第3章『密会のフリージア 3』
まずアレックスは、コスモフリートの艦内にこれ程までの広い部屋が存在していたということに驚いた。約100名ほどいるクルーのうち8割が入っても問題のないこの部屋……作戦司令室改め『宴会室』には現在、色とりどりの料理がテーブルの上に並べられていた。そして、グラスを持った乗組員たちが見守る中、壇上に立つバハムートが言葉を紡ぎ始める。
「……えー、テス、テス。コホン。えーっと……諸君。これまでの長旅、ご苦労だった。失うものも多い中、それでも付いてきてくれたお前達には本当に感謝している」
こういう挨拶は苦手なのか、バハムートは辿々しい様子で服のポケットからカンペらしきものを取り出し、盗み見ている。
それを見て遂に業を煮やしたのか、ヒューイを始めとするクルーの何人かが声を張り上げた。
「挨拶なんていらねェよォ! さっさと食わねえと料理が冷めちまうじゃあねえか!」
「ム……、それもそうだな。では、我々コスモフリートの健闘を祈って」
バハムートが手に持ったグラスを頭上に掲げ、部下達もそれに同調する。この杯はまさに、海賊達の結束の証でもあるといえた。
「乾杯ッ!」
*
「『乾杯ッ!』とか、きっと今頃言ってるんだろうなぁ……。はぁ……」
ため息まじりに、しかしキーボードを叩く手は一切休めることなく、格納庫にいるシンディ=サハリンは呟いた。今現在、クルーのうちの大半は、アレックスの快復祝いも兼ねた宴会に参加するべく離席している。とはいえ、当然ながらクルー全員が持ち場を離れていいはずもなく、現にこうしてシンディを始めとする技術班は貧乏くじを引いてしまっている……というわけだ。
「……ったく、俺も一応パイロットなのに。ちっとは配慮して欲しいよなァ……」
「おいメガネの貴様。無駄口を叩いている暇があったら手を動かせ」
「動かしながら無駄口を叩いてるんですから、大目にみてくださいよ。アルテッラ姐さん……」
背後に立つメカニックの女性──ラウラ=アルテッラに対して、シンディは振り向くことなく応える。
飾り気のまるでない地味なつなぎに身を包んでいる彼女は元々『ダーク・ガーデン』にて工房を生業としていたが、コロニー自体が崩壊してしまったため、なし崩し的にコスモフリートへと技術士として乗り込むことになった。技量がそのまま地位の高さとなる技術士の世界において、有能な人材であるアルテッラの発言力は大きく、コスモフリートのメカニックとしては新参者であるにも関わらず、既存のクルー達を取り仕切っている。その為、シンディとしても頭が上がらない人物であった。
「そういえば、アルテッラ姐さんは宴に参加しないんですか?」
「姐さんはよせ。ん……、パーティはイマイチ性に合わなくてな。作業をしていたほうが遙かに気楽だ」
アルテッラから予想どうりの返答を聞いて、シンディはついほくそ笑む。『三度の飯より整備が好き』という言葉がアルテッラという人物を非常によく表しており、それがコスモフリートのメカニック……ないしクルー達にとっての共通認識でもあった。
そのようにして、シンディらは黙々と作業に徹していると、
「みなさぁん! お食事を持ってきましたよー!」
「今日の食いもんは特別に豪勢だよ。味わって食べるんだね!」
格納庫の出入り口からキャリーカートを押すミリアとポニータの声が聞こえてきたため、メカニック達は一時作業を中断してそちらへと集まってゆく。シンディも御多分に洩れずキャリーカートの方へ向かうと、ミリアから密閉型の容器に入った食べ物やドリンクのボトルなどが載ったトレイを手渡しされた。ちなみにアルテッラはというと、どうやら食事も摂らずに作業を続けるつもりらしい。
「おおっ、ハンバーグもあるんだ。俺、大好物なんだよね」
「よかったねぇ、シンディ。それはミリアが作ったんだよ。ねっ、ミリア」
「うん! エリーお姉ちゃんに教えて貰いながら作ったんだっ」
『えっへん』と、ミリアは腰に手を当てて誇らしげに胸を張ってみせる。この弱冠13歳あまりの少女は、成り行きでコスモフリートに乗ることになってしまったとはいえ、今はこうして炊事当番として真面目に働いてくれている。働かざるもの食うべからずとは言うものの、彼女はまだ若く、幼い。ましてやつい此間まで平和な木星圏で生活していた民間人だったのだから、今の生活には少なからずストレスを感じていることだろう。にも関わらず、ひたむきに働くミリアの姿を見て、シンディは素直に感心していた。
「ミリアちゃんは偉いなぁ。いつもありがとうね。んじゃ、いただきます……ン! うンまいなぁ!」
多忙なエンジニアであるシンディは食事の殆どを味気ない携帯食料で済ませていたため、こうした手料理を口にするのは久々であった。柔らかい肉を噛むと、ジューシーな肉汁が口一杯に広がっていく。真空パックに入れられているとはいえ、作りたてのハンバーグはやはり格別であった。
「うん、美味しい! ミリアちゃんはきっと将来いいお嫁さんになるよ!」
「こらシンディ。あんたいい歳して独り身だからって、まさかミリアを狙ってるんじゃないだろうねぇ……?」
「なっ……! いい歳って、俺はまだ28だぞ!? そ、それにっ、恋人がいないのはポニータだって一緒じゃないか!」
「あたしはまだ若いからいーんだよ。それに恋人はいないんじゃなくて作らないの。あたしくらいの美人ともなれば、男なんてすぐ寄って来ちゃうんだから」
「ポニータが美人……? おかしいな、メガネは曇ってないハズだけど……」
「あ・ん・た・ねぇ……! ブラックジョークが過ぎるんだよ! とりあえず歯ぁ食いしばりなッ!」
男勝りな性格故にコスモフリート内でもしばしば女性として扱われていないポニータであったが、今の軽はずみなシンディの冗談は流石に彼女の逆鱗に触れてしまったらしく、握り拳をプルプルと震わせている。
このままではシンディの顔面に鉄拳が叩き込まれ、『修正』されてしまう! その前兆を肌身で感じ取ったミリアは、何とかこの場の空気を変えようと必死に思考を張り巡らせ、やがて口を開いた。
「そ、そういえばポニータさん、シンディさん! このハンバーグに使ってるお肉って、一体なんのお肉なんですか? 見た感じ、牛でも豚でもないみたいだったしぃ……」
ミリアは調理中から思っていた素朴な疑問を口にすることで、何とか場を治めようと試みた。彼女の思惑通り、今にもひ弱そうな理系男子のシンディに殴りかかろうとしていたポニータの拳はぴたりと止まる。
しかし、ミリアの質問を聞いた二人は、何故かバツの悪そうな顔で互いにアイコンタクトを取り始めた。しばらくして、ポニータとシンディが応答する。
「……あ、あのねぇ、ミリア。世の中には、あんまり知らないほうがいい事だってあるのよ」
「うんうん! それにミリアちゃんの作ったハンバーグはスッゴク美味しかったしね! 食材なんてこの際どうでもいいのさ! ……むぐっ。ほら、やっぱり美味しい!」
「そ、そうですか……?」
これまでの険悪な雰囲気が嘘だったかのように笑い飛ばすポニータとシンディだったが、その表情がどこかぎごちないのを、ミリアは決して見逃さなかった。
何となく腑に落ちない。そんなモヤモヤした感情を抱きながら、ミリアは一先ずポニータと一緒に宴の会場に戻ることにした。
*
(あれ……? そういえばエリーの姿が見当たらないな。ああ、そうか。格納庫に居る人たちに食事を配りにでも行ってるのか)
そんなことを考えながら、アレックスは宴会室の壁際で立ち尽くしていた。お祭り騒ぎのクルー達を傍観しつつ、時々グラスに入ったノンアルコールのドリンクに口をつける。そうやって時間を過ごしていると、不意に真横から甘ったるい声が飛び込んできた。
「先輩っ。こんなところで何してるんですかー?」
「……はは、びっくりした、ミランダか。なんていうか、こういう雰囲気にはちょっと馴染めなくてさ」
「あー、その気持ちよくわかりますねー」
華々しい、如何にも社交が得意そうな少女であるミランダは、意外にもアレックスの意見に同意を示した。彼女はアレックスの横に並ぶと、同じように宴の様子を眺めながら続ける。
「こういう大勢が騒いでいる場に混ざると、『自分も盛り上げなきゃ』っていう強迫観念に駆られちゃうんですよね。それで気疲れしちゃって、余計に楽しくなくなっちゃうんですよ」
「そっか、君も……。でも意外だな。君はもっと、周囲に溶け込むのが上手いタイプだと思ってた。ほら、いつも笑顔を絶やさないし」
「そういう処世術でも使っていかないと、女の子の世界は生きていけないんですよ? 先輩」
「そ、そういうものか……」
「うふふ。そういうものです」
ミランダは悪戯っぽく微笑む。彼女はいつもどこか飄々としていて、その真意が全く掴めない。アレックスから見たミランダは、そのような印象の少女だった。
「だとしたら尚更大変そうだ。本当は嫌なことを隠しながら振舞わなきゃいけないなんて、それこそ自分の身を削るようなものだし……」
「それは先輩だって同じですよ」
「同じ? 僕が?」
聞き返すと、ミランダは笑って頷く。一見すると邪気のない純粋な笑顔であったが、これも彼女の語る処世術なのだろうか。残念ながら、アレックスはそれを見抜く術を持ち合わせていなかった。
「はい。だって先輩、本当は争いごとが嫌いな筈なのに、ピージオンに乗って戦ってくれていたじゃないですか」
「あれは……僕だって最初は本意じゃなかったさ。でも、皆を守るためには、そうするしかなかったから」
「そう。先輩は“戦った”んじゃなくて“戦ってくれた”。先輩自身の為じゃなく、私たちみたいな他者のために。それって、凄いことだと思うんです」
ミランダはこちらに顔を近づけ、念を押して語る。ほんのりと甘い香りが鼻腔をくすぐり、アレックスは少し動揺で強張りつつ、辛うじて声を絞り出す。
「べ、別に凄いことなんかじゃないさ。『ミスト・ガーデン』の時だって、僕が瓦礫を退ける為に偶々ピージオンに乗っていたからそのまま戦うことになっただけで。操縦だって殆ど自動だったし、僕じゃなくたって出来た筈だよ」
「んー、そうですかねぇ。例えばミド先輩とかだったら、敵に怖気付いて逃げ出しちゃってたかも……?」
「あ、あはは。あんまり悪く言わないであげてくれよ。ミドだって必死だったんだからさ」
「そうです。それが普通の筈なんです。でも、先輩は違った。怖じ気付いてはしたかもしれないけど、それでも勇敢に立ち向かっていた……」
アレックスはミランダの言葉を聞き流しつつ、何となく喉が乾いたのでドリンクを再び口に運ぶ。
「正直、カッコいいと思いました。勿論、異性として」
「ぶふっ!?」
思わぬミランダの発言に、アレックスはつい口に含んだドリンクを盛大に吹き出してしまった。咳き込みつつ、アレックスはミランダの方を振り向く。
「……そ、それも君の言う処世術ってやつなのか? 冗談にしても過ぎる気がするけど……」
「これは本心ですよ? 雌が強い雄に惹かれるのは遺伝子的に当然です」
「遺伝子って……、君はそういうアプローチをするんだな……」
「あら、こういうのはお嫌いでしたか? じゃあ今度からは気をつけます」
「こ、今度って……」
「でも、私がいつまでも大人しくしているとは思わないでくださいね。先輩っ」
言って、ミランダはやはり小悪魔のように笑む。彼女の言葉が一体どこまで真実なのか、まるでわからない。
痛む眉間を手で抑えつつ、困り果てたアレックスはついため息をついた。
*
「どうしたの、ミド。急に呼び出したりなんかして」
コスモフリート艦内の展望室を訪れたエリー=キュル=ペッパーは、そこで待ち伏せていた相手──ミド=シャウネルに尋ねた。宴の最中ということもあり、展望室には他に人はいない。この場所は今、完全に二人きりの空間であった。
「来てくれてありがとう、エリー。そして君をここへ呼んだのは他でもない、大事な話があるからだ」
小洒落たサングラスを掛け、黒いスーツに身を包んでいるミドが振り返りながら言う。彼は言葉遣いこそ粗暴なものの、一つ一つの仕草や挙動にはきめ細やかな気品ささえ感じさせた。普通なら見落としそうなことではあるが、人の観察眼に長けたエリーはこれを“違和感”として捉えていた。だからこそエリーはミドに対して嫌悪感とまではいかないものの、少し苦手意識を持っていた。
「その、大事な話っていうのは……?」
「ちょうど一年くらい前、今と同じように君と二人きりで会話した時のことは、覚えているだろう?」
ミドの語る出来事に、エリーは確かに心当たりがあった。
一年前。まだ『ミスト・ガーデン』で平和に暮らしていた頃。ある日、エリーはハイスクールの校舎裏に呼び出され、ミドからあることを告げられたのだ。
察しの良いエリーはすぐにミドの言わんとしていることを理解した。そして、一秒たりとも迷わずに返答する。
「ごめんなさい。でも、あの時と返事は変わらないわ。申し訳ないけど、あなたとは……」
「そう言わずに考え直してくれないか。あの時の君は、家庭の事情があるからと言って断ったじゃないか。でも、今はそんなのも関係ない。『ミスト・ガーデン』という鳥籠にいない今、俺も君も自由だ。だから……」
「それを言うなら、今の方がよっぽどそんな状況じゃないと思うの。私だけじゃない、クルーの皆だって、精一杯に戦って生きようとしている。これじゃ、いけない?」
あえて厳しい言葉を選んで突き放そうとするエリーだったが、それでもミドは引き下がろうとしない。心なしか、彼はどこか焦っているようにさえ感じられた。
「“クルーの皆”って何だよ。俺たちはいつから海賊になった? そうじゃないだろ。俺たちは元々民間人で、今は仕方なくこの船に居るだけじゃないか……」
「ミド……? あなたは一体……」
「どうせ、俺じゃなくてアレックスのことが好きなんだろ? そりゃそうだよな、あいつは俺たちにとって命の恩人……
ミドの様子がおかしい。俯いた彼の姿はどこか寂しそうにも、そして悔しそうにも見える。
「ミド、あなたが見えないわ。私はあなたをどうやって助ければいいの? あなたの気持ちに応えることが、あなたにとっての救いになるの……?」
「……違う。救うのは君じゃない……俺なんだ」
「えっ……?」
わけのわからないミドの返答につい聞き返すエリーだったが、ミドは小さな背中を向けたまま展望室の出入り口に向かっていく。
「……すまない、この話は忘れてくれ。これからも、友達としてよろしく頼む」
ミドはそう言い残すと、エリーの返事も聞かずに展望室を後にしていった。一人取り残されたエリーは、呆然と立ち尽くしたまま視線を窓ガラスの向こうへと向ける。
ここから観える光をも飲み込みそうな深淵の宇宙は、木星からは限りなく遠い。宇宙義賊コスモフリートと行動を共にしているのだから当たり前のことではあるのだが、このままこの船に乗っていたところで、自分たちの故郷である『ミスト・ガーデン』へは当分戻れないだろう。いや、もしかしたら、一生帰ることなどできないのかもしれない。
そこでエリーはようやく、自分が『いつか帰れるだろう』という何の根拠もない考えを頭の片隅で抱いていたことにようやく気がついた。
(もしかしてミドは、本気で『ミスト・ガーデン』へ帰ろうとしているの……?)
具体的な方法については思いつかなかったが、それでもエリーの直感はそう判断した。確かに自分たちの故郷へ帰れるのならば、それに越したことはないと思う。だが、現状として
彼の真意がまるで読めない。普段は察しのいいエリーが、珍しく頭を悩ませていた。
*
「あ、アレックス。それにミランダさんも」
宴会室へと戻って来たミリアは、入り口付近の壁際に立っている自分の兄とその隣に並ぶ少女を見つけるなり、そそくさと歩み寄っていく。二人が何を話していたのかについても気になるところではあったが、それよりも聞きたいことがあった。
「ねえねえ。二人はハンバーグに使った材料が何だか知ってる?」
「何ってそりゃ、ひき肉とかでしょ。ミリアだって作ってたじゃないか」
「だから、その肉が何の肉なのかなって聞いてるの。ねえ、知ってるの?」
すると、アレックスとミランダは何故か困り顔で互いを見合い、やがてミランダが返事をする。ミリアにとってこのやり取りはまるで、先ほどポニータとシンディが交わしていたそれと全く同じものに見えた。
「ごめんねー、ミリア。実は私もよく知らないんだ」
「僕もわからないや。力になれなくてゴメンな、ミリア」
「あー、うん。わかった。それじゃ、私は食べ物とってくるね」
そう言って、ミリアは二人のそばから離れる。
(絶対に知ってるよ。あの二人……)
それくらいのことは、ミリアとてお見通しであった。それ故に自分がまるで子供扱いされているようで、非常に腹が立った。こうなったら、是が非でもハンバーグに使っていた肉の正体を暴いてやる。そう決心したミリアは、食事に群がる人だかりの中から特に『嘘のつけなさそうな人物』を見出し、すぐさま駆け寄った。
彼女に選ばれたのは“バロム3”のコールサインで呼ばれているDSWパイロット──ヒューイ=M=ジャクソン。メッシュの入ったモヒカンが特徴の、人相が悪く日頃の発言も馬鹿らしいものが多い男だ。彼は相当酔っ払っているのか、何故か上半身裸になっており、近付くだけで酒臭さが鼻につく。しかしこれは逆に、とても嘘をつける状態ではないと判断してもいいだろう。
決心を固めたミリアは、顔を真っ赤にして他のクルー達と何やら小躍りしているヒューイに後ろから声をかけ、そして問うた。
「ねえねえ、ヒューイさん。ちょっといいですか」
「おう? どうした、アレックスの妹ちゃん。おじさんたちと一緒に楽しいコトでもしたいのかァ?」
「うへぇ、酒臭ぁ……じゃなくって! ヒューイさんは、この艦で使ってるひき肉が何の肉なのか知ってたりしますか?」
「肉だァ? ……フヒヒ、ヒャッハッハァーイ! いい質問だぜ、お嬢ちゃん」
「っ! 何か知ってるんですね!」
もしかしたらヒューイは知識そのものを持ち合わせていないかもしれないという可能性を危惧していたミリアであったが、どうやらそれは余計な心配だったらしい。興味津々といった様子でミリアが問い詰めると、ヒューイは大袈裟に笑いながら頷いてみせた。
「あったりまえよォ! 肉の原料はズバリ……」
「“ウンコ”だ」
「ウン……、うん?」
刹那、ミリアの表情が一瞬にして凍りつく。一連の様子を眺めていたアレックスやミランダ、ポニータが頭を抱えたのは言うまでもない。
「……あ、あはは。やだなぁヒューイさん。そんな冗談を言って、おもしろくないですよぉー?」
「あ? 冗談じゃねェよ。ウンコだウンコ。ウ・ン・コ! ヒャッハッハ!!」
この余りにも居た堪れないやり取りに見兼ねたのか、近くにいたKTが補足説明をする。
「あのね、ミリアちゃん。この船には自給自足をする為のリサイクルシステムがあってね。人の……その、排泄物なんかを利用して、水や食料を合成しているんだよ」
「水や食料も……? お肉だけじゃなくて……?」
顔がどんどん絶望に染まっていくミリアを前に、KTは思わず『しまった』と口を抑える。彼はあくまで優しくありのままの事実を教えようとしたが、どうやらそれが仇となってしまったらしい。
「そんな……じゃあ私は今まで、そんなに汚いものを食べていたの……?」
ミリアの純粋無垢な瞳から、大粒の涙が溢れる。現実を受け入れるには、彼女はまだ幼すぎたのだ。
「う、嘘だ。嘘だ嘘だ。う、うぅぅぅ……、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「あ、ちょ! 待ちなよ、ミリア!」
ポニータの制止も振り切って、ミリアは部屋から飛び出していってしまった。
たった一人の少女の涙によって、気がつけば宴会ムードはすっかり冷め切ってしまっていた。しかし、ある意味で今回の事件の元凶でもあるヒューイが今の出来事を笑い話として持ち出すと、会場はすぐに賑やかさを取り戻す。
「……一先ず、私たちも行ったほうが良さそうですね。先輩」
「う、うん。どうやらそうするべきみたいだ」
顔を見合わせ頷くと、アレックスとミランダはすぐさまミランダの後を追った。
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