雨上がりに届く青い手紙


その手紙は夕焼けにまぎれてやって来た

夕立の後の真っ赤な夕焼けに

雨と土のにおいに包まれてやって来た

滴るような雫色の封筒に

夜から貰ったインクで書かれた

透明な便箋の一通の手紙


それは僕にしか読めない手紙で

震える消えかかった細い文字の

それでも僕だけに届いた手紙は

僕だけの大切な言葉になった


この世界に住む、僕とその人と

たった二人だけに、読める手紙は

青い風の中に少しずつ消えていく

透明な輝きは、夕焼けの赤とともに

待っていてはくれず風に消えていく

その言葉は、僕にしか届かない言葉は

僕にさえ、少しずつ読めなくなっていくだろう


だから、僕はそれを読めなくなってしまう前に

僕だけに届いた大切な言葉を

この世界で僕だけが持てた感情を

僕の大切なただ一人に届けようとして


たった一人に宛てた返信を

青い封筒に入れて出した


それはひとり雨だれを聞きながら

まだ郵便受けの前で待っている、

泣きすぎた夕焼け空の向こうを

腫れた目で寂しそうに見つめている、


たった一人の誰かに届いて

言葉が、開かれたその日一日だけ

その人をほんの少し幸福にするといい


そして手紙が風に消えてしまったあとで

一度だけ、夕焼けにふと思い出されて

その手紙の中のたった一言でも

また次の誰かに、宛てられた手紙に

込められて生きてゆくのなら僕は幸福だ


透明に消えてゆくひと言の手紙が

弱いつながりを保ち、その色は失われ

たったひとりの読者に手渡され

少年の初恋めいた手紙に

こっそり込めた不器用な言葉が

受け継がれ、どこかで生きていくといい

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