Vol.05[Falldown Philosopher]

Vol.05 プロローグ『こんな風に出逢わなければ』

 背後で幾つもの鉄塊が花火のように炸裂し、火の玉に飲み込まれては暗黒へと消えてゆく。そんな戦場と化した宇宙を縫うように駆け抜ける、彗星の如き軌跡がふたつ。

 一つは純白を抱いた堕天使。光輪を背負い、漆黒の翼を真空に羽撃かせる女神飾りの白騎士。

 もう一つは暗紫色の悪魔。細長い鉤爪の腕を延伸させ、金属の縄に繋がれた眷属達を引き摺るようにして飛ぶ異形の怪物だった。

 それらはスラスターの残光で螺旋を描きながら互いの得物を何度も何度もぶつけ合い、切り結んではまた離れて銃撃を交錯させてゆく。冷たい鋼鉄の刃が幾度となく戦場で散らす火花は、まるでの間に生じている亀裂がそのまま顕現しているかのようだった。


「くそっ……! やはり僕達は、戦うしかないのかよ……!」

《今さら何を……! そういう気取った態度ばかり取るから、俺はずっと──》


 獲物を捉えた蛇のように伸ばされた手が、白い機体へと差し迫る。


《──お前の存在が気に食わなかったッ!!》


 寸前で銃剣を構えて攻撃を受け止める。しかし、気付く頃には既に視界の端からもう一方の腕が飛び込んできており、咄嗟の反応が間に合うはずもなく拳が胴体部へと叩き込まれた。

 吹き飛ばされた白い機体は背部のリング型ブースターを巧みに操ることで何とか立て直すと、再び眼前に浮かんだ敵機と対峙する。コックピットに座る少年の鼓膜を、憎悪や嫉妬の黒い感情に満ちた少年の声がつんざいた。


《なのにお前は、今や多くの者達に希望を焚きつけるだけの巨大な光となっちまった。生まれや所属に関係なく、誰もが次第にお前を認め始めている……》

「その光の先にあるものが、僕たち人類にとって共通の敵だ! 戦争を無くしたいという人々の願いが、ようやく一つに纏まりつつある……。君だって本当はそれを望んでいるはずだ……!」

《黙れェ! 欺瞞ぎまんなんだよ、そんな言葉は! お前の魅せる光は、他者に周りを見えなくする危険なモノだ! お前自身の盲目さが、本来なら向き合うべき現実めのまえの闇さえも掻き消しているんだよ……!》

「万象の本質を闇に見出すな! そんな考えを根付かせていたら、いつか眼に映るもの全てが絶望の色に染まる……! そんな世界で人が生きてゆけるものか!」

《なら、俺にとってお前は絶望の光だ! 醜悪な色で世界を照らすお前を葬ることで、俺はようやくお前にあざむかれた者達を……エリーを、救い出すことが叶う……!》


 ごう、と暗紫色のDSW──“エビラウル”が急加速をかける。

 対し“ピージオンドミネーター”もベイオネットライフルを両手で構えると、迎え討つべく刃を横薙ぎに振るった。


《だからいい加減、その目障りな色と一緒に消えちまえよ……なァ、アレックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!》

「くッ……ミド……!」








 獣の如き咆哮をのせて繰り出された鉄と鉄が、宇宙の荒波の中で激突する。

 その闘いに必然性などなく……あるとすれば、それは悪戯な神に運命を仕組まれた少年と少年の、哀しき宿命だといえるだろう。





 そう。この闘争は一人の少女を巡った、雌雄を決する為の儀式。

 彼らが同じ女性に恋をしてしまった瞬間から、これは逃れられぬ因果となり、因縁となっていたのかもしれない。








 


 そんな懸念も、今は迫り来る刃をかわすために隅へと追いやるほかなかった。

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