第19章『吸血鬼ヴラッド 9』

 それはデフ=ハーレイの瞳に、まるで神がこの世の終わりを告げるかのような、あまりにも神々しい光景として焼き付いた。

 黒雲の裂け目から光の柱が射し込み、そこから天より寄越された13体もの使徒が舞い降りてくる。陽射しを背に受けたライトグレーの人型は、刃物のように鋭角的かつ細く引き締まった筋肉質なシルエットをしたDSWだ。全ての機体が右手にエネルギーライフルを、左腕肘下には折りたたみ式のトンファーブレードを装備しており、また頭頂部にはミサイル迎撃用のレーザー砲台、右肩部からは大口径のビームカノンが伸びていた。


「何だあいつらは、U3Fの新型か……?」


 普通に考えれば、そのような結論に至る。激しい戦闘により両軍共に消耗しているこのタイミングでの戦力投入ということは、おそらくあの機体達こそがU3Fのだったのだろう。つまり、今までデフらインデペンデンス・ステイトが決死の思いで戦っていた相手は、所詮囮の部隊だったという事になってしまう。

 だが、直後にジグ=ジールベルンと名乗ったU3Fの青年が血相を変えて声を荒げたことにより、その推測は掻き消された。


「両軍とも、悪いが一時休戦だ! くそッ、よりによってこのタイミングとはな……なるほど、確かに最高で最悪のパフォーマンスだよ、これは……」

「ン……どういうことだ? あれはお前達の味方じゃないのか……? というか、お前は何を知って……」

「事情は後で説明する! ともかく今は、死にたくなかったら俺の言う通りに動け! いいなッ!?」


 つい先ほどまでの飄々とした態度から一変したジグを見て、デフはわけがわからず困惑の表情を浮かべてしまう。だが、どうやら只事ではない事象が起こりつつあるという事だけば、朧げながら理解することはできた。


「『LOCAS.T.C.』だ……! U3Fでもなければインデペンデンス・ステイトでもない、もっと大きな力が動き始めたんだよ……!」

「何だって……?」


 続々と地上へ着地していくDSWを睨みながら、ジグは顔をより一層強張らせる。

 降下したうちの一機──“LD-99 アルトギア”の紫苑色の双眸が、こちらを冷徹に見据えていた。



 火星の『クリュセ』市街跡地にて“火星圏侵攻作戦”と銘打たれた大規模作戦が遂行され、また月面都市『アリスタルコス・ドーム』においては宇宙国際治安維持部隊“U3F”の発足66周年記念パーティが執り行われていたのと同時刻。

 西暦2281年5月1日、グリニッジ標準時間00:00。その日のその時刻は、後の人類史上において最も銃声が世界中で鳴り響いた瞬間として人々の記憶に刻まれる事となる。


 作戦名“オペレーション・ワルプルギス魔女の夜”。

 プレジデント=ツェッペリンを含めた『LOCAS.T.C.』の一部関係者達が首謀し、地球・コロニー各地のU3F軍事基地に潜伏していた決起兵達が引き起こした軍事クーデターである。

 なお、当作戦にはLOCAS.T.C.内で極秘裏に開発、及び量産されていた次世代型動力源“ホロウ・リアクタ”を搭載した新型DSWが多数投入されていたとの報告があり、性能で圧倒的に劣る現行機“ソリッド”ばかりが配備された世界各地のU3F基地部隊が為す術もなく陥落するのには、そう時間もかからなかった。


「どういうことなのだ、これは! 一体何が起こっている……ッ!?」


 U3F最高司令官という肩書きの老年の男──トール=マクラレンは、パーティ会場の巨大モニターに映し出されたライブ映像を見るや否や、憤慨せずにはいられなかった。

 まさにダンスパーティが佳境に入ろうとしていたタイミングで見せつけられたその光景は、サプライズにしてはあまりにも趣味が悪すぎる。それでも、これが夢ならば一刻も早く覚めて欲しいと思う程に、突き付けられたそれは到底受け入れ難い現実であった。


「ミスター・プレジデント……いや、プレジデント=ツェッペリン! 貴様は、自分の行いがどれほど愚かで醜悪なことか、ちゃんと理解しているんだろうな……!?」


 詰問すると、横に座るプレジデントは何食わぬ平静とした顔で嗤う。その余裕な様が、余計にマクラレンの腹を立たせていた。


「それこそ愚問というものですな。既に吾輩と貴公の立場は逆転している。……ここから先は、言葉は慎重に選んだ方が貴公の為でもありますぞ?」

「……貴様の望みは、支配か、それとも権力か。答えろ……!」

「これは“革命”なのだよ、マクラレン。この吾輩自らが、平和維持の為の暴力装置という矛盾した軍の在り方を根底から創り変える。貴公やU3Fの兵達には、その礎となって貰いたいのだ」

「軍事力を私物化しおって……そんな危険な思想を持った貴様のような存在を、国連政府や市民が容認するものか! 貴様はただの叛逆者だ! いくら軍内に強い発言力を持った財閥の当主といえど、このような蛮行は赦されるはずがない……ッ!」

「フフ……どうやらまだ、ご自身の立場を理解されていないようだ」


 プレジデントが冷たく笑む。

 直後、マクラレンの後頭部に硬い感触が触れた。彼のSPを務めていたはずの背広の男性が、どういうわけか主人に拳銃を突きつけたのだ。


「……私を売ったな、高くつくぞ」

「忠誠や信頼など、財を積み上げるだけで幾らでも歪む。信念や誇りなど、力をちらつかせるだけで幾らでも萎縮する。何も恥じることはない、ヒトとは所詮そういういきものよ」


 プレジデントは椅子から立ち上がると、身動きの取れなくなっているマクラレンの元へと歩き出す。目と鼻の距離にまで詰め寄ると、彼は耳元で囁いた。


「貴公からはたった一言、言葉が欲しい。さあ、どうかね……?」


 プレジデントの大きな手が、マクラレンの股間へと伸びる。握力によって睾丸を圧迫され、まるで全身が握り潰されるような錯覚に陥ってしまい、顔中から冷たい汗が噴き出した。


「……わかった。U3Fは、最高司令官であるトール=マクラレンの名において全戦力の武装解除、及び無条件降伏を宣言する。だからこれ以上、無用な犠牲は増やすな……」


 喉の奥から絞り出したようなか細い声を聞き届けると、プレジデントはようやく掴んでいたものを手放す。

 解放されたマクラレンは汗まみれの額をハンカチで拭いつつも、


「……暴君め、地獄に落ちろ」


 プレジデントにほんの僅かながら聞こえる程度の絶妙な声量で吐き捨てた。

 魂まで売った覚えはないと、彼のささやかなる反抗心が訴えていた。



「クーデター……? そんな、父上は何をしようとしているんだ……?」


 同じく会場にて中継映像を目の当たりにしたクラウヴィア=ツェッペリンは、新型DSW“アルトギア”によって容赦なく蹂躙されていくソリッド達を見て、驚きのあまりひどくショックを受けている様子だった。あくまで形式上とはいえ──軍に身を置く彼女からすれば、仲間が無残にも散っていく光景を見せつけられているようなものである。そればかりか、自分だけはこうして安全な場所からただ指を咥えて見ているだけで、助けることも止めることもできないのだ。

 そう。今日この時、ツェッペリン家や『LOCAS.T.C.』は明確にU3Fへと反旗を翻してしまったのである。これではもう、軍の仲間たちに顔向けすることもできないではないか。そうしてクラウヴィアがやりようのない苛立ちを募らせていたとき、横から妹の場違いなほどに甘ったるい声が飛び込んできた。


「遂に始まりましたわね、クラウヴィア姉様。これで世界のいろは否応なく塗り替えられることになる。こんなにもツマラナイ鈍色の景色を、ようやく見ないで済むようになりますの」

「ファリス、まさかお前はこうなることを知っていたのか……?」


 クラウヴィアが唖然とくと、ファリスはさらに微笑みを深くして答える。


「勿論ですわ、姉様にはえて黙っていましたけど。だって、それを知っていたら姉様もあの火の中に飛び込んでいたでしょう?」

「当たり前だ、私はU3FのDSWパイロットだぞ!? なのに……父上は、どうして……?」

「……お父様の意向はともかくとして、お姉様の軍籍についてはわらわからも常々申し上げたいことがございましたわ」


 ファリスの赤い瞳がクラウヴィアを見据える。


「もう、はお辞めにならなくって? お姉様や妾に流れているこの血は、戦場で無闇に流すようなものではないのだから」

「ファリスまで父上のような事を言うか……! 私が軍に志願したのは、家に頼らずとも自分の名を上げる為だ! 身分など関係は……」

「大いにありますわよ、“姫様”。貴方が実際に投入された任務の殆どが儀礼に過ぎないということは、当然自覚していますわよね?」


 ファリスの指摘はもっともであった。最前線からは程遠い火星圏以遠の基地への配属、さらには階級や戦績に見合わない高性能新型機の優先配備など、明らかに軍への強い発言力を持つ父親が影響していたことは疑いようのない事実である。

 七光り扱いされることを嫌うクラウヴィアにとっては不本意であったものの、周囲がそれを理解してくれることはなく、こうして“姫”などという不名誉な呼び名まで付けられてしまったのだ。


「言いたいことがあるならハッキリ言えばいい! どうせお前は、お前に比べて大分甘やかされて育った私のことが許せないんだろう!? 出来の悪い姉だと、心の中では馬鹿にしているんだろう……!?」

「フフフ、そんなことはありませんわ。だって、お姉様は憎むべき対象とするにはあまりにも可愛い過ぎるんですもの」

「何だと……?」

「ハンス兄様やカッツィオ兄様を猛獣とするのならば、クラウヴィア姉様は飼い慣らされた愛らしい子豚。恐るるに足りませんわ」

「言ってくれるな、父上の生き写しが……!」

「妾のことをどのように思おうが構いませんわ。でも、これだけは肝に銘じて置いて下さいまし」


 ファリスは数歩だけ前に出ると、真紅のドレスを靡かせながら振り返る。肩越しにクラウヴィアを一瞥すると、彼女は妖艶に微笑んだ。


「ツェッペリンの血を分けた兄弟はいずれ殺し合う運命。そんな調子では、末妹である妾にすら足元を掬われてしまいますわよ?」

「脅すのか、姉である私を……!」

「これはですわ。たとえ末席だからといって、妾は兄様や姉様に王座を譲る気は毛頭ございませんので」


 そう言い残すと、ファリスはダンスホールの人混みの中へと消えてゆく。彼女の背中が遠く離れていくのを見届けたクラウヴィアは、己の無力さを痛感するあまりその場に座り込んでしまった。


(狂っている……。こんなことは、家族で利権を争うなどと……)


 頬を伝った熱い涙が零れ落ち、赤いカーペットを僅かに滲ませる。令嬢としてではない、一人の乙女が流す悲しみの涙だった。


(どこまで私を翻弄すれば気がすむのだ、この呪われた一族の血は……!)


 一度たりとも己の意思で何も成せていないことが、只々悔しかった。



 パーティ会場に同席していたミリア=マイヤーズもまた、衝撃を受けてその場に立ち尽くしてしまっていた。

 これまで木星圏という地球から最も遠い生活圏で暮らして来た彼女だからこそ、こうして世界が変わる瞬間に立ち会うというのは初めての体験である。それだけ感動を覚えると同時に、人間の醜く滑稽な部分を思い知らされた気もしていた。


「これが、あなたの言っていた“世界を覆す計画”なの……?」


 ミリアは隣に立つ白衣の男の人へと、しかし視線を向けることはせずに問いを投げかける。すると、キョウマはまるで道化師のようなヘラヘラとした締まりのない笑みを浮かべながら応えた。


「いいや、これはほんの序曲プレリュードに過ぎないさ。革命の旋律は、ここから奏でられてゆく……ハッハッハ、面白くなってきたじゃあないか」


 キョウマのいかにもわざとらしい言い回しに呆れていると、真紅のドレスがミリアの方へと近付いてきているのがみえた。

 まるで妖精のような出で立ちをしたその少女──ファリス=ツェッペリンは眼前で立ち止まると、白く華奢な手をこちらへと差し出す。


「さあ、ミリア。改めて、妾と踊りましょう。こんな狭苦しいダンスホールではなく、もっと妾達に相応しい舞台で踊り明かすの」

「相応しい舞台……?」

「それは世界よ、ミリア。妾は貴女の奏者、そして貴女は妾のげんとなり、くだとなり、鍵盤けんばんとなるの。貴女を奏でられるのは妾だけ……貴女がそれを望むのなら、妾は最高の旋律を貴女と共に奏でると誓いますわ」


 うたうように語るファリスであったが、その瞳の奥に邪な感情は一切存在していない。少なくとも、ミリアからはそう見受けられるものだった。

 だが、彼女の手に自分の手を重ねようとしても、心の奥底でブレーキがかかってしまう。ファリスが果たして本当に信用するに足る人間なのかどうか、判断しかねてしまったからだ。


 思えばこの会場へと至るまでにも、ミリアはあまりにも壮絶すぎる──それこそ自殺か精神破綻を起こしていてもおかしくないほどの道を歩んできた。その過程で、自分が如何に“他人の善悪を判断する能力”に欠けているのかということは、嫌という程に痛感してきたつもりだ。

 実の両親も、アーノルドも、そして兄のアレックスも……こちらが寄せた信頼を、誰一人として例外なく絶望に変えて返してきた。もはや彼女にとって他人を信じることは、リスクの伴う危険なものという認識に他ならないのだ。


(……だけど、ファリスちゃんは違う……そんな気がする)


 自分でも不思議なくらいに、そう思えてしまった。

 ファリスが自分を裏切らない保証はどこにもないし、確証もない。寧ろ、彼女がどうしてそこまで自分を気に掛けてくれるのかがわからないくらいだ。生まれながらに何もかもを有しているような彼女が、何も持っていない自分を心配する必要など何処にもないのだから。


 だが、現にミリアは彼女によって救われた。


──負の感情を否定してはダメよ。それはあなたの根底にある“願い”だもの。


 彼女の言葉によって、ミリアは殻を破って生まれ変わることができたのだ。


──ねぇ、ミリア。あなたはどうしたいの……?




(ファリスちゃん、私は……)


 気付いた時には、すでにファリスの手を握り返していた。

 しかし、ミリアの瞳に一切の迷いはない。長らく凍りついていた彼女の心は今、ファリスという光を見出したことによってようやく溶け始めていたのだった。


「私は、私の為だけに力を使うと決めた」


 凛として、ミリアは胸の内に秘めた想いを着飾りなく告げる。


「……そして私は、私の意志であなたを守る剣になる。ファリスちゃんがそれを望むなら、私は誰だって……何人だって殺せるよ」


 ミリアが清々しく爽やかに微笑む。まるで憑き物が落ちたように穏やかな彼女を見て、ファリスも嬉しそうに口元を緩めた。


「フフ……いい音色こえね。妾も、に」





「くそっ、何だこいつ……急に現れやがったくせに、デタラメに強え……ッ!」


 クリュセ市街に降下した13機の“アルトギア”部隊のうち1機と交戦しながら、デフは額に大粒の汗を浮かべていた。

 外見からファントマイルやコンドルフの戦闘データを基に開発されたことが伺えるこの機体は、しかし両機を凌駕するほどの高性能を有しているように思われる。またパイロットの操縦技術や反応速度も極めて──ともすれば人間味をまるで感じられない程に高く、防戦一方のデフに油断も隙も与えてはくれない。左腕のテイルブレードから繰り出される鋭い切っ先、その一撃一撃が必殺と呼べるほどの威力を誇っており、それを躱すだけで精一杯だった。

 たった一度のまばたきですら死に直結してしまいそうな緊迫感にデフが焦りを募らせていたそのとき、通信機のスピーカーからU3Fの兵士と思わしき壮年の声が発せられた。


《助太刀するぞ! インデペンデンス・ステイトのパイロット!》

「……ッ、駄目だ! こいつに近付いたら……!」


 デフの制止も聞かずに、横から割って入ってきたソリッドがアサルトライフルの連射を放つ。

 照準は決して甘くはなかった。しかし、アルトギアは曲芸師の如くあり得ない動きでそれを容易く避けると、針の穴に糸を通すような絶妙な隙をついて肩部ビームカノンの銃口をソリッドへと向ける。

 放たれた太い光線はソリッドの胴体を容赦なく抉り、コックピットごと貫かれた機体はあっという間に鉄屑へと変えられてしまった。

 そして一撃離脱ヒットアンドアウェイの戦術か、アルトギアがこちらとの距離を取ろうとする素振りを見せる。デフはそれを見逃さなかった。


「逃すものかよ!」


 叫びと共にキメラ・デュバルの胸部から物凄い勢いでアンカーが射出され、標的に向けて真っ直ぐに飛んでいく。そして錨の鋭い先端が敵機に差し迫っていた次の瞬間、不意に姿

 まるで透明のマントを頭から被ったように消えてしまった敵機を見て、デフは咄嗟にある機体を連想する。


(こいつぁ、クレイヴンの電子迷彩装甲インビシブルコーティング……!? ったく、なんて厄介なモノまで積んでやがる……!)


 それといえば、元はLOCAS.T.C.の実験機だったDSW“LDP-92 クレイヴン”に装備されていた特殊装甲の事だ。その機能は、肉眼もあらゆるセンサーでさえも捉えることのできない、究極のステルス性を実現させる事にある。

 反面、その膨大な消費エネルギーによってクレイヴンの場合は稼働時間の短さが致命的な弱点ともなっていた。だが、反物質炉である“ホロウ・リアクタ”を搭載したアルトギアであれば、その制約も大幅に解消されているはずである。

 言わばアルトギアという機体は、現行の最新技術を余す事なく詰め込んだ、まさしく最強にして完璧なDSWであった。


「こんな奴を相手に、一体どうしろってんだ……!」


 デフがそのように苛立ちを吐き捨てるのも無理はなかった。

 ただの1機さえも仕留められるかわからないような敵の新型機が、あろうことか13機も戦場に投入されている。戦いに身を投じる兵士がどうしようもない絶望感を抱くには、十分過ぎる理由だった。U3F、インデペンデンス・ステイト双方のパイロットのうち何名かは、きっと自らの死ぬ光景を想像してしまい、全身を震え上がらせていたことだろう。

 だがそれでも、残された生存の可能性を諦めていない者達がいた。その若き勇士達のうちの一人──アレックス=マイヤーズは、高らかな叫び声を電波に乗せて発する。


《両軍とも、直ちにピージオンとのデータリンクをオンにして下さい! 全機体から得た索敵情報の解析を全てこちらで負担し、リアルタイムでの戦況共有とシミュレートを図ってみせます……ッ!》

「アレックス! また、戦えるのか……!?」

《ああ。もう心配しないで、デフ。僕はもう戦いから逃げたりはしない。そしてこれは、人を殺すための戦いでもない……!》


 漆黒の双翼を羽ばたかせ、ピージオンドミネーターがデフやDSW部隊の頭上へと舞い上がる。ベイオネットライフルの銃剣を天高く掲げるその姿は、まさに“白き反戦の志士”と呼ぶに相応しかった。


《僕はもう、無抵抗なだけの“殴られ屋”じゃない。戦いが歴史の必然だと言うのなら、僕はそれに抗い続けてやる。僕達の本当のは、戦争という行為そのものなのだから……!》


 西暦2281年、5月1日。

 火星・クリュセの地にて、死の商人“プレジデント=ツェッペリン”の引き起こしたクーデターに対する最大の反抗作戦がいま、始まろうとしていた。

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