Takeout4:『この世界…なんかおかしい…ダンジョンが…ダンジョンが一つもない…!』
『Takeout-Percentage:3.5』
『Takeout-Percentage:4.2』
「お前、《地獄の破壊者》の事知ってるか?」
「《地獄の破壊者》?」
《
「俺のとこの神様……ああ、お前は神様の知り合いばっかりなんだっけ。ほらあれだ、道案内と言うか、
「ああ、どうやら俺の世界の神とお前の世界の神はそれぞれ別物らしいな……お前のところはどうだが知らんが全知全能を謳うだけあって、相当神格は高いぞ。で、その神がどうした」
「そいつが言ってたんだ。『《地獄の破壊者》は既に、自分に
「……それはひょっとして、《統括大殺陣》のことか?」
「何?」
「似たような話なら俺も聞いた。何のために俺に力を与えたのかを尋ねたら、『《統括大殺陣》が現れた時に立ち向かえるように、だ。奴について話せる事は少ないが、一つだけ確実な事は……それは、神より強い』、だとよ」
「なるほど、そうかもな……しかし、全知全能を自称する神が一人の人間を怖がってたら世話ないな」
「まぁな。だが、神って言ったってピンキリだ。あの自称全能神だって確かに強いが、
「同感だ。第一、全知全能を名乗る神が複数いるってのもどうなん…………」
伊吹の台詞が途切れた。
「どうした?」
柊が彼を見れば、呆けた顔で真正面を見ている。
その視線につられるように、柊もそれを確認した。
「……神か。確かに大したことは無かったぞ。所詮は生物、あっけなく壊れるものだ」
『Takeout-Percentage:100』
ゆっくりとこちらに歩を進める、銀髪を垂らしたロングコートの男が一人。
二人が固まったのは、彼の目を見たからである。
人を見下す、などと言うレベルではない。自分以外のあらゆるものを壊す事にほんの少しの躊躇いも持っていない眼をしていた。
通行の邪魔だったから。見た目が気に食わなかったから。声が耳障りだったから。
そんな理由で…………否――
――特に理由もなく、こいつは人を殺せる。
「こいつが……神殺しの男……!!」
「じゃあ、《統括大殺陣》だか《地獄の破壊者》って言われているのは……お前……か……!?」
あまりに唐突すぎる非常事態の来襲に神経をささくれさせる伊吹と柊。彼らに対し、男は静かに、しかしはっきりと聞き取れる声で告げる。
「知らんな。色々と妙な言われようをしてたが、他人が俺をどう呼ぼうが興味はない。どうせ……等しく死ぬんだからな」
彼の手に、抜き身の『鳴鵲』が現れる。
それは、濡れたように鈍く光る不吉な鉛色をしていた。
「来るぞ……ッ!」
「……いくらなんでもちょっと分が悪いが……やるしかねぇよな…………!!」
二人に敵前逃走の文字は無かった。
驚愕することはあっても、恐怖することはない。
数十倍の戦力差を、本気の本気で覆そうとする顔をしていた。
ひとえに、最強であるが故に。
「俺はお前らとは根本的に違う」
男の無表情は、つまらなさそうにも見えたし、興味深そうにも捉える事ができた。端正なその顔が、二人にはひどく不気味なものに映る。
一歩。
「俺は戦うことが好きなわけでも……」
また、一歩。
「勝利することが好きなわけでもない。俺は……」
近づいてくる相手が、死そのものであったとしても。
自分の最強が、幻想だったとしても。
彼らは、逃げる事を拒み続ける。
「――おおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!!」
「――らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
「蹂躙することが好きなんだ」
神を殺した男、覇王樹(はおうじゅ)。
彼の目的はただ一つ――異世界転生者の、鏖殺である。
Takeout4:『この世界…なんかおかしい…ダンジョンが…ダンジョンが一つもない…!』
「つーん」
隣の席のアザミは頬を膨らませてそっぽを向いている。
昨日から昼休みの今までずっとこれであった。
「おいアザミいい加減機嫌戻せよ。女子からの好感度が下がりまくりなんだけど現在進行形で」
レン(ほぼ彼氏扱い)がマスコットであるアザミを怒らせたとあらば、集まってあらぬ噂を立てる女性陣。
一方ぷくーと膨らんだアザミはそれはそれでかわいいと評判だったりする。頭は撫でられるし髪は三つ編みにされる。理不尽である。
「つーんつーん」
別にレンが女子にモテなくてもアザミは全く困らない。と言うよりむしろモテない方が好都合であるので、尚更アザミは機嫌を直す気になれない。
「何でボクが怒ってるかホントにわかってるの?」
「こないだのカラオケでお前がチョコレイト・ディスコ歌ってる時に俺がオタ芸打ったからだろ。男同士のカラオケでperfume入れる方が悪い」
「違うよ!! それも怒ってるけど違うよ!!! 昨日の件だよ!!!!」
(冗談で言ったのに地味に根に持ってやがった)
一応、アザミがあまり歌が上手くないので盛り上げようと思った末の行動である。
「わーってるよ。日本刀振り回すデブニートとやりあった時ちゃちゃっと叩きのめして『この勝利を君に捧げよう』とかそんな感じのことやってほしかったんだろ。ったくめんどくせぇホモだな」
「違うよ!! 全然わかってないよ!!! 呉竹さんと戦った事だよ!!!!」
机を叩くアザミ。タコさんウィンナーがぴょんとジャンプした。
「言ったよね。常日頃から言ってるよね。ボクは争い事が大っ嫌いだって」
割と本気で拗ねているアザミに対し、レンは心底面倒くさそうな表情を見せる。
「見たくないなら放っておいてとっとと帰ればよかっただろ。なんであそこに残ってたんだよ」
「手を繋いで一緒に帰りたかったから……」
「お前は俺の彼女か!」
「違うの!?」
「違うよ!! 性転換してこいマジで!!!」
言った後でレンは、
(本当に性転換されたらマジで困るな。拒む理由が無くなってズルズル結婚まで持ち込まれそうだ)
と迂闊な発言を後悔しかけたが、アザミはただのツッコミとみなしたのか話を戻した。
「それに、レンくんが誰かを傷つけるのが嫌だったんだ。誰かに傷付けられるのも嫌」
切実そうにそう言うアザミ。
レンは少しだけ、腹が立った。
「……あのなぁ。お前が争い嫌いなのは別に勝手だが、それを俺に押し付けるんじゃねーよ。俺は最強だったし、今でも誰かに負けるつもりはねぇ。逃げるなんてもっての外だ。
別に呉竹の野郎だって殺すつもりで戦ってたわけじゃねぇんだ。自分の強さを確かめるために合意の上で戦ってたんだ。そこに第三者がとやかく言うのは筋違いだぜ」
「……」
アザミはそれを聞いて、反論しなかった。
あの場でぶつかってたのは二人のプライドである。
日本の法とか、自分の心情とかではなく。二人の間で正しいのは、どっちが正しいかを決しようとする……二人そのものであった。
「俺のやり方が気に食わないならついてくんな。彼女気取りは百歩譲ってやってんだ、それ以上わがまま言うなら絶縁も考えるぞ。いいな」
「…………」
イエスともノーともアザミは言わなかった。
俯き気味に、スカートの裾を握りしめている。
「……あ、ちょっと言い過ぎたか。悪いアザミ。絶縁はナシだ」
「……うん。ボクも、ちょっと干渉しすぎてたかも」
お互いに気まずい雰囲気になってしまった。
(こんなつもりじゃなかったんだけどな……)
レンはやれやれとため息を吐き、少し笑いかけるようにアザミに尋ねた。
「まぁ、お前が戦いが嫌いなのもわかるよ。怖い思いしたんだもんな。でもさ、何か大切なものを奪われそうになったら、戦わないとダメだぜ? 守るために、さ」
「ボクの、大切なもの……か……」
自分の手のひらを眺めるアザミ。
(なんだろう……命? でも……戦うくらいなら……死んだ方が……)
異世界での恐怖を思い出す。その手は、凍えているかのように震えていた。
「っても、アザミに戦えるわけねーか。大丈夫だ、俺が守ってやる」
ぽん、と手を頭に置かれてレンが優しく笑った。
(あっべ、暗い表情だったからつい異世界のクセで格好つけちまった……アザミはこれでも男だぞ、一応……)
「……ありがと」
アザミは更に俯いてそれだけ呟いた。自分がどんな表情になっているのかはわからなかったが。
震えは、止まっていた。
「失礼しますよ、紅花先輩。それと……お? そっちの彼女さんも戻ってきたクチ……なのかな?」
巻き髪気味の男。
違う学年……言葉から察するに後輩のニヤけた人物が、開いていた教室のドアから入り込んできた。
「
(レンくんもそう呼ぶ事にしたんだ……)
「ああ、TP? そんな気にしないで下さいよ。僕は直接戦闘はメインじゃないんでね……まあ教室では変な奴に思われます、ちょっと場所移動しましょうか」
「……戦る気か?」
「全く、みんなして同じ事言いますね。だから僕は正面切って戦うタイプじゃないんですって……」
笑みを絶やさない男は言外に、搦手を使えば負ける気は無いと匂わせていた。
他人に聞こえないように小声で、彼は名乗る。
「僕の名前は忍冬(すいかずら)。ちょっと前まで《神域の踏破王》と呼ばれてた……
仲良くしましょうよ、先輩方」
『Takeout-Percentage:32.5』
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