透明な水色に満ちる雨の歌


傘を打つ雨の音を聞いている

軒下の空き缶に雨だれの穿つ音

遠いアスファルトに広がる音の膜


いつか、この音を全部繋げて

歌にしてみたい、そう言ったのは

青いまっさらな長靴を履いて

いちばん美しい音を奏でていた君


雨は天球にひとしく降って

無数の和音を奏でていたけれど

モノクロの音楽には何か足りなくて

世界はその青を必要としていたのだ


その青は、世界一美しい水音は

灰色に流れてゆく東京の水を

ひとつのカラフルな音楽に束ねて

全世界共鳴の交響楽を奏でた


雨の音をつなぎ合わせて歌にする

無数の変拍子にまぎれた鼻歌のアルトを

今日もまた、灰色の雨音の中で

思い出し、不味い煙草を吸っている一人


この雨が、少年の吸う煙草のように

透明な水色の歌になればいい

君のかすかな声だけはまだ

傘を打つ雨の中に響いている


僕の中に歌う少年の瞳には

少しずつ透明な水色が満ちていく

その透明さは美しくおそろしく

いつしか少年の姿のすべてさえ

透明に消し去っていってしまうだろう


僕はまた灰色の煙にむせながら

目にしみる雨粒を拭って雨を聴く

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