である長女セラエノ、次女のルルイエ、そして三女のセイラムである。


落ちこぼれと呼ばれたセイラムはすぐに後継者争いから離脱し、絶世の美女であるセラエノと至上の魔女と呼ばれたルルイエの一騎討ちとなったが、ルルイエが後に棄権したため、セラエノが長に就任した。その後、セラエノは北アフリカの皇帝と結婚し、巨大な権力を手にいれた。一方でルルイエはセラエノの右腕となり、サバトの運営に奔走している



そして


落ちこぼれと呼ばれた


セイラムは


姉たちの制止を無視して、自由奔放に旅をしている。その為、姉…特に長女からの怒りを買い破門を言い渡され、刺客を送り込まれているのだが、



全て返り討ちにしている。

「私戦闘能力だけは高いのよね」

が口癖である


ある日、大陸の東側を旅してるとき、たまたま自分が乗っている魔導機関車が姉から送られた刺客により橋を爆破され滑落したとき、自分以外唯一生き残っていた赤ん坊を広い、アーカムと名付け育てた。


アーカムはすくすく育ち、育つ度賢くなり、可愛くなり、かっこよくなった。



アーカム少年は落ちこぼれ魔女と呼ばれているセイラムから多くの知識を学んでいる。魔法や魔導だけでなく、剣術、歴史、言語、数理学、サバイバルまで何でも教わっている。アーカムは決して天才ではない。所謂凡人…いや才能が無い人間である。だが彼は努力を止めない。教師であるセイラムはその事を理解してアーカムが理解するまで教え込む。何故ならセイラムも同じであったのだ。幼少のころから、優秀な長女と天才の次女と比べられていたが、彼女は学ぶのを止めなかった。魔女はとても長命な一族だが、二人の姉は全ての知識を得たという理由で学ぶのを止めたが自分は今でも学び続けている。


だが、サバト総本部の倉庫や書庫の物を全て無断で盗むのはやりすぎだと思うのだが…



関所が見えてきた…ユーロピアの帝国領の北に存在する国オストマルク王国ハンガリア公爵領だ



セイラムと僕は一旦馬車から降り、扉を閉め、ポケットから一本の鍵を取りだし鍵穴に差し込み回す。


そのあとしっかりと御者台に座り、関所に入る。




「え~と、ビザンテイウムから来たセイラムとその弟のアーカム…世界の十字路からよくこんな田舎に来たね…目的は?」

役人が問う


「私たちは行商をしております。このカードをどうぞ」

セイラムは胸から一枚の金属で出来た板を役人に渡す。


「ほぉ~、商人ギルドに加盟しているのか…なら文句はない!ほら通行証と滞在許可証だ。もし商売したければ、イシュトヴァーンにあるギルドに寄れ、そこで代行して営業許可証も貰えるだろう」

役人は僕らに焼き印がしてある木の板を渡した。


無事関所を通過し、ハンガリア公爵領の主都イシュトヴァーンへ向かう。




やっと主都イシュトヴァ-ンに到着したがもう夜だ


「へぇ~、この国はガス灯がじゃないんだ!」

アーカムがはしゃぐ


「ユーロピアでは科学が遅れてるからね。電灯は全て、ソルの眷属の力を借りるか、火の妖精から力を借りるのが普通だね。井戸の水は全てマーレの加護に依るし、農作や土木事業はテラーの力だね。熱ければエール、こんな感じで色んな神や、その眷属、精霊とうまく付き合って生活しているんだ。このユーロピアはね」

セイラムは適切に説明する


「しかもいろんな人たちがいるね」

アーカムは何故か田舎に興味津々だ


「ここ東西貿易の陸路での要所の一つだからな。私みたいな行商や隊商キャラバンが集まる地だからね。イシュトヴァ-ンでは地元の人間が2万人住んでいるが外部から来ている人間は3万人だ。まさに商業の都市の一つだ」

セイラムは優しく丁寧に教えてくれる


イシュトヴァ-ンの街並みを馬車で駆けると多くの人たちとすれ違う


ユーロピアの主民族で女神を信仰し、白い肌と青い灰色の瞳を持つ白の民

北アフリカの主民族で老神を信仰し、褐色の肌と紅の瞳を持つ黒の民

アジア(地中海以東)の主民族でルナを信仰し、白い肌と金色の髪、空色の瞳を持つ月の民

ユーラシアと呼ばれる草原地帯に住む遊牧民族でエールを信仰し、真っ赤な髪と瞳を持つ天空の民

ソルを信仰し、茶色の髪と瞳を持ち、尖った耳が特徴の森林の民

テラーを信仰し、低身長が特徴の大地の民

マーレを信仰し、体の一部に生えたヒレや鱗、足についた水かきなどを持つ水色の髪と瞳をした海の民

他にもアフリカに住む巨人族や獣人族、森林の民の祖先と呼ばれているエルフ族やダークエルフ族などの亞人族もいる


僕らはそのまま公爵館を目指す。


「ねぇ、ここ、さっきとは雰囲気が全く違うね!」

アーカムはキョロキョロと周りを見渡す


「ここは西ブタ地区と呼ばれている公爵の私有地だ。さっきまでいたのはペスト地区で市議会が治める自由都市だよ。国際的にはこのハンガリアはカーダール公爵の領土とされているけど、実際に政治を司っているのは市議会だね」



そして僕らは公爵の館が立つ王宮の丘ジェレルト・ヘジュンに到着し、執事に案内され応接間で待たされる。


一人の男性が入ってきた。年齢は60を超えてるように見えるが、背筋はピンとしており、活き活きとしている


「お久しぶりですな、セイラム。今は何をしてるので?」

カーダールがにっこりと聞く


「今は弟を育てているの。可愛いでしょう」

セイラムはニッコリとする


「なるほど…この国はどこの国にも染まらない自由都市の一つだ。私は支配者ではないが大きな力を持っている。ゆっくりと過ごしたまえ」

カーダールはおおらかに笑う


「それより公爵?地下にある宝物と書庫の書物を売ってくれないかしら?対価は払うわ」


「ん~、では原素石オーブ10万でどうだ?」

カーダールがニヤリとする


「5万」

セイラムはぴしゃりと言い放つ


「ふむ…9万」


「いいえ、6万」


「なるほど…8万」


「…7万…」


「ハハハ、7万5000だ!まけれないよ」


「はぁ~、わかったわ」


「これで契約は成立だ」


セイラムは一枚の羊皮紙をカバンから取り出し、羽ペンで色々と書き込む。その後、羊皮紙をカーダールに渡し、書かせる。


「そういえば気になるんだが、ユーロピアはオーブが使えるのか?記憶が正しければ天使の光輪ヘイロウと呼ばれる黄金の輪が使われてるはずだったのだが…」

セイラムは顔をしかめる


「それは昔の話だ。商業が発達した今じゃ、教会の人間しか使わないよ」


「なら、早速だがやらせてもらおう」




僕らは執事に案内されて地下倉庫に入る


そこには多くの道具があった


「ん~、じゃ、早速だがお願いしようか」

セイラムは手をパンと叩く



地面に赤い魔法陣が浮かび真っ赤な穴が現れる


中から一つの壺が現れた…四面人の顔が…喜怒哀楽の表情を浮かべた壺が…突如空間を吸い込む


中の宝物や書籍は全て壺に吸い込まれた…全部吸い込み終わると、壺はおとなしく穴に戻った


「これでひと段落…いや~カーダール公爵はいい人だね…取引に応じてくれたよ…他の国や組織は多分無理だからね…こっそり忍び込んで行うしかないね」

セイラムはニッコリと笑う



セイラムは行商をやっている。しかも魔導具専門の行商だ。彼女の売る商品は全て超特級の危険物の禁制品ばかりである。しかもそれを手に入れる方法は金ではない…マナだ。人々は彼女に魔力や神力、法力を払わなければ買うことが出来ない



だから




落ちこぼれ魔女は



強くなった



世界で最も強くなった




そして




人々は彼女を恐れ




こう呼ぶ




<魔界商人>


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