第7話 七塚ミラの性能
魔法の作成に必要なものはなんだろうか。
知識。才能。経験。
人によって、必要と思う要素は違うだろうが、その中でも、誰もが口をそろえて言う事がある。
例えどんなに知識を持とうと、どんなに才能に満ち溢れようと、どれだけの経験を積もうと――最終的には、センスがなければ新しい魔法は作れない。逆に言えば、自分では使えないような複雑な術式であっても、その感性さえあれば、作成が可能である。
言ってしまえば、創作と同じだ。
お手本となるものはたくさんあるが、最終的には一からオリジナルを作成するということは、産みの苦しみを味わうことになる。
それはとても苦しいが――同時に、どうしようもないほどに、楽しいのだ。
「……眠い」
寝落ちする生活がすでに四日は続いていた。
眠ろうとしても、一日中フル活動させた頭は、少しでもアイデアの芽が出れば気になって眠れなくなる。
思い浮かんだアイデアをその場で試し、小規模な魔法行使とその調整に明け暮れ、疲れ果てて朝日が登る寸前に気を失う。そんな生活が続いていた。
「シオンは根を詰めすぎだよ。わたしも、いい加減疲れた……」
霊体であるミラも、ぐったりとした様子で彼のそばに付いている。霊体であっても意識はあるため、精神的な疲れは感じるのだ。
そんな彼女に、姫宮ハルノが笑顔を向けながら、霊子化された紙包みを差し出す。
「ミラちゃん、お疲れ様。甘いものでもどう?」
「あ、クレープだ! 食べる食べる!! ありがとうハルちゃん」
ぱぁっと顔を輝かせたミラは、かぶりつくように差し出されたクレープを手にとった。その様子を、ハルノがにこにこして見ている。ハルノの人徳故か、ミラは彼女にかなり懐いている。
カフェテリアでの昼食時。
ここの所、自身の作業に没頭しっぱなしで、授業中だろうがお構いなしに個人的な作業をしているシオンを見かねて、レオやハルノが無理やり昼食に連れ出していた。
いつもの四人と、ファントム二体が集まる昼食は、ひときわ賑やかだった。
「しっかし、シオンってほんとすごかったんだな」
そんな風にレオが感想をこぼした。
「今朝の実技で、勝手にオリジナル術式なんてのを試してたのには驚いたけれど、何より授業そっちのけで自分のことしてるくせに、教師に当てられても迷いなく答えてたところがすげぇよ。草上の言う神童ってのは、ほんとだったんだな」
これまでシオンのことを詳しく知らなかったレオは、素直に感心している。
それに対して、ノキアが呆れたように返す。
「そもそも、なぜ君が知らないんだ。君は確か、彼と同じ中学だったんじゃないのかい?」
「そうなんだけどよ。こいつ、中学んときは魔法のことあんまり喋らなかったからなぁ。まあ、俺の方も中学まで魔法のこと詳しくなかったから、『シオン・コンセプト』って言われてもピンとこなかったけどな」
他の人と違い、レオが魔法のチャンネルを開いてから、一年も経っていない。そのため、魔法界に関する話にはかなり疎いのだった。
そんな彼に、ノキアは不思議そうに言う。
「それでも、同じ学校に通ってれば、噂ぐらいは立ちそうなもんだけどね。何も、一般で無銘だったわけじゃないし」
「……『久我』の名前で情報操作したからな。目立つの嫌だったし」
会話に口を挟むようにして、眠そうな顔をしたシオンが言った。
「草上のところほどじゃないけど、うちの親戚もある程度の権力持ってるから、それ使った。というか、その親戚のせいで僕達は神童だともてはやされたんだ。その責任くらいは取ってもらわないと」
魔法学会の方で名前は知れ渡っていたものの、マスメディアに対しては年齢の関係から顔写真等の露出は控えていたため、比較的平和に日常に戻ることが出来たのだ。
今では、『シオン・コンセプト』と『アヤネ・フィジィ』の名前で登録された論文や称号だけが、ひっそりと残っている状態である。
その話の流れで、レオがノキアに尋ねる。
「俺としては、草上がシオンのことに詳しい事の方がびっくりだけどな。やっぱあれか、名家のお嬢様なだけに、そういうつながりがあったりしたのか?」
「いいや。シオンくんのことは一方的に知ってただけだよ。ま、それくらい二人の神童の話は、魔法業界では話題だったってことさ」
ノキアが少しだけ遠い目をして言う。彼女にしては珍しく、どこか含みのある口調である。
いつまでも自分が話題の中心になるのが嫌だったシオンは、話をそこで終わらせようと、傍らでハルノと談笑しているミラに声をかける。
「ミラ。今日の夕方、実技室を借りることができたから、少し練習していくぞ」
「ほんと! やった!」
疲れを見せていたミラが、目をキラキラさせて飛び上がらんばかりに喜んだ。
「もう、ずっと狭いところで調整ばっかりやってたから、ストレスたまってたんだ。やっとめいいっぱい発散できるんだね!」
「そういえば、ミラちゃんって今、久能くんと一緒に住んでるんだよね?」
ふと疑問に思ったのか、ハルノが尋ねる。
それに対して、あっさりとミラは頷く。
「うん。そうだよ」
「そ、それって、その。二人とも、不都合とか、ないのかな?」
「不都合?」
「……えっと、ほら。つまり、同棲、ってことでしょ?」
「? 何言ってるの、ハルちゃん」
きょとんとした顔で、ミラはまじめに聞き返す。
ハルノはと言うと、自分で言いながら恥ずかしくなったのか、顔を赤くして「あうあう」と言葉にならない言葉を漏らしている。
「お、それは俺も気になるぞ」
そこに、面白そうな話題だからかレオが話に乗ってくる。
「そこんとこ、どうなんだよシオン。ファントムとはいえ、こんな美少女と生活してるんだ。最近寝不足なのって、もしかして毎晩寝る間も惜しんで励んでるんじゃねぇのか?」
ニヤニヤとした表情は、完全に事態を楽しんでいる。
面倒くさいと思いながらも、シオンは答える。
「寝る間は惜しんでるが、余計なことはしてないぞ」
「寝る間は惜しんでいると! そりゃ気になるなぁ。こんなことをおっしゃっておりますが、ミラちゃんどうなの? 毎日、シオンとは変なことしてるんじゃないの?」
質問の矛先が変えられる。
汚れを知らない無垢な様子のミラは、その言葉に少しだけ「んー、変なこと?」と考えた後、ぼやくように言った。
「全身くまなく見られたり」
「ん?」
「あと、大事なところをいじられたり?」
「お?」
「はじめての経験ばっかりで、毎晩ドキドキしてるかな」
「おお!?」
興奮を隠しきれず、徐々に喜色満面になっていくレオは、身を乗り出すようにしてミラににじり寄る。
そして、ちらりとシオンの方を見ると、笑顔でサムズ・アップした。
「グッジョブ!」
「勘違いしてんじゃねぇよ馬鹿」
チョップ。
間違えて、普段ミラに対してやるように、魔力を込めてしまった。
そこそこの威力がレオの脳天に落とされた。「ぐぇ」と、カエルの潰れるような声を出して、レオは机に突っ伏する。
見ると、レオだけではなく、ノキアとハルノも興味津々といった様子で、それぞれこちらを見ている。
ハルノは顔を赤くして、ノキアはニタニタといやらしい笑みを浮かべて。各々が、シオンとミラに興味を示していた。
そんな彼女たちにジト目を向けながら、シオンはわかりきったことを口にする。
「……わかってると思うが、能力の調整してたんだからな?」
「ああ、もちろんだとも、シオンくん」
この女は、相変わらずシオンをいじる時だけ、異様に機嫌が良くなる。
大層大仰に、ノキアは普段見せないような笑顔でのたまった。
「魔法士としての君が、ふらちな真似なんてするはずがないからね。君が調整にかこつけて、可愛らしい女の子の秘所を次々と暴いていく姿なんて、これっぽっちも想像したりなんてしないさ。君は真面目だからねぇ。まして、いやらしいことなんてとてもとても」
「い、いやらしい!?」
ノキアの言葉にハルノが過剰に反応する。
「おいやめろ。ほんとにそんな感じになるだろ」
もうこの馬鹿みたいな会話早く終わってくれないかな、と投げやりに言う。
「ミラも、わかってて誤解するような言い方するんじゃねぇよ」
「んー。わたしとしては、やらしーことも、おーるおっけーなんだけどな」
「そういうセリフはもっと成長してから言え、ちんちくりん」
「ち、ちんちくりんって、シオンひどい!」
わーきゃー騒ぎ出すミラを片手で抑えながら、寝不足で痛む頭を抱える。
ミラはたまにそう言った発言をするが、言い方が子供の戯言にしか聞こえないので、どこまで本気なのだろう。
確かに、相手は霊体であるとはいえ、ミラは年頃の異性である。年齢的には幼いものの、女性を感じさせる程度の成長はしているので、同居ともなればそういった勘ぐりがあってもおかしくはないだろう。
だが、かつてアヤネと長期間の同居生活を送っていたシオンとしては、異性との共同生活など今更という気分である。
当時は幼かったとはいえ、非常にませていた二人は、互いに依存しあうことの意味をしっかりと理解していた。
甘酸っぱさなどなく、ただ退廃的に。
お互いの目的のために求め合って過ごした日々は、色恋の気恥ずかしさとはあまりに縁遠かった。
「ま、誰かと一緒に過ごすのは久しぶりだから、賑やかでいいけど」
そんな風に、今の生活を悪く無いとは思うのだった。
ちなみに、バディとしてのあり方として、そう言った一線を越えた関係を築いている者達もいないことはない。
異性ペアの場合、一緒に行動する時間が長ければ長いほど、情も移りやすいものだろう。
しかし、あくまで目的のために共闘するだけのペアもまた、少なくはない。
結局のところは、スタンスの違いでしかないのだろう。
人間と霊体として接するのか、人間性同士でつながりあうのかは、そのバディによって変わるだろう。
ふと、シオンは目の前に視線を移す。
そこには、ノキアのそばで控えているトゥルクの姿がある。
考えてみれば、この二人の関係は非常にオーソドックスな魔法士とファントムの関係だろう。二人の間には、主従関係としてしっかりとした結びつきがある。
もちろん同性ペアだからこその関係かもしれないが、どんなに親しくなっても立場が崩れないというのは安定しているといえる。
聞く所によると、トゥルクは草上家が用意したミドルランクファントムなのだという。ノキアの護衛役も兼ねているらしいので、実力は相当のものだろう。
そんなトゥルクは、先程から穏やかな表情で一歩引いて話を聞いていた。
しかし、ずっと黙っていた彼女が、唐突に口を開いた。
「久能様。一つ提案があるのですが、よろしいですか?」
「提案って、何ですか。トゥルクさん」
「お二人が、夕方に実技室でトレーニングをするということでしたので、よかったらわたくしとお嬢様もご一緒させていただけないかと思いまして」
意外な提案だった。
ちなみにノキアは関与していないらしく、飲んでいたコーヒーで激しくむせている。
「げほっ、トゥルク!? 君はいきなり何を言っているんだい?」
「お嬢様。これはいい機会だと思います。ご学友の役に立てるだけでなく、我々もトレーニングが出来るのです。インターハイの予選も迫っておりますし、少しは調整しておかないと」
「だから! 私は別にインハイなんて興味ないって言ってるだろう? 私は平和に暮らしたいんだってば!」
「とはいえ、一年生でバディ契約を結んだ者は、一部の競技には強制参加登録ですよ。どちらにしろ参加しなければいけないのですから、出来る努力はしましょう」
わがままを言うノキアを説き伏せるトゥルクという、いつもの構図が繰り広げられる。
「僕の方はいいですよ。むしろ、付き合ってくださるんでしたら助かります」
「ありがとうございます、久能様」
「だーかーら! 私はとっとと家に帰って寝るんだってば!」
最後までノキアはわめき続けたものの、その意見が聞き入れられることはなかった。
※ ※
テクノ学園には大小合わせて十二のトレーニング施設があり、そのうち高等部の生徒が使うことができるのは五つに限られている。
単純な肉体トレーニングのための器械から、魔法の調整のための処理装置、霊子庭園の展開のための補助装置と、およそ魔法士が実技を行うために必要な全てのものが揃っている。
バスケットコート四面程度の広い敷地を、個別に利用することができるように細かく区切られている。
その内の一つを借り受けたシオンは、霊子庭園の展開の準備をする。
そばにはワクワクした顔のミラと、いつものメンバーが揃っている。
協力を申し出たトゥルクも、表面上は穏やかに微笑んでいるが、どこかそわそわしている様子を見せていた。ちなみに、ノキアは無理やり連れて来られてふてくされている。
「よし、それじゃあ、最初は軽くミラの調子を確認したいから、庭園内に入ってくれ。トゥルクさんも、よかったら組手のまね事だけでもお願いします」
空間を区切るように青いベールが展開される。
霊子庭園。
その中は、擬似的な霊子界となっており、広さや質量も変わってくる。実技室の一区画はそれほど広くないので、霊子庭園で空間を創りだして、思う存分暴れられるだけの広さを確保する。
ちょうど、ミニチュアのような簡易フィールドが作成される。
その中では、全ての縮尺が十分の一ほどになる。
そのフィールドへと、二人のファントムが入場する。
セーラー服を揺らしながら入るミラと、スーツ姿でゆったりと歩くトゥルクの姿は、大人と子供であまりにもアンバランスだった。
「そういえば、草上」
「なんだい、神童」
「……いい加減、機嫌直せよ」
ムスッとした顔のノキアに、シオンは苦笑いを返す。
「ちょっと聞きたいんだけど、トゥルクさんって、どんなファントムなんだ? 核心にまで触れなくていいから、だいたいのところを聞きたいんだけど」
さすがにファントムの正体などは、戦略などにつながるので教えられないだろうが、ステータスや因子くらいならば、ウィザードリィ・ゲームでも事前に公開されたりする。
トゥルクについて事前に聞いた内容で言うと、六つの因子を持つミドルランクファントムということだけは知っていた。
「それなら、こんなところだよ」
口にするのが面倒くさいのか、ノキアは個人端末を操作すると、データをシオンの端末に対して送ってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ファントム:デイム・トゥルク(■■■)
原始『■■■』
因子『騎士』『傭兵』『騎兵』『冠ミトラ』『天衣無縫』『虚偽』
因子六つ。ミドルランク
霊具『■■■■■■■■■■』
ステータス
筋力値C 耐久値C 敏捷値C 精神力C 魔法力C 顕在性C 神秘性C
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだ、このステータス……」
パッと見たところでは、判断に困るステータスだった。
黒塗りで見えない部分は、シオンのアクセス権限では閲覧不可な項目ということだろう。公開されているステータスだけ見る限り、六つの因子という強力な因子数である割には、ぱっとしないステータスである。
というよりも、意図的に揃えられているかのようなステータスには、作為的なものを感じる。
「そういう反応にもなるだろうね」
肩をすくめながら、ノキアは言った。
「まあ、因子六つともなると、なかなか自然発生とは行かないらしくて、いろいろ調整しているらしい。原始はそれほどでもないんだけれど、因子を六つ重ねるまでに、地道に六代合成したって話だから、その執念もわかるだろう?」
「因子の内容から見るに、戦争関係か?」
影武者や偽王と言った逸話が幾つか思い浮かぶが、どうも要領を得ない。
まあ、トゥルクの正体については、今はそれほど重要ではない。
とりあえず、このステータスが本当ならば、彼女が本気を出さない限りはミラともちょうどいいトレーニングが出来そうだった。
縮尺された霊子庭園の中、ミラとトゥルクがこちらの指示を待っている。
「じゃあ、ミラのパッシブを試すから、トゥルクさんは軽く攻撃をしてください」
モニターで拡大した様子を見ながら、シオンは指示を出す。
霊子庭園の中で、さっそくミラが七枚の鏡を出す。
円形の鏡は、縁に七つの宝石が埋め込まれており、神器のような装飾が施されている。ミラの霊具である『七面鏡』であり、それが彼女の持つ武器である。彼女の能力は、その多くを七枚の鏡を介して行う。
トゥルクの方も手を構えて、そこに一振りの剣を握る。
おそらく、それが彼女の霊具なのだろう。刀身が美しい半透明の剣は、華美な装飾が施されていて、切るというよりは叩きつけると言った用途を想像させる。
シオンの支持通り、トゥルクはその剣でミラに斬りかかる。
それをミラは、両手を交差させて受ける。
ズシン、と衝撃が周囲に走った。
震動とともに、ミラの背後にある七つの鏡に、衝撃が伝導する。
続けて、鏡の縁に埋め込まれた宝石にヒビが入る。
「!?」
トゥルクが驚きを見せる。
おそらく手加減はしていたのだろうが、それでも剣による一撃は軽いものではなかった。重量によって叩き切るような衝撃は、そのほとんどが逃されていた。
それだけではなく、攻撃を加えた方であるトゥルクが、衝撃にのけぞっていた。大きな怪我はないようだが、ダメージを受けた様子がある。
「いったい、これは?」
「ミラのパッシブだよ」
ノキアの疑問に対して答える。
ファントムには、因子一つに対して、対応する『パッシブスキル』が存在する。
それはファントムが特別意識せずとも、条件を満たせば発動する受動的なスキルである。
これがあるため、一般的に因子数の多いファントムが有利と言われている。
ミラのそれは、攻撃によるダメージの分散と反射だった。
自身の肉体に食らったダメージのうち、全体の七割を七分の一にして、七つの鏡に移す。そして、残りの三割のダメージを相手に跳ね返すという強力なものだった。
「『
むん、とない胸を張って、ミラが答える。
そのネーミングセンスはともかくとして、最初に効果を聞いた時は、恐ろしく強力なパッシブだと思ったものだ。
「弱点としては、一度に受けることのできるダメージ量に限界があるのと、間接攻撃には発動できないってことだな。あと、鏡本体を攻撃されても発動しない。それがバレていたからこそ、模擬戦では真っ先に鏡を狙われていたみたいだが」
もっとも、ミラ本体に対して生半可な攻撃が出来ないというのは変わらないので、手の内がバレていても利用価値は高い。
おおよそ筋力値と魔法力において、Bランク未満のダメージまでならば、このスキルで対応できることがわかっているので、かなり有効なスキルだった。
「へぇ。ミラちゃんって、ちゃんとすごい所あったんだな」
「がんばって、ミラちゃん!」
レオとハルノの声援に、ミニチュアサイズのミラがニコニコと手を振って答える。
それを微笑ましく思いながら、シオンは指示を出す。
「それじゃあ、次はアクティブスキルの方をひと通り試して、その後は僕も入るから、実践形式の練習をしよう」
アクティブスキルとは、ファントムの持つ因子を利用して魔法効果を発動させることである。
パッシブスキルが元々備わっているものであるのに対して、アクティブスキルは自由に魔法式を組むことができる。
スキル数としてはファントムの処理能力的に四つが限度で、これの作り方こそが、魔法士側の腕の見せどころといえる。
「ちなみに、元々ミラが自分で作ってたスキルが三つあったんだが」
応援してくれているレオたちに聞かせるように、シオンが言う。
「へえ。三つもあったのか。あれか、こないだのレーザーみたいなやつとか」
「そうそう」
簡単なまとめを見せながら、説明する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
七塚ミラ アクティブスキル
『
光を収束させてレーザーのようにして相手を焼く。
『
目の前の相手の姿を完全に真似る。
『
鏡に写った存在と自身のステータスを同調させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ネーミングセンスはともかくとして、効果自体はかなり強いのが多い。
意外と強力なのが、二つ目のコピー能力だ。
魔法式の構成を解析したところ、どうやら表面上だけでなく、本質的なものまでコピーできるのが可能だった。
相手の技術や経験すらも、一時的に模倣する事ができるのだという。
おそらくは、『カール・セプトの鏡回廊』の機能の一端が具現化しているのだろう。あの迷宮は、取り込んだ力をそのまま運用して、更に成長するという恐ろしい機能を持っていた。
因子一つとは思えないほど、彼女の能力は多岐にわたっている。
七塚ミラには、『鏡』という要素が持つ全てが内包されていると入っても過言ではないだろう。
ちなみに、三つ目の『
それについて、レオが不思議そうに疑問を発する。
「ん? 何が悪かったんだよ。これなら、どれだけ傷を負っても相手にその傷を負わせたり、自分が回復したりできるじゃんか」
「傷を負わせる方は、確かに有用だ。だけど、その逆の回復が難しいんだよ」
簡単にいえば、キャパシティの違いである。
例えば、自分の最大キャパシティよりも多いものを写し取ろうとした場合、そのオーバーした分の負荷が別途襲ってくるのだ。
「わかりやすく言うと、ミラの体力を僕に写した場合、僕の身体は弾け飛ぶ。ファントムの最大キャパシティと、人間のキャパシティじゃ、明らかに人間のほうが小さいしな」
「はぁん。なるほどな」
説明を聞きながら、レオは的確に疑問点を口にする。
「それじゃあ、逆にお前の体力をミラちゃんに写した場合はどうだ? それなら、キャパオーバーはしないだろう」
「オーバーはしないが、その場合、ミラのステータスはがくっと下がる。いくら低いって言っても、人間よりは十分強力だ。それを自分から下げるのはあまり褒められたことじゃないな」
そんなわけで、非常に扱いづらいスキルなのだった。
それならば敵に傷を負わせる方はどうかと思ったが、ミラの神秘性が低いため、大抵のファントムは自前の耐性で弾いてしまう。相手が無抵抗で受けない限り使えないスキルだった。
ただ、なんとか改良して使えないかと思って、データだけはしっかりと解析している。今のところは、それ以外のスキルを重点的に開発しているところだった。
特に、ミラには直接的な攻撃手段が少ない。
そもそもが、直接戦闘をするようなタイプではないのだ。『カール・セプトの鏡回廊』にしたところで、積極的に害を与えるような霊子災害ではなかった。あくまで受け身で、搦め手のようにして被害者を食らっていく災害だった。
サポート系や間接攻撃こそが本領なのだろう。それを考えると、やはり出場競技としては、直接戦闘よりも戦略による比率が大きいものの方がいい。
「よし、じゃあ次は試作のスキルから試していくから、登録の準備をしてくれ」
そう思いながら、シオンは霊子庭園内のミラに指示を出し始めた。
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