世界の終リハ君ト二人で

@ku_o

序章 5_雪が降る世界を

 2人だけのこの町に雪が降る。

 つないだ手の温かさは、肌に触れた雪の冷たさも心地よいと思えるほどだった。


「いこっ」


 僕の顔を下から覗き込み彼女は言った。

 ・・・一体どこに行くというのだろうか

 この町を出ても何も無いというのに


 誰がいる訳でもなく、何か出来る訳でもなく。僕たちはただ残された時間を、この世界で待つしかないというのに。

 彼女に手を引かれ、真っ白な道に新しい足跡をつけていく

 当ても無く、ただ僕たちは進むのだ。


「何も無くない」


 不意に彼女は言った。

 そして当然のように自慢げに言うのだ。


「君がいる、君がいるから」


 彼女のその瞳から、繋いだ手の温かさから伝わる彼女の心が

 僕の心を満たしていく

 それと同時に、これ以上の無い幸せと知ってしまった僕の心は・・・

 ・・・これ以上の悲しみがこの先にある事を知り


 トクン、トクンと・・・

 彼女に聞こえない音で叫ぶのだ。


 彼女は僕を見つめ、心配そうな視線を送る

 何か言いたそうに口を開き、1度迷い

 言葉をやめた。

 代わりとばかりに、僕の胸に顔を埋め

 ぎゅっと僕を抱きしめる


 彼女の暖かさが全身に伝わり、僕の心を満たしていく。

 そしてその暖かさが悲しみに変わる前に、

 彼女は僕の胸の中で言葉を・・・


いや。きっとそれは言葉ではなく、


想いや、感情を乗せたもの・・・


・・・歌を、歌うのだ


・・・

 

・・


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