【詩集】雨に捧ぐ―無価値な抒情詩

悠月

雨に捧ぐ―無価値な抒情詩


君の中から僕の知らない君が生まれて

かつての戸惑う君は消えてゆく

自信に満ち溢れている君が多くなり

もうあの寂しい目をしなくなってゆく


僕は君を何者かにしようとしたが

何者かになってゆく君を見る嬉しさは

同時に寂しさのが何倍も強いと気づいた

君は僕の知らない君になってゆく


春、雨の朝のにおい

このにおいを僕は知っている

これは君の好きなにおいだ

そうして僕が知る君自身のにおいだ


傘を打つ雨はパラパラかなしく

教室の机はしっとりと濡れている

そのなめらかな表面を、そっと、

そっと撫でる君の人差し指を

ずっと見ている僕、雨の朝の

その何もなさこそが僕の幸福で

雨の朝のにおい、それを僕は

いつまでも忘れられないで生きてきたんだ

そして雨、そしてまた、雨、雨

このにおいに僕はまた思い出す

雨、この空と同じ名前を持つ君を


雨は止み、薄らいでゆく明るい空に

太陽を睨めつけるのは僕だけでいい

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