Takeout5:『ドキッ! 無敵だらけの能力大会~ポロリもあるかも(首の)』
「どこに行くんだ?」
「屋上です」
「扉は閉め切られてるぞ」
「立入禁止とはどこにも書いてませんよ」
マジシャンが物を取り出す動作のようにくるりと手を回転させて、忍冬は一本の鍵を人差し指と中指の間に挟んだ。
ついてくる二人に、背中越しに微笑む。
「腹に一物や二物抱えてそうなツラだ」
「レンくん、聞こえるよ」
「聞かせてるんだよ」
誰も彼も自分よりTPが上なのが気に入らないレン。不機嫌さを隠そうともしない。
アザミに関しては一般人と認識してるので対象外である。
屋上へと続くドアを難なく開きながら、忍冬はくっくと笑う。
「つれないなぁ。僕が仲間になれば色々お得なのに。今なら入お友達金も年お友達金も無料、今すぐご登録をって感じですよ」
快晴の元、忍冬は座り込んで包んであった重箱を広げる。
三段重ねである。見た目によらず大食感のようだ。
「てめーはTSUTAYAか。無料無料言ってる奴は別のとこでこっそり料金請求するって相場が決まってんだよ」
(TSUTAYAって入会金いるんじゃなかったっけ……)
レンもアザミも、とりあえずは座って食べかけの弁当を広げ始めた。
「僕はお金は取ったりしませんよ。ただ、有事の際に力を合わせられるようにってだけです」
「要するに都合よく扱える駒が欲しいってだけだろ」
「人聞きが悪いですね。まあ否定はしませんし、そう思うのでしたら先輩も僕の事を都合よく使ってくれて結構ですよ。いきなり信用しろと言うのも無茶な話ですからね、《焔の神等大魔導師》……レン・ハイウェルン先輩?」
三日ぶりに向こうでの名前を呼ばれ、ミートボール(アザミ作)を口に運ぶ手が止まった。
「正面切って戦うタイプじゃない……だったか」
「そういうことです。僕の
「なるほど……データは筒抜けってわけだ。手下になんなきゃ明日には俺の個人情報がツイッターのトレンド入りってか」
そこまで言われると、流石の忍冬も眉を潜めた。
「……随分ひねくれてますね先輩。別に先輩が敵に回ったりしなければそんな事しませんよ。メリットが少なすぎます。それに、手下じゃなくて仲間。気に入らないなら同志でも敵の敵でもいいですけど、上下関係は求めてませんよ」
「ご、ごめんね忍冬君。レンくん昔から自分より何かしら優れたものがある人にはすぐ突っかかる面倒臭い子だから……」
今まで黙っていたが、険悪な雰囲気になりそうだと思い慌ててフォローを入れるアザミ。
「お前の方が面倒臭いだろ! このストーカーホモ!」
「ひどい! あー、ボクの玉子焼きー!」
「……ん?」
大人げなく
一方の忍冬は、今の発言に疑問を覚える。
「ホモ? その……彼女さんの事?」
「ああ。アザミは男だ。その能力で視えねーのか」
「またまたご冗談を……」
忍冬はアザミをじっと観察する。
「す、スリーサイズとか見ないでね」
「男のスリーサイズってどこに需要があるんだろうな」
照れるアザミの全身を、上から下までX線のようなエフェクトが通っていく。
忍冬も敵になり得ない女性(少なくとも見た目は)のプライバシーを覗き見るほど趣味が悪くない。
全解析ではなく、ポイントで絞る。
「えーと、性別っと」
忍冬の視界はスキャン機械を通したかのようにデータがすぐさま表示される。
はずだった。
『Unknown』
「どうだ?」
「……性別不明になってますけど。どゆこと?」
「俺が知るか! ……ハッ!?」
思えばレンは、アザミの性別を……本気で確かめた記憶は無い。
まだ女装する前は一緒の教室で着替えたりしていたが、女子も胸が膨らむことなどそうない年齢。当然といえば当然だが、パンツの中身まで見たことは一度もなかった。
(アザミが本当は女の可能性が……ある……のか……!?)
レンの脳天を、稲妻が貫いた。
未だかつてない衝撃。
異世界に行って帰ってきたことよりも、遥かに価値観を一変するようなショックを受ける出来事だった。
深呼吸して動機を抑え、なんとか平静を保つ、レン。アザミの両肩に手を置き、厳粛に言う。
「アザミ、服を脱げ」
「嫌だよ!!」
当たり前である。
「先輩、変態っぽいですよ。っていうか完全に変態ですよ」
「まあ聞け出歯亀天パ」
「先輩僕のこと本当嫌いですよね。何ですか?」
「アザミは俺の幼馴染で、男友達だ。俺はそう認識してる」
「はぁ」
「顔だけならはっきりいってそこらの女どころか異世界の美女すらも霞む激マブだ」
「激マブですね」
「だが所詮は男。恋愛対象になり得ないと思っていた。が。実は『お、お前……女だったのか……!?』展開だったとしたら……?」
「!!!!!!!!!」
クールでミステリアスなトリックスターを気取っていた忍冬が目を見開いて口に手を当てる。
「それは……素敵なシチュエーションと言わざるを得ませんね……!!」
「だろう……!!」
ガシィ!!
二人は固く握手を交わした!
TPに劣等感を抱き忍冬を最初から疑ってかかっていたレンと!
他人は所詮自分の駒であり、逆もまた然りとドライな思想を持っていた忍冬に!
今!
真の仲間意識が芽生えたのであった!!
爆発!!!
「へ?」
「爆発?」
レンと忍冬が手を握った瞬間、背景の商店街が轟音と共に爆ぜた。
黒煙がもくもくと立ちのぼっているのは、レンとアザミが帰りに買い食いするだんご屋の近くである。
「何だありゃ……アザミ、ちょっと行ってくる!」
レンは躊躇なく屋上から飛び降り、当然のように着地した。
「僕も行きますよ先輩。どうやら、只事じゃなさそうだ」
忍冬はジャンプと同時にどこからともなく――
走りだそうとするレンと忍冬。その頭上から、アザミの声が響いた。
「ぼ、ボクも!」
「いっ!?」
なんと、アザミも続いてぴょんと屋上から飛び降りたのだ。
「うおおおお!? 何してんだ馬鹿!!」
慌てて着地点に先回りし、小さな身体を見事受け止めるレン。
お姫様だっこの形になりアザミは赤面するも、自分で立ち上がる。
「お前は一般人と大差無いんだから引っ込んでろ!!」
「嫌だよ! レンくんが傷つくかもしれない、それを見るのは嫌だけど……離れるのはもっと嫌。どこか、遠くに行っちゃいそうで……」
レンの制服の裾をぎゅっと握りしめる。
「……そうだな、守るって約束したもんな。わかった。ただし絶対に、俺から離れるなよ」
「……うん!」
二人のラブラブっぷりを見せつけられた(少なくとも彼にはそう見えた)忍冬はやれやれと肩をすくめて、
「まあ、僕と先輩の二人がかりでどうにかならない事なんてそうそうないと思いますけど。どうやら先輩、TP以上の強さはありますし」
と言って先を促した。
かくして三人は、爆心地へと走っていく。
(救助活動だけで済む、はず……うん、きっとそう……)
アザミの希望的観測は、見事に外れることになる。
これ以上無く、見事に。
Takeout5:『ドキッ! 無敵だらけの能力大会~ポロリもあるかも(首の)』
「椚さん! どこにいるんですか!! 椚さん!!」
人々が逃げ惑う中を逆行して三人がたどり着いたのは、行きつけのだんご屋だった。
椚さん、と言う七歳年上のいつも気だるそうに煙草を吹かしてる女性がいるはずである。平常時、なら。
店は半壊し、半ば瓦礫と化していた。
いつもアザミが座ってる窓際の特等席はテーブル毎そう広くはない店の中心まで飛ばされ、ものの見事にバラバラになっていた。
「返事して下さい! 椚さーん!」
レンもアザミも、必死になって彼女を探す。
忍冬は冷静に、現場から状況を導くがため思考を始めた。
(これは、何か大きな衝撃の余波……やはり
店の外を見る。
ここだけではない。周りの建物と言わず道路と言わず、台風と大地震が同時に来たような有り様だった。
地面は陥没、あるいは隆起し、建造物は圧縮、ないし分解している。
「その奥にいますよ、誰か」
「……っ……!!」
「……これ……嘘……」
それに従って奥へと進んだ二人が目にしたのは、倒れた食器棚と、その下から伸びた細い手だった。
最悪の想像を振り払い、急いで
その下には、うつ伏せで顔だけ横に向いている女性がいた。目を虚ろに開いたまま動かないその人物は、レンとアザミのよく知る人物だった。
レンが何度もアプローチし、幾度と無く振られ続けながらもなお思慕を寄せていた近所のお姉さんであった。
「椚……さん……」
アザミにとっても、姉のような存在であった。いつもアザミにだけお茶を無料で出してくれた。レンと言い争いになった時は味方してくれた。
その女性は、もう動かない。
「嫌だ……嫌だよ、こんなの……! 死んじゃ、嫌だよ……椚さん……!!」
かつての記憶が蘇る。
誰も救うことができず、目の前の人が次々と死んでいった……あの異世界での、日々を。
もう、あんな事は起こらない。
そう思っていた。のに――
「いや死んでないよ?」
動いた。
「うおおお!?」
「ひゃああああ!?」
「勝手に殺すな。この程度の事で死ぬようなあたしじゃねーっつーの。動けないし叫んでも誰も来ないから体力温存に寝てただけ。……つっ、あいたたた……」
「椚さん目開いて寝るんだ……」
心臓が飛び出るほど驚きながらも安堵するアザミ。
レンは急いで椚を抱き起こし、肩を貸す。
忍冬は彼女が生きてる事を知っていたが、すぐに気づくだろうと部屋の調査を優先していた。
「どっか折れてたりしませんか?」
「ちょっとばかしケツと背中と、あと頭打っただけ。動くのだるいけど……ったく、あたしとした事がまさか、レンごときに身体を許す羽目になるとは……殺すしかない」
「誤解を招く言い方はやめて下さい椚さん。あと殺すのも勘弁して下さい椚さん」
「あ、今ケツとおっぱいと太もも同時に触ったな? 殺すしかない。次から貴様に出すだんごは全てホウ酸だと思え」
「肩貸してるのに俺どんだけ器用なんですか椚さん。恥ずかしいのはわかったから早く逃げますよ」
「うー、不覚……」
ポケットからゴソゴソとJPSとライターを取り出し、咥えて火をつける。
忍冬は彼女を軽く視て、軽い打撲が数箇所と出た結果に、特に急を要する容体ではないと判断した。
「……ま、とにかく命に別状はないみたいですね。僕は先に行ってもう少し調べてきます。先輩とアザミさんはその方を安全な場所へ避難させて下さい」
「う、うん……忍冬君も、気をつけて」
そういう訳で、忍冬は二人と一端別行動を取り、商店街の奥へと駆けて行った。
幸いにも、人的被害はそこまででも無さそうだった。通りがけに建物を軽く
(
前方20m先の交差点を右、そこから40mのところに熱源反応……人間のものだ。それがいくつかあった。そしてそれらは、中心の一つと散らばったいくつかの点を除いて、目まぐるしい速度で動いていた。
「………………なるほどなるほど……」
それらのTPを確認し、現況は大体理解できた。
あまり良くない、どころか……これ以上はそうそう無いほどのバッドな状況に、忍冬は一瞬逃げようかなとも考える。
「そういうわけにもいかないか……!」
だが、彼もまた最強の一人。仲間を率いての戦術的撤退はあり得ても、この状況で一人逃げ出すのは彼の
右折。
そこに見えたのは、戦いを繰り広げる七人の
『Takeout-Percentage:1.3』
《黄昏の剣聖》呉竹 学。
一番低いTPでありながら、六人の中でも一、二を争う近接戦闘の強者である。
『Takeout-Percentage:3.55』
《
局地的な暴風による攻撃に加え、酸素濃度の調節によるサポートは味方の行動能率を飛躍的に上げる。
『Takeout-Percentage:4.3』
《八百万の神降ろし》柊 正広。
常に『大天狗』を足に降ろすことによる爆発的な推進力と『酒呑童子』を降ろした屈強な腕で攻防に活躍する。
『Takeout-Percentage:1.75』
《七色の魔弾》藤宮 仁。
超音速のスピードで自由自在に曲げることができるパチンコ球を絶え間なく発射しながら、貫けぬものは異世界でも存在しなかった星貫弾で急所を狙い撃つ。
『Takeout-Percentage:9.5』
《生命の神泉》柳 祐介。
高いTPと貴重な急速回復能力を持つ。死者蘇生こそできないものの、即死さえしなければ全ての傷は瞬時に癒やすことができる。
『Takeout-Percentage:14』
《絶対無敵神聖防壁》葛葉 氷雨。
六人の中で一際高いTPを誇り、その能力で全ての仲間の急所を守護している。柳と並んで、このメンバーの生命線である。
『Takeout-Percentage:100』
《六術皇》覇王樹 冥。
一人……単身で
一目見ただけでわかる。奴は異常だ。
自分と違って直接戦闘向きにも関わらず、馬鹿げたTPを保有している。
そして、それを使って彼らを抹殺しようとしているのだ。
いや、彼らだけではない。少なくとも、
絶望的な状況だった。
誰か一人でも欠ければ程なくして崩れてしまう防衛戦。
そして覇王樹は、未だ本気を出していない。もしも本気を出していれば、六人は自分が死んだことすら気付かずに全身を一万の肉片にされていただろう。
にも関わらず、駆けつけた時には既に満身創痍――精神面、疲労面において――と言った状況だった。
柳、葛葉は100%を出せないことにより能力使用の限界が近づき、呉竹や柊の怪我に回復漏らしが発生している。
「……頑張ってたみたいですね、みなさん。加勢します」
「――援軍――で――ござる――か――! ――ありがたい――!」
息を切らしながらも、必死に奮闘する呉竹。絶望に染まりかけていた伊吹の目にも、光が灯る。
「俺一人で十分、と言いたいところだが……そうもいかんよな……」
「よく来てくれた……奴はヤバい! ここで倒さないと被害はこんなもんじゃ済まないぞ!」
腹に戦車砲のような戯れの蹴りを食らった呉竹をキャッチしてシャッターにめりこみつつ、柊も叫ぶ。
「…………」
藤宮もサングラス越しに信頼の視線を投げかけ、口元を僅かに歪ませた。
「TP32.5……! でかいぞ……!!」
「今俺達がいるのは異世界じゃない、ここだ……! 力を貸してくれ……ッ!」
意識が朦朧としていた柳と葛葉も彼の登場に、希望を見出す。
「……いいところに来た。あまりにも張り合いが無くてな。そろそろ殺してしまおうか迷ってた所なんだ」
忍冬……新手の
まだまだ、こんなものでは足りない。
各々が持つ最強の幻想を打ち砕き、絶望の果てに殺す。
無感動な彼にとって、強者気取りの愚昧を遥か高みから踏み躙る事以外に、さして面白い事もないのだ。
異世界でもそうしてきて、果てに神を殺害した。
そしてTPの制限を受けることなく、元の世界に戻った彼は。
全ての最強を軽く屠るべく、
「『
忍冬が呟くと同時に、その場にいる全員を包み込む半球形の巨大なドームが生成される。
この中には弱者が入ることはできず、周りを気にすることなく戦闘が可能である。
「『
続けて、六人の疲労が全回復し、傷が完璧に癒えた。その結果として、精神ダメージも全回復する。
彼が戦線に立った時に一度だけ発動できる、サポートアビリティである。
「『
間髪入れず、味方強化のサポートアビリティを入れる。異世界においては戦闘中のみレベルアップ。この世界においては、TPがそれに該当する。
値は忍冬を基本数値とした10%、小数点以下切り捨て(TPの制約込み)。
「『
最後に、味方全体の視覚、聴覚を連動させ、敵味方の詳細情報をリアルタイムで共有するサポートアビリティを立ち上げた。
声で指示するより速く正確に情報を送り、これ以上なく連携をスムーズに行うことができる。
忍冬は、胸と目の奥に熱を感じていた。
これまで自分こそが一番だと疑わず、小競り合いを始めるようなプライドの高い
協力し、ボロボロになってまで……自分達に都合のいい世界ではなく、嫌な事も多かったであろう元の世界を守ろうとした事に。
何かを、感じた。
(僕にも、こんな感情があったんだ……)
それが何かはわからない。
何かはわからないが、熱かった。
「第二ラウンド……行きますよ」
『Takeout-Percentage:32.5』
『Takeout-Percentage:1.3』→『4.3』
『Takeout-Percentage:3.55』→『6.55』
『Takeout-Percentage:4.3』→『7.3』
『Takeout-Percentage:1.75』→『4.75』
『Takeout-Percentage:9.5』→『12.5』
『Takeout-Percentage:14』→『17』
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