吸血鬼ヴラッド

第11章『吸血鬼ヴラッド 1』

──お前なんて産むんじゃなかったよ。


 その少年はこの世に生を受けてから、常に自己を否定されながら生き続けてきた。

 本来ならば彼を一番に愛するべきだった両親も、他人を蹴落とすことで自らの地位を示そうとする愚かな人々も、何かと口実を見つけては獣のように自分へと拳を振るう。世界が自分や妹に対して優しく出来てなどいないのだということは、物心つく頃にはとっくに気付いていた。


 それでも。

 自分がであると、虐げられたの人間であると、認めたくなかった。

 認めてしまえば、自分は本当に弱く惨めな存在に成り下がってしまう気がしたから。それだけは、本当に御免だった。


 だから少年──アレックス=マイヤーズは、どれだけ不当な暴力を被ろうとも、自分が被害者であることを認めようとはしなかった。

 屈服したのではない。この世に蔓延する全ての蛮行は愚行であると切り捨て、ただひたすらに拳を握らぬ反抗を続けた。


 その決意の固さは、他人の目から視ても『アレックス=マイヤーズは意志の強い人物である』と知らしめるには十分過ぎるほどだったことだろう。事実、彼は一度たりとも心折れることはなく、またそうなってしまうことを善しとはしなかった。

 確かにきっかけは能動的なものではなかったかもしれない。けれど、この生き方自体は自分で決めたものだ。

 自分はなのだから、決して暴力などという愚行に溺れたりはしない。そんな生き方に憧れたから、そういう自分であろうと心掛けたのだ。


 どんな肉体的な痛みにも耐え忍んだ。

 身体の傷は時間が経てば癒えるし、心だって自分がを認めない限りは案外平気でいてくれる。

 こんな生き方が普通じゃないということはわかっている。始まりは自己存在アイデンティティの証明だった筈なのに──まるで自己防衛を放棄したような思考は、側から見れば狂人のそれに映っていたことだろう。

 しかし、それとて本意によるものだ。望んだから、粗暴とは無縁な人間として生きようとした。自分が素晴らしいと思うことのできる理想を遂げる為に、強い心の持ち主──すなわち、としてあり続けた。




 ……では、果たして辿り着いたこの場所は、自分の思い描いた理想卿なのだろうか。


 違う、こんな結果は望んでいなかった。


 けれど、自分の選んだ道の先にこの惨状があったのだから、きっとこれが“平和主義の狂人が行き着く果て”だったのだろう。




──あなたは私を散々苦しめた!


──信じて……信じて……! そして、裏切られた……ッ!


──お兄ちゃんの言葉はいつだって優しいよね。でも、それは“優しいだけ”だった。


──誰かの為に自分を傷つけるなんて、もう嫌だ。私はもう、泣き寝入りなんてゴメンなの……。


──じゃあ私を殺してみせて! じゃなきゃさっさと殺されてよ!




 本当に、本当に馬鹿げた話である。非暴力主義こそ人のあるべき姿であると説き続けた少年の末路は、誰よりも大切だった者に絶望を突き付けることにしかならなかったのだ。

 おそらく妹はこの世界を、そして自分を未来永劫に呪い続けるだろう。こんな運命を辿ってしまった自分が兄として酷く惨めで、情けなくて、哀れだった。




 心など、とっくに折れてしまっていた。


 それでも自分は、これからも強者であり続ければならないだろう。

 だってそうだろう。自分は正真正銘、紛う事なき強者なのだなら。


 たった一度の敗北すらも、認めるわけにはいかない。




 いや、認めるわけにはいかなくなっていた。





 長い夜が明け、陽が昇り始めた火星の空を飛行する輸送機が一つ。その機内の座席ですっかり眠りに落ちていたミランダは、気流の揺れによって静かに目を覚ました。

 寝起きで朦朧とした意識の中、ゆっくりと顔を上げる。パイロットスーツ姿のマーク=ジェイコフとジキル=アニアンが、自分とは反対側のロングシートに体を固定して座っているのが見えた。


(そういえば私はあの戦闘の後、そのままコックピットで寝てしまったんだっけ……)


 ミランダは眠る前の記憶を思い出す。たしか初陣の緊張が一気に解けてしまった反動からか、まるで気絶するように寝落ちしてしまったのだ。

 自分の乗っていたフーリーウェイ4号機は損傷によって戦闘のあった地点から動けなくなってしまったため、おそらくこの輸送機には回収されていないだろう。つまりミランダは誰かしらにコックピットから拾い上げられ、ここまで運び込まれたということになる。

 もしそうならば、ちゃんと御礼を言っておかなければ。そう思い至ったミランダは口を開こうとするも──、


「……ぁっ」


 しかし、寸前で言い淀んでしまう。

 それほどまでに、マークとジキルの無念そうに顔を俯かせている様子は見ていて居た堪れないものであったし、それによってミランダも思い出したくない現実キオクを呼び覚ましてしまっていた。

 暗くどんよりとした空気を察したミランダは、ゆっくりと視線を横へと向ける。

 隣の座席には、フォックス小隊いちの常識人であるロマリオ=ジョゼが──いや、彼肉塊が敷き詰められている黒い遺体収容袋が座らせられていた。


「人の亡骸を見るのは初めてか?」

「あっ、いえ……」

「これでも遺体を回収できた分、あいつはラッキーだったよ。今時、戦場で死んじまえば髪の毛の一つも家に戻らねぇほうが普通だ」


 マークは冷静に述べるも、その表情はやはり納得がいっていない様子である。小隊の中では交流の期間が最も短かったミランダですら相当に堪えているのだから、ロマリオを失ったことによる彼らの喪失感は想像に難くないだろう。ジキルの場合、特にそれが顕著だった。


「いつかこの戦いが落ち着いた時、本当ならロマリオに女を紹介してやるつもりだったんだよ。あいつは頑なに断っていたが、あんな生真面目で誠実なヤローに恋人が居ないのは勿体ねぇからな。自分からナンパしにいくような性格でもねぇだろうし。なのに……」


 普段は斜に構えた態度を取る皮肉屋なジキルが、今は感情を露わに怒り立てている。空虚さを埋めるように握られた拳が、彼の膝へと思い切り叩きつけられた。


「なのに、あの紅い奴は何もかもを台無しにしやがった……! 絶対に許さねぇ……次に戦場で遭ったら、真っ先に操縦席を撃ち抜いて地獄に送ってやる……」


 仇敵への怒りに燃えるジキルを見て、ミランダはふとアレックスの事を想起させる。

 例えどのような事情があったとしても人殺しを善としない彼は、きっと復讐や報復といった行為も許し難いものだと説くだろう。

 憎しみは何も生み出しはしない。復讐を果たしたところで、失われたものは二度と戻ってこない。ミランダとて、理屈の上ではわかっているつもりだ。

 が、しかし。


(ごめんなさい、先輩。どうやら私も……ロマリオさんを殺した人を、許せそうにないみたいです……)


 そう思えてしまう自分が、まるで器量の狭い人間のように思えてしまえて、情けなく感じてしまった。

 もしも自分がアレックスやエリーのような慈しみに満ちた人柄の持ち主であれば、きっと相手がどれだけ非道な罪人であろうと許せていたのかもしれない。

 だが、ミランダには決して悪人とまではいかないものの、人並みに“悪い子”であるという自覚があった。嫌がらせを受ければ仕返しをしてやりたくなるし、自分や仲間を不幸に陥れた人間には報いを受けて欲しいと思ってしまう。

 そんな自分が、やはり本物ホンモノになど成れるはずがないのだ。


(やっぱり、先輩と並んで立つのに相応しいのは私じゃなくて……)


 頭の中で、答えは既に出ていた。

 思わず泣き出しそうになってしまうのを必死に堪えて、窓の奥に広がる景色へと肩越しに視線を向ける。照りつけるように射し込む朝陽があまりにも眩しく、ミランダはすぐに目を逸らしてしまった。

 光を直視できない自分に、また嫌気がさした。





「ん、来たかアレックス。元気ィ……でもなさそうだな」


 キムからの呼び出しを受けていたアレックスは、長らく訪れていなかった格納庫への重い足取りを運んでいた。

 相変わらずキムは仏頂面で迫力があったが、それでも今日はこちらに対してどこか気遣わしげである。きっと自分との距離感を測りかねているのだろう。それはアレックスにとっても同様であり、咄嗟の返事もつい辿々しくなってしまった。


「……それで、僕に用というのは何です?」

「ああ、こいつに新しく取り付けたユニットの事なんだけどよ」


 言われ、アレックスは眼前に佇む白いDSWを仰ぎ見る。数日振りに目にする“LDP-91 ピージオン”の姿がそこにはあった。

 前の戦闘で損傷した箇所の修復は既に終わっており、失われていた右腕や折れた女神像の右翼も元どおりになっている。五体満足であることを確認したアレックスは、次いでこれまでには存在していなかった筈の目新しいパーツへと注意を向けた。


 そう。四肢を持つ人型兵器であるピージオンの背中に──人体には本来該当しない部位である──機械的な一対の翼が生えていたのだ。キムの言っていた新しいユニットとはおそらくこれの事だろう。

 ピージオンの純白の装甲色とは真逆に漆黒で塗られたそれは、カラスか……はたまた堕天使を彷彿とさせるような禍々しさを放っていた。

 流線を描いた板状のウイングパーツは機体の全長ほどの巨大さを誇り、先端には鋭利な爪のようにも見える鋼鉄の羽根が左右に5片ずつ……計10片が付けられている。


「キムさん、これは……?」

「翼型複合兵装“ドミネーターウイング”っつうらしい。幾つかの火器と大型スラスターを内蔵してて、機体に破格の攻撃力と推進力を与え、更にはシールドとしての役割までも果たしちまうっつう……ともかくバケモノみたいな代物なんだとよ」


 マニュアルに書かれた説明文をそのまま読み上げるように、キムがつらつらと語る。どうやらキム自身、まだこのユニットについてあまり理解が行き届いていないらしい。


「何でそんなものをピージオンに……?」

「それがよ、こいつの“ユナイテッド・フォーミュラ”にはちょいと特殊なプロテクトが掛けられているらしくてな。ピージオン以外のDSWだと規格外パーツとして認識されて、そもそも接続すら出来なくなっちまってるみてえなんだ」

「ピージオン以外には使えない……?」


 それはすなわち、初めからピージオンに装備する前提で開発されたということと同義である。汎用性の高さがウリである“ユナイテッド・フォーミュラ”という概念を根本から否定するようなその仕様には何とも形容しがたい違和感を覚えてしまう。

 が、この機体の真実を知るアレックスにはおおよその見当が付いてしまっていた。むしろ、女神像を抱く純白の天使から堕天使のような黒い翼が生えている様をみれば一目瞭然でさえある。

 美しくもおぞましいこの姿は、まさに人々が思い描く“死告天使”のイメージそのものだ。どうせオミクロンが奪取したピージオンに装備するつもりだったとか、そんな理由でこのマリネリス基地の武器貯蔵庫に眠っていたのだろう。“支配する者ドミネーター”という大層な名称を鑑みても、性能以上にプロパガンダ的な意匠を優先させていることは明らかだった。


「まあそんなわけで、こいつはピージオンに取り付けることになった。それでお前には、操縦席から“ドミネーターウイング”の認証作業を頼みたい。なに、大部分はエラーズの側で自動的にこなしてくれるはずだ」


 キムにそう言われ、アレックスは少しばかり考え込んでしまう。確かにこの作業はコックピットから行う必要があるため、生体認証で紐付けられたアレックスにしか行う事ができない。

 だが、そもそも自分がこのままピージオンに乗り続ける意味は果たしてあるのだろうか。

 逃げ道が用意されているわけではない。しかし、前に進めるほどの勇敢さすらも失われてしまっている。一体何をどうするべきなのか、自分でもわからなくなってしまっていた。


「……わかりました。接続するだけでいいんですよね」


 遂には沈黙に耐えかねるという消極的な理由で、アレックスは渋々承諾してしまう。ともかく今は一刻も早く作業を終わらせて、1人になりたかった。

 アレックスはリフトへ乗り込むと、手元の上下装置を操作してピージオンの胸部を目指す。ハッチを開けてコックピットへと滑り込み、手慣れた動作で機体を立ち上げると、すぐにエラーズからの応答があった。


《パイロットの搭乗を確認。チェック……“アレックス=マイヤーズ”と確認。Hello, worldこんにちは


 当然だがエラーズの声は、いつものように無機質で冷淡なものだった。このAIはいくら人語を話せてもやはり機械なのだということを再認識すると、アレックスは眼前のコンソールへと次なる指示を飛ばす。


「エラーズ、外部ユニットの検出及び接続を頼む」

《了解。検出開始……終了。“DOMINATOR WING”の接続を確認。こちらでお間違いないですね?》

「ああ」

《了解。これより接続プロセスを開始します。なお、プロテクトの解析とシステムのインストールに15分ほど時間を要します。しばらくお待ちください》


 これでアレックスの仕事は一旦終了であり、あとはエラーズが作業完了するのを待つだけである。それまで手持ち無沙汰になってしまうため、この狭いコックピットのシートでどのように過ごそうか考えていた、そのときだった。


《作業を完了するまでですが、よろしければ少しお話をしませんか?》

「──!」


 エラーズの提案があまりにも予想外なものであったため、その言葉の意味を理解するのに数瞬の時間を要してしまった。アレックスは驚きを隠せず、つい感嘆の息を吐いてしまう。


《貴方には、以前からお訊ねしたいことが幾つかありました。お嫌でしたか?》

「いや……少しびっくりしただけだよ。君から話題を振ってくるなんて、今までなかったからさ」

《お言葉ですが、搭乗者支援用AIである私には、人との言語的コミニュケーションをとる機能が備わっています。議題の提案をしたところで不可解な話ではないかと》

「……まあいいさ、会話には付き合うよ」

《感謝します》


 あくまで事務的な口調でエラーズは感謝の言葉を述べる。アレックスはそれを聞き届けると、改めて話を切り出した。


「それで、聞きたいことっていうのは何だ?」

《はい。お訊ねしたかったのは、貴方の戦術方針に対する疑問と懸念についてです。これまでの戦闘記録を照合した結果、およそ93.333%の確率で敵機のコックピットへの被弾を警戒していることがわかりました。これに関して、何か明瞭な理由はあるのでしょうか》

「理由がなくちゃいけないのか」

《肯定です。戦場においてこの判断は当機自身への危機に繋がってしまう可能性が極めて高く、非合理的なものと思われます。特に理由が存在しないのであれば、くれぐれもそういった行動は謹んで頂きたいのです》


 全くもって予想の通りだったエラーズからの返答を聞いて、アレックスは内心で少しだけ落胆してしまう。

 合理性と論理性のみで物を語るエラーズは、やはりただのマシンインターフェースでしかないのだということを思い知らされ、わけもなく悲しくなった。


「理由くらいなら幾らだって挙げられるよ。人殺しは御免だ」

《理解しかねます。何故そこまで敵パイロットの生命を案じる必要があるのでしょうか》

「それがわからないのなら、お前はやはりただの機械だよ」


 エラーズと相容れることはできないだろうと判断したアレックスは、あくまで突き放すように吐き捨てる。

 しかし、エラーズは黙って引き下がるばかりか、意外にも食いついてきた。


《反論1、当AIは自己学習機能を備え、思考能力を有した高性能コンピュータユニットです。ただプログラムを実行するだけの無能きかいとはわけが違います。反論2、相互の情報共有も不十分なままそう判断されてしまうのは早計かつ軽率です。そのような条件下で私に対して不当な評価を下すのはご遠慮ください》

「なっ……」


 言葉こそロジックに裏打ちされたものではあったが、その物言いはまるで拗ねてしまった子供のそれである。一瞬でもただの人工知能に過ぎないエラーズに対して人間味のようなものを見出してしまったアレックスは、興味本位で訊ねる。


「人工無能とは違う、か。そこまで言うのなら、僕がお前のいう“非合理的な行動”に走る理由を考えてみろ」

《了解。推論1、敵兵への同情もしくは殺人に伴う罪悪感への忌避。推論2、敵兵に死よりも大きい苦痛を味あわせたいという欲求。推論3、自身の操縦技術に対する過剰な自信。推論4、自身の死への願望……》


 その後もエラーズは淡々と自身の導き出した推測結果を羅列していく。中には常軌を逸したようなものも見受けられたものの、その殆どはちゃんと人間の視点から論述されており、アレックスも思わず舌をまく。


「そこまででいい、一つ目で当たってるよ。……なんだ、意外とわかってるんじゃないか」

《いいえ、まだわからない点は残っています。貴方が敵兵に対して同情や情けをかける理由がありません。特定の敵パイロットが知人や友人だというのであれば、まだ理解の余地がありますが》


 エラーズが問うと、アレックスは間髪入れずに答える。


「誰だろうと一緒だよ。たとえ見ず知らずの相手だったとしても、向こうには家族や仲間がいるんだ。命を奪ってしまったら、きっと誰かが悲しい思いをしてしまうだろ」

《ですが殺さなければ、貴方が殺されてしまいます》

「……そうだな。そればかりか、仲間だって危険に晒してしまうかもしれない。……いや、そうなってしまったんだ」

《それを理解していながら、なぜ貴方はこの無謀ともいえる行動を尚も取り続けるのですか?》

「……ゆるされた、から」


 少し間を置いてから、アレックスが言う。


「僕は取り返しのつかないことをしてしまった。それでも僕は、エルシャさんに赦された……赦されてしまったんだよ。なら、今更あきらめるわけにはいかないじゃないか……」


 弱々しく言葉を紡ぎながら、つい自嘲気味な渇いた笑いが零れてしまった。

 数日ほど前の、エルシャ宅を出発する際に目にした光景を思い出す。あのとき部屋の壁に深々と突き立てられていた包丁は、間違いなく自分への怨念や復讐心を宿らせているものであった。

 それでもエルシャ=ムグンという女性は、強い意志と慈愛の心を持って負の感情を押し殺し、夫の仇敵である自分を容認してくれたのだ。ならば最大限の誠意をもってこの恩義を返したいと思うのが、アレックスにとっての道理である。


 エルシャの一件だけではない。

 ミランダ=ミラーは自分に対して、“意志を貫いていた時の自分が好きだった”と赤裸々に告白してくれた。

 ミリア=マイヤーズはこの平和への理想など綺麗事でしかないと吐き捨て、ことごとくを否定した。


 大切な仲間の期待には応えたい。

 その一方で、この理想を抱き続けるということは、自分に向けられている殺意を増長させていくことに繋がってしまうしまう。


 もう、どうすればいいのかわからなかった。


《……やはり貴方は、非合理的な人です》


 心なしか、エラーズが寂しげにそう言っているように聞こえた。

 その僅か数秒後、接続プロセスの終了を示す電子音がコンソールから発せられる。


《プログラムインストール完了。追加ユニット“ドミネーターウイング”は正常に接続されました》

「あ、ああ……ご苦労様、エラーズ」


 そう言ってシステムをスリープ状態へと移行させると、アレックスはハッチから身を乗り出す。するとピージオンの足元から、黒いロングドレスに身を包んだ麗人──ドロレス=ブルームがこちらを見上げていることに気付いた。


「オミクロン様がお呼びよ、着いて来て」


 アレックスはリフトを伝って機体から降りると、ドロレスの背中を追って格納庫を後にした。

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