素足に風を感じ、いつか海を渡れ
軋む音を立て過ぎ去ってゆく八月を
僕はただ見送りながら手を振るしかなかった
青色に暗転してゆく波打ち際に埋もれながら
波の音は渇き恐ろしく渦巻いていた
自身を形づくる砂像が内側から崩壊していったとき
君はまだもろい外殻を必死で固めようとするのか
砂時計の最後の一粒が奈落に消えようとするとき
君はまだからっぽの空間に結ぶ虚像を夢見るか
暗転する砂浜には水飛沫が散っている
空から霧雨が揺れながら降りてくる
その交ざりあう二種類の水の間で
僕は波打ち際に転がる砂の玉を数えていた
いつか記憶の中の少年がそうしたように
濃度1%の塩水を吸った砂の玉は
そっと指先にのせれば適度な重さを持つ
しかし少年よ、君は永遠でないのならば
零れた塩水を吸った砂の玉を、その細い指先で砕いてしまえ
僕は君と波間を思い出すために
化石みたいな胡桃をふたつ拾って
ポケットに入れて持って帰ろう
宇宙船みたいな殻に閉じ込めた
いつか君の記憶が崩れ去る日まで
もろい砂像が揮発してしまうまで
ポケットの胡桃を小さく鳴らそう
少年よ、永遠に美しい追憶の少年よ、
現実の彼が去ってゆくその夜に、
彼方へと走り出し、いつか火花を散らせ
少年よ、そして燃えながら崩れてゆく砂の像よ、
肺を満たす社会に溺れながら、
素足に風を感じ、いつか海を渡れ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます